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ss小ネタ

『耳が痛い』

2023/08/07 21:49
別段音楽を聴きたい気分でもなかった。強いて言うなら考え事ついでに興味の湧かない雑音が欲しかっただけなのだが、ふいに流れてきた歌声に臨也はテレビへ視線を投げた。
アイツが好んで聴いていた曲だとすぐに分かった。皮肉にもアイツの弱味を探っているときに偶然知った情報は鮮度を保ったまま臨也の記憶に保存されていたらしい。
愛する者を失った男の歌は悲壮感がありつつも、どこか優しい。
「……理解しかねるよ」
だってこんなに息が詰まる。
人ならざる怪力を持ち合わせたアイツがこの曲に感情移入していたのだとしたら。
「は……っ」
笑おうとして笑えなかった。
臨也は人から勧められた曲は聴くがそれはあくまで相手の内側を覗く手段に他ならず、勧められた曲自体を覚えていることは稀だった。
勧められたわけでもない、ましてや宿敵の好みの曲なんぞとっとと記憶から消してしまえばいいものを。出来のいい己の脳を呪う。
「あぁでも、元宿敵かな?」
俺は負けたんだから。
白い病室に落ちた呟きを耳慣れたメロディが攫っていく。

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