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Dear E From A


この世界が一つの【世界政府】に統一されたのは、もう二百年も前の話だ。
初めは突然のことだった。元々北を支配していた大国が世界中に宣戦を布告し、それから十年も経たないうちに世界は統一された。
新手の化学兵器が使われ、犠牲は最小限に、しかし決して慈悲はなく。
いくつもの国が、かの大国からの攻撃に耐えられずに手を上げた。
しかし意外だったのは、いわば敗戦国となった国々へのその後の扱いだった。
国民を見せしめとして殺すわけでもなく、奴隷にするわけでもなく。戦争以外での殆どの死者は出なかったほどだった。
その国が必要以上の死者を出したがらなかったのは、国を従わせることができれば、その地に住まう人を支配することに時間はかからないという考えからだった。
実際、それは正しかった。
初めは敗戦国の民として屈辱的な生活を強いられ、遺恨を抱いていた者たちも、戦争さえ無くなれば徐々にその気持ちは失せてきたようだった。
​────雪がやがて草木に溶けていくように、溶けた雪が春の暖かな土を育む露となるように。
戦争から数十年も経てば人々は恐ろしい記憶を忘れ、過去の惨禍を知らない子供たちも随分増えてきた。大国から与えられる安寧に身を委ね、人々は恩恵を享受した。
恐ろしい冬のようであった戦乱の世が明ければ、世界は春を迎え、発展の一途を辿るようになる。
国同士の無益な争いは無くなった。【内乱】はあったがそれも最初の話で、終戦から六十年の間に徐々に右肩下がりに数を減らしていった。
国同士が手を取り、共に世界規模での科学開発を始めるようになったことで、世界は近年稀にみる発展を遂げ、貧富の格差も無くなった。
そして科学開発の中でも最も大きな功績の一つが、【万能薬アスクレピオス】の開発だった。
世界魂学研究所せかいこんがくけんきゅうじょ】が開発したというそれは、まさに名の通りの代物で、治療の見込みのない不治の病の患者に【万能薬】を投与すれば、たちまち病の元から消え失せるという、これまでの歴史上類を見ない代物だった。
この【万能薬】が何から作られるのかと人々は躍起になって調べようとしたが、研究所は決して口を割らなかった。
そもそもこの 【世界魂学研究所】というのも得体の知れない機関で、【万能薬】が造られる数年前突如として作られたこの研究所は、名前に世界と名乗ってはいるが世界政府の後ろ盾も無く、その多くが謎に包まれていた。
【万能薬】開発とともにその研究所の名は世界に轟き、一躍有名になる。今や病と呼ぶべくもない軽い症状に対してもこの薬が使われるようになり、薬は世界の人々にとって無くてはならない物となった。
人々は病さえも克服した。そして次に何を求めるかといえば、もう分かりきったことだろう。

​────【永遠の命】である。
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