IF全員彼氏①:花梨閉じ込め大作戦【完結】
File.11:怪盗キッドの場合
「私のお嬢さん。今宵、あなたは私に盗まれたビッグジュエルです。怖い組織も、怖いお兄さんたちも、誰一人、私の隠れ家には辿り着けませんよ」
そう言って、コナンや安室、関西弁の探偵たちの前から、病院に入院していた花梨を盗み出したオレ。
追っ手は強力だったが、なんとか撒いて連れて逃げてきた。
一週間前、花梨は怪しい連中に拉致され、催眠術をかけられたらしい。
どういうわけか、オレ(快斗)がキッドであることを忘れちまって話が通じなくなってた。
コナンのやつ、花梨は絶対安静だからって、彼女の親代わりに自分の両親を使ってオレまで面会謝絶にしやがって。
忍び込むのに苦労したぜ。
「……キッド、さん……?」
隠れ家に向かう途中に寄ったビルの屋上で、花梨がオレを呼んだ。
いつもは朗らかに微笑むのに、なんか、ぼうっとしてるな……。
「ええ、そうですよ。あなたが大好きな、怪盗キッドです」
「私が大好きなキッドさん……。私が大好きな……キッドさん……」
花梨は念仏を唱えるように、ぶつぶつと同じ言葉を繰り返した。
う、ん……?
花梨の様子がなんかおかしい。
そういや、名探偵が見舞いに来たオレ(快斗)に言ってたっけ。
『会わないほうがいい。きっと後悔する』
後悔するわけねーわ。
だから、予告状を出して盗み出した。
「……花梨嬢、私のことを覚えていらっしゃいますか?」
「私が大好きなキッドさん……」
オレが訊ねると、花梨は焦点の合わない瞳で答える。
「…………ならば、黒羽快斗のことは?」
「くろばかいと……?」
「ええ、あなたの最愛の彼のことですよ」
「私の最愛の彼、くろばかいと……。私の最愛の彼、くろばかいと……」
……また繰り返してる。
目も虚ろだし……。
これ、結構やばいやつなのでは……?
「……あの一瞬で何があったんだよ……ごめん、オレがそばにいなかったばっかりに」
「私の最愛の彼、くろばかいと……」
「……っ、クソッ」
月明かりに照らされている白い彼女は、見た目には
だけど、今の花梨は壊れた人形みたいだ。
オレを見ているはずなのに、オレを見ていない。
「花梨嬢、私が愛の力で、あなたを元に戻して差し上げますね」
しばらく二人きりで過ごしてたら、元に戻るかもしれない。
そう思ったオレは、彼女を再び横抱きに抱き上げた。
ハンググライダーで目的地へ向かう。
向かうは、こっそり借りたウィークリーマンションだ。
人目を避けながら夜の闇を飛んでいると、花梨から聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
「……私が大好きな、新ちゃん」
「…………は?」
「……私が大好きな、零お兄ちゃん」
「…………あ?」
「……私が大好きな、平ちゃん」
「…………はぁ~~??」
夜風がオレの髪を揺らす。
花梨の可愛い口からオレ以外の男の名前が次から次へと出てきた。
「ちょ、花梨っ!? なんだよそれっ!?」
「……私が大好きな、陣平さん」
「ちょっと」
「……私が大好きな、ヒロお兄ちゃん」
「おい」
「……私が大好きな、秀ちゃん」
「ぅオオオオオオイ!」
「……私が大好きな、探」
「っざけんなっ!! 白馬のヤロウ!!」
オレ(キッド)が病室に来る前、確か、白馬の姿を見たな。
っつーか、花梨が好きだと言ってる順番、見舞いの順じゃね?
……これって、あれか?
入院中、あいつらが教え込んだんじゃ……――まで考えて、ブチっときた。
あいつら――!
花梨がまだ催眠術にかかったままなのをいいことに、余計なこと吹き込みやがって……!!
どいつもこいつも同じこと言わせて――!!
とんでもねえ奴らだ!!
盗み出して正解だった。
「花梨嬢ッ! あなたの最愛は黒羽快斗ですよ!!」
「私の最愛は黒羽快斗……」
「そう、思い出してください!」
「私の最愛は黒羽快斗……かいと……」
そのとき、花梨の瞳からぽろっと、涙が一滴零れ落ちた。
「っ、花梨……」
解けかけてる……?
これ、やっぱオレのそばにいれば、解けるんじゃね……?
「私の最愛は黒羽快斗……かいと……」
月明かりの下、ハンググライダーの風を受けながら、花梨の目から零れ落ちた一滴の涙が、夜空にきらりと消えていく。
その瞬間、壊れた人形でしかなかった彼女の金色の瞳に、確かに一瞬だけ、オレを映す「光」が戻ったような気がした。
「そう、そうだ花梨……! オレだよ、快斗だよ……!」
風を切り、夜の闇に紛れてたどり着いたのは、オレが偽名でこっそり借りておいた隠れ家(ウィークリーマンション)だ。
部屋に滑り込み、窓のシャッターを完璧に下ろして鍵をかける。
これで、あの小賢しい名探偵どもも、国家権力を振りかざす公安も、ライフルFBIも、誰もここへは辿り着けねぇ。
「っと……、大丈夫か? 花梨」
ベッドに優しく彼女を横たえ、白いシルクハットとマントを床に放り出す。
花梨はまだ少しぼんやりとした様子で、ベッドのシーツをぎゅっと握りしめていた。
だけど、さっきみたいに他の男の名前を呪文のように繰り返すのは止まっている。
「……かい、と……くん……?」
「! ……ああ、そうだ。オレだよ。お前の大好きな、黒羽快斗だ」
胸が締め付けられるほど愛おしくなって、オレはベッドに膝をつき、彼女の細い手を両手で包み込んだ。
一週間、あの病室で、どいつもこいつも花梨の異能と可愛さに目がくらんで、好き勝手に自分の名前を刷り込みやがって……。
思い出すだけでハゲそうなくらい腹が立つが、同時に、もう二度とこいつをアイツらの手の届く場所に返してやるもんかって、胸の奥の独占欲が真っ黒に燃え上がっていく。
「花梨。お前をあんな目に遭わせた組織の奴らも、お前に余計な記憶を吹き込んだ男どもも、全部オレが忘れさせてやる」
「忘れちゃうの……?」
「ああ、全部だ。これからは、この部屋でオレのことだけを見てろ。美味しいものも、お前の好きな白い猫のグッズも、マジックだって何だって、お前が欲しいものは全部オレがこの手で『盗んで』きてやるからさ……」
そう言って、オレは花梨の額に、そしてまだ少し冷たい唇に、優しく、だけど絶対に離さないという誓いを込めて、何度も何度も愛を上書きするようにキスを重ねた。
「ん……、あ……っ、快斗……くん……、あったかい……♡」
キスを交わすたび、花梨の頬にポッと綺麗な薔薇色の赤みが戻っていく。
金色の瞳が、とろりとした熱を帯びて、まっすぐにオレだけを見つめてくれた。
「……思い、だした……。私、快斗のことが、一番、大好き……!」
「っ、~~~~~よし!!! 合格!!! よく言った!!!」
嬉しさのあまり、ポーカーフェイスなんて完全にゴミ箱に放り投げて、花梨を抱きしめたまま思いっきりベッドに転がった。
花梨が「きゃはは♡」と楽しそうに笑う。これだよ、これ。この笑顔がオレの最高のお宝だ。
スマホの電波は完全に遮断した。部屋の鍵も、オレ以外は誰も開けられない。
あいつらが血眼になって東京中を探し回っている頃だろうが、知ったこっちゃねぇ。
「いいか、花梨。お前の最愛も、未来も、お前を甘やかす特等席も、全部オレのものだ。……一生、オレの檻の中で、大人しく盗まれてろよ?」
「うん……♡ 快斗のところなら、ずーっと閉じ込められててもいいよ♡」
悪戯っぽく笑うオレのプリンセスを、オレはもう一度、世界中の誰にも見つからないように、深く深く、愛の腕の中に閉じ込めた。
おしまい☆
※次ページはあとがき。