IF全員彼氏①:花梨閉じ込め大作戦【完結】
File.3:松田陣平の場合
「……チッ、いったい誰の許可を得て、あいつに声かけてやがんだクソガキが」
愛車のハンドルを叩き、俺は煙草の煙を吐き捨てた。
付き合い始めて三か月。まさかこの俺が、あんなちんちくりんで、フラフラどっか行っちまう白猫みたいな奴に骨抜きにされるなんて、人生何が起こるか分からねぇ。
タイプじゃねぇはずだった。
もっと大人で、自立した女が好みだったはずなのに、あの爆弾事件で泣きながら俺にすがりついてきた金色の瞳を見た瞬間から、俺の理性は完全にイカれちまったらしい。
フロントガラスの向こう、駅前の待ち合わせ場所で、ゆるふわの髪を揺らして、慣れないお洒落なワンピースを着た花梨が、困ったように眉を下げて突っ立っている。
――そして、その隣には、あいつにヘラヘラとスマホを突きつけ、今にも細い肩に触れようとしている、見るからに軽そうなナンパ男。
「おいおい……俺が惚れた女に何勝手に触ろうとしてんだよ、あァ?」
俺は煙草を携帯灰皿に押し込むと、車を降りてずんずんと歩き出した。
部屋に閉じ込めるなんてめんどくせぇ真似はしねぇ。あいつは自由にフラフラ歩いてりゃいい。
ただし――その自由の全責任は、俺がこの身体ごと引き受けてやるって決めてんだよ。
男の背後に音もなく忍び寄り、俺は警察手帳をポケットの中で弄びながら、極上の「営業用スマイル(※目は笑ってない)」を浮かべて男の肩にポンと手を置いた。
「よぉ、お兄さん。ちょっと話聞かせてもらっていいかな?」
……ずいぶん配慮したと思う。
前に花梨が「陣平さん、スマイル・スマイル♡」と俺の不機嫌顔に文句を言ってたから実践してみたんだが?
「は? ……ヒッ!!」
振り返った男の肩がびくりと揺れて、後ずさる。
「あ、陣平さん」
花梨が俺に気づいてパッと笑顔を見せる。
うん……今日も可愛いな。
「よぉ、花梨。待たせたな。で、お兄さん――」
「す、すみませんっしたーー!!」
スッと、懐から抜いた警察手帳を見せる前に、男が一目散に逃げ出した。
なんだ、ヘタレか……。
ヘタレのくせに花梨に声かけてんじゃねーぞ。
「……大丈夫だったか? 悪い、遅れた」
「ううん。私も今着いたところだったので」
……待ち合わせ時間は、10分後だ。
けど、花梨は10分前に来てた。
いや、俺もだけど……。
時間厳守、か……こういうとこ、律儀なんだよな、こいつ。
マジメちゃんめ。
「そうか。じゃー、行くか」
「はいっ!」
俺が手を差し出すと、白猫の小さな手が乗っかった。
……小さくて柔らかい手。
いや、手だけじゃねぇ……こいつ、小さすぎんだよ。
身長差どれくらいあるんだ……?
20センチ以上はあるな……。
抱きしめたら俺の腕の中にすっぽり収まっちまう。
そろそろ抱きしめても、いい頃合いか……?
キスはこないだしたけど、ハグは事件のとき以来してねえな。
この俺が、こんなちまい奴に手が出せないとはなぁ……。
「陣平さん?」
「ん?」
「お昼なに食べましょうか」
「……お前?」
「へ? あっ……」
――ボフッ。
瞬間、花梨の顔が真っ赤に染まった。
なんだよ、その反応。
女子高生かよ。
いや、女子高生だったな……。
「冗談だよ」
「っ、もうっ! 陣平さんのえっち!」
「ハッ、どっちが! なーに想像してんだよ。手ぇ出すわけねーだろ。俺は大人だぞ? お前に手を出したら、零が黙ってねえわ」
俺は、ぽかぽかと腕を叩いてくる花梨の白い鼻を、きゅっと摘まんでやった。
手を出したくないわけじゃない。
むしろ、早く触れたいし、触れられたい。
けど、俺は大人で、こいつはまだ成人前だ。
大事に思ってるからこそ、その線引きはさせてもらう。
触れたい。
抱きしめたい。
……けど、それ以上は絶対にしねぇ。
欲しいから待つんじゃねぇ。
……そう思いたかった。
でも違う。
欲しいに決まってる。
だからこそ、待つんだ。
「んぅ…………そうなんですか?」
「ん?」
「……本当に、手を出さないの?」
花梨が上目遣いで不安そうに見上げてくる。
なんだ……?
その不安そうな目は……。
俺、仕事中以外は、いつもお前のこと考えてるんだが?
あ、違った。仕事中もたまに考えてる。
なのに、なんでそんな不安そうな顔をするんだ?
……あ。
は、は~ん。
これ、手を出してくれって言ってんだな……?
けど、ダメだぜ?
「………………お前ね。大人からかってんの?」
「……そう、いうわけじゃ……」
「とりあえず、移動しようぜ」
「とりあえずって……」
俺は花梨を車に乗せ、目的地を目指した。
相手は女子高生。
俺は社会人。
デートは健全であるべきだ。
……と、そんなわけで、水族館に来てはみたが。
「ンン……ふぁっ……」
「はぁ……花梨、もっと手を出して欲しいって? 生意気だな」
水族館の地下駐車場。
シフトレバーをパーキングに入れると、俺は腕を伸ばし、助手席の座席レバーを引いた。
ガクンと背もたれが下がり、花梨はサングラスを取っ払った俺を見上げた。
小さな密室で、触れ合った唇から花梨の甘い吐息が俺の脳を激しく揺さぶった。
俺が日々、どれだけ我慢しているか――花梨はわかっていない。
付き合って三か月だぞ?
成人同士なら、もうとっくに関係を結んでるところだ。
けど、目の前の彼女はまだ子供。
せいぜいキスまでだろ。
「っ……も、い、いいれすっ!!」
「……はぁ……俺がもたねえよ」
「えっ、あっ!」
俺はつい、花梨の柔らかな膨らみに手を添え、触れた。
ふわっと柔らかくて、それでいて程よい弾力。
女の体……久しぶりの感触だった。
っていうか、花梨、めちゃくちゃいい匂いがしやがる……。
好きだ――。
……見上げると、顔を真っ赤にしてて、可愛い。
やわやわと膨らみを揉んでやると、花梨は小さく唸って、目をぎゅっと閉じた。
っ、やばいな、その反応……。
抵抗しねえのかよ……可愛すぎる。
俺はつい、花梨の胸へと倒れ込むように顔を埋めた。
やばい。
柔らかい……癒される。
堪らず深呼吸しちまったじゃねーかよ……。
「じ、陣平さんっ!?」
「……すげぇ……久しぶりだ、これ」
花梨のいい匂いに包まれると……安心するし、同時に、興奮もする。
優しく指を動かし、その感触を楽しむ。
「っ、久しぶりって……誰のを触ってたんですか!?」
俺の一言がマズかったらしい。
不意に花梨が両手で俺の肩を弾いた。
「……あ、はは。まあ、大人だからな……」
……察してくれ。
俺は苦笑する。
花梨に伝わるかな……?
そう思ったけど、やっぱ、ここは女神さまだった。
「そう……大人の男性だと色々あるんですね。理解しました」
彼女は何やら考えるそぶりを見せてから頷いた。
「え…………」
えー、なんだよ、それ。
物わかりよすぎだろ……。
いや、察してくれと思ったのは俺だけど。
「……花梨」
「はい」
「変な誤解しねえように言っとくけどな……俺はいつも我慢してんだ。お前が成人するまで手を出すつもりはない。だけどな、お前が成人したら覚えとけよ? 連日、足腰立たなくすっからな」
刹那、花梨の後頭部に手を回し、引き寄せて、咬みつくように唇を奪った。
舌をうねらせ、彼女を翻弄する。
「ふぁっ……」
花梨の肩が小さく震えて、俺のシャツを力なく掴む。
唇が離れると、花梨は息も絶え絶えで、すっかり女の顔になって返事をした。
「はぁ、はぁ……はい……」
「よし、言質取ったからな? じゃあ、行くか!」
俺はそっと、シートを元に戻し、赤い顔の花梨の手を引いた。
……結局、俺が一番閉じ込められてんのかもしれねぇな。
あいつの笑顔から、もう逃げられねぇ。
そんなことを思いながら、俺は健全なデートへ繰り出した。
おしまい☆