IF全員彼氏①:花梨閉じ込め大作戦【完結】
File.8:赤井秀一の場合
Hello kitty ?
君の声は、いつ聞いても心地が良い。
森の中にさえずる小鳥のようだ。
今しばらく聴いていたいね。
「ふぁっ……しゅ、秀ちゃ……ぁ」
「ん……? ああ、ここかな……?」
「やっ、そこダメぇ……」
俺の膝の上に乗った彼女の背が仰け反る。
捲り上げたフリルのシャツの下で、俺は下着越しに花梨の柔らかい果肉を口に含み、白く滑らかな背を擽るように撫で上げる。
花梨の身体が震え、肌が粟立った。
小さな彼女は実に感じやすい。
少し触れるだけで、頬を紅潮させ、熱に浮かされたように俺にしがみついてくるのだから、堪らない。
膝から落ちないよう、俺の肩を掴む花梨は素直に甘い声を上げる。いい子だ。
――始まりはちょっとした悪戯だった。
「大人をからかうもんじゃない。Kitty? あまり深入りすると、逃げ道を失うぞ?」
「逃げ道ってなんですか?」
「……そうだな、例えば……この距離で迫られたら、小さな君は逃げられない」
花梨がじりじりと俺を試すように近づいてくるから、脅しのつもりで顔を近づけてやった。
互いの吐息の温度までわかる、その距離五センチ。
俺は、「ふぅ」と息を吹きかけて煙に巻こうとしていた。
「大人の男を煽ると、怖い思いをするぞ」と警告するつもりだった。
……だが、どうやら、彼女のほうが上手だったようだ。
不意に、彼女の手が俺の襟を掴んで引っ張った。
“ふにっ”
直前までココアを飲んでいたからか、少し濡れて甘く柔らかい感覚。
俺の目は大きく見開いた。
花梨の金色の瞳に、酷く飢えた男が映り込んでいる。
「……私、逃げません」
「逃げたくなっても、もう逃がさない」
……それからはもう、覚えていない。
タガが外れたんだ。
少年の頃に戻ったみたいに、夢中になって彼女に溺れた。
ただ、庇護する対象だった、少女――花梨。
いつの間にか、俺の心に居座って、俺の中を自分の存在感で埋め尽くした天使。
彼女には、異能という誰もが手に入れたくなる力があるという。
俺は、あのカルト教団でたった一人生き残ったというだけで確信していた。
俺を、「秀一お兄ちゃん」と呼ぶのは長いからと、「秀ちゃんって呼びます」そう言った彼女。
純真無垢で、穢れを知らない金色の瞳が、俺を映すたび、惹かれて仕方なかった。
花梨も、そう……だったのだろうか。
愛の言葉を聞いたことはないが、彼女はいつも俺に近づいてくる。
それこそ、仔猫のように、俺の懐にスッと潜りこんで、気がつけば隣で丸まって眠っているのだから。
でも、今日は違った。
「はぁ、はぁ……秀ちゃん……」
「はぁ、はぁ……」
工藤邸の応接のソファで暴いてしまった白の天使。
俺の服も彼女の服も床に脱ぎ捨てられている。
訪ねてきたときにきちっと結んでいた白い髪は、もう解けてぐちゃぐちゃに乱れていた。
もし、今、コナン君がやって来たら?
もし、今、工藤夫妻が帰宅したら?
花梨は工藤夫妻にとって、娘のような存在。
……これはまずいな。
少し冷静になった俺。
「……バスルームに行こう」
「わっ……はい」
俺は花梨をお姫様のように横抱きで抱え上げ、バスルームに向かった。
身体を洗ってあげると、彼女は戸惑っていたが、大人しくしていた。
そうして、応接に戻ってきたわけだが――。
「秀ちゃん! 今度のお休みにね、蘭ちゃんと、園子ちゃんと、米花ホールのコンサートに行くの!」
さっきまで甘い声でさえずっていたというのに、今はどうだ。
彼女は俺の膝の上に乗り、手を合わせ、無邪気な笑顔でサイズの合わない俺のシャツを羽織っているじゃないか。
花梨のシャツは、俺が足を引っ掛けて零した水で濡れ、現在は乾燥中。
下着も一緒に濡れたから、彼女は今、いわゆる、彼シャツ状態ということになる。
「へえ……」
目の毒だな……。
ちらちらと、見え隠れする俺が付けた赤い痕に、つい笑みが零れそうになるが、表情には出さない。
あのバーボンが命を賭してでも守ると言った女が、成り行きとはいえ、俺のものになってしまった。
……後悔はまったくない。
今も触れたい衝動と戦っているくらいだ。
きっと、遅かれ早かれ、いつかこうなる運命だったんだ。
「行ってきても大丈夫かなぁ?」
「ああ、行ってきなさい。楽しんでおいで」
「じゃあ、帰ってきたら、どんな感じだったかお話するね♡」
「ああ、楽しみにしていよう」
そう言って彼女の額にそっと唇を落とすと、花梨は俺のシャツの袖をぎゅっと握りしめて愛らしく微笑んだ。
自由を愛する
だから俺は、あの彼ら(新一や降谷)のように部屋に閉じ込めるなんて野蛮でケチな真似はしない。彼女が行きたい場所へ行き、見たいものを見る自由は、俺が全力で守ってやる。
――ただし。それは「俺の
数日後、米花ホールの周辺。
コンサートを終え、蘭くんたちと笑顔で別れた花梨が、一人で駅へと歩いていく。
その姿を、俺は何百メートルも離れたビルの屋上から、愛銃のスコープ越しにじっと見つめていた。
レンズの
彼女は気づいていない。自分が歩く街のすべてが、すでに俺の
『――おい、そこの可愛いお姉さん。これから俺たちとお茶でも行かない?』
インカムから、花梨の周囲に仕掛けた集音マイクの音声が流れる。
見れば、柄の悪い男二人が花梨の行く手を塞ぎ、馴れ馴れしくその肩に手を伸ばそうとしていた。
スコープの向こうで、花梨が困ったように眉を寄せる。
……フッ、大人の男を煽ったあいつが、あんな有象無象に怯える必要はない。
「そこまでだ、ボウヤたち。俺の獲物に気安く触るな――」
俺は引き金にかけた指に、すっと力を込めた。
――ドンッ!!!!!
乾いた重低音が響いた瞬間、男たちのわずか数センチ足元のコンクリートが激しく弾け飛んだ。
「うわああああっ!?」
「銃撃だ、逃げろっ!!」
悲鳴を上げて腰を抜かし、蜘蛛の子を散らすように逃げていく男たち。
誰もいないビルの屋上から、俺はライフルを肩に担ぎ直し、煙草に火をつけた。深く吸い込み、紫煙を夜空に燻らせながら、胸ポケットからスマホを取り出す。
下の通りでは、花梨が「あれれ~?」と不思議そうに首を傾げながら周囲を見回していた。
花梨のスマホが、静かに震える。
『――もしもし、秀ちゃん? 今、なんかすごい音がして……』
「ああ、知っているよ、花梨。お前のすぐ後ろのビルの屋上を見上げてごらん」
『え……?』
花梨がハッとして振り返り、俺のいるビルを見上げる。これだけ離れていれば肉眼で俺の姿は見えないはずだが、彼女の金色の瞳は、まっすぐに俺の気配を捉えていた。
「悪い虫がいたようだから、少々羽を毟らせてもらった。お前は自由にしていいが、俺の射程から逃れることはできない」
『……もう、秀ちゃん。それじゃ私、どこに行っても秀ちゃんの手のひらの上だね……?♡』
「フッ……嫌かね?」
『ううん、すっごく安心する……! 今すぐそっちに行っていい?』
困ったように笑いながら、嬉しそうにビルへ向かって駆け出してくる我が家の仔猫。
愛の言葉なんて、お互いに必要ない。
お前がどこで誰と笑っていようと、その命も、未来も、すべて俺のスコープの中――一生、俺の視線という名の檻の中で、愛されていればいい。
おしまい☆