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星跨ぐ者達の独白

 物語を書こう。

 俺の考えた、とっておきの物語。

 空飛ぶドラゴン、不思議な剣、ピカピカ魔法に知らない村や街。

 素敵でかっこいい物語で、友達みんなで旅をする。

 今回も結構面白く書けたんじゃないかな。ドラゴンの絵も、結構かっこいい感じに出来たし。

 明日学校に持ってって、まずはケイにみせてやろ。

 ケイは俺の作る物語が好きみたいだから。いつも目をキラキラさせて読んで、小説家になれるよって褒めてくれる。

 お世辞かな? 多分違うと思う。

 今回も喜んでくれたらいいな。







 文字を書こう。

 孤独を紛らわす、その場限りの物語。

 筆を動かしている間なら、惨めな日々の繰り返しを忘れていられるから。

 アイツみたいに絵は描けないから、アイツがやらない小説を。

 正しく清い勇者、反吐が出る邪悪。正義を崇め邪悪を拒む人間たち。

 そこに俺はいない。

 俺は存在しなくていい。望む正義がありさえすれば。

 友もいない、愛されることもない、何もない俺が、世界に存在したとして、なんの意味もないし、それどこか邪魔だから。

 だがやはり、どれほど望めどそれは架空。

 この世界は、悪意に満ちているのが当たり前。

 だからリアリティがないんだ、再現性がないんだ、ありえないんだ。

 こんな恥ずかしい物語、世界にあって許される?

 そんなわけないだろう。

 今日の駄作も、夜にはバラバラの紙切れになる。







 何もしたくない。何もない。

 不可思議世界を共に行く友だちも、嫌いな奴を悪役に投影して悦に入る単純さも、既に喪った。

 全て無駄。

 この世界に居場所はない。この世界に俺は求められていない。

 水でしわくちゃになったノートと教科書。

 泥のシミが落ちないままの普段着。

 蹴られて歪んだランドセル。

 新品だったのに足跡がこびり付いた学生カバン。

 新品だったのにボタンがちぎれた制服。

 もうどれも使わないから、クローゼットの奥に投げ込んだ。

 この暗くて狭い部屋が俺の全て。

 未来も救いもない俺なんて、とっとと死んでしまえばいいのに。

 なのに死なない、いつの間にか文字を書いている。

 応募するわけでもないのに、誰かに見せるわけでもないのに。

 求めてくれる人なんか、見せる人なんか、見てくれる人なんか、いないのに。

 この世界から離れた、平和の中で暮らす少年たちの暮らしを綴る。

 そこに悪意はなく、いじめはなく、ただ懸命に生きているだけ。特別な出来事もないし、抗う敵もいない。

 ……はたから見れば、つまらない物語。

 俺も書くだけで読み返しはしないし、すぐ捨てる。

 ああ、俺も、文字の中で生きる存在ならば、こんな苦しまなくて済んだのに。







 言葉を綴ろう。

 煌めく炎、透き通った水、轟く雷、優しい風。

 君を護る盾、闇に抗う剣、つかの間の休暇に机と椅子。

 喪われつつあった語彙と想像力を総動員した、無数の言葉。

 優しい友を護るため。

 焦がれた世界を護るため。

 手にした本に、一筆で。

 昔、俺は何を書いていたっけ。

 どのぐらい、書いてみたっけ。

 何も思い出せない。

 全部忘れてしまった。

 残ったのは、あの世界が嫌いで、俺自身も嫌いだった、というぼんやりとした感情だけ。

 けれど、それはそれで構わない。

 逃げる足に嵌められた枷を、助けを叫ぶ首を絞める鎖を、責めたて嘲笑う声を繰り返す頭蓋の残響を、縛るもの全てを脱ぎ捨てられた。

 負い目なく、筆が滑るのが懐かしくて心地よい。

 友のためなら、世界のためなら、精一杯かっこよくて美しい言葉を並べるよ。

 美しい炎を従える君。

 美しい歌を奏でる君。

 俺に似ていて、似ていない。

 だから、仲良くなりたい、もっと知りたい、ずっと一緒に居たい。

 君たちとなら、なんでも乗り越えられるような気がする。一緒に行くよ、どこまでも。
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