キュアット解決!

後編【コナン視点】


 オレとキッドが、怪盗を捕まえる数日前。
 オレは、博士に用があって阿笠邸にやってきた。

 玄関を入ると――


『ピンっときた!』


 ん……? この声……。
 リビングから聞き覚えのありまくる声に、オレは駆け出す。


(花梨だ……! なにが“ピンっときた”?)


 会いたくて逸る気持ちを抑えながら、リビングへ駆け込んだ。


「花梨っ!」

「どんな謎でもはなまる解決! 名探偵キュアアンサー!」


 そこにいた花梨は、ソファに座り手を叩く灰原に向かって、この間少年探偵団の皆と見た、プリキュアの決めポーズを取っていた。
 背中を向けてるから、やって来たオレには気づかないまま……。


「は?(なにやってんだ……?)」

「……あら、工藤君、いらっしゃい。博士なら留守。花梨、工藤君が来たわよ」


 灰原が、花梨の脇から顔を覗かせ、いつもの調子でオレを一瞥すると、目の前の花梨に優しく微笑みかけた。

 オイ、いつもだけど、花梨に対する態度と、オレに対する態度違い過ぎねーか?


「……ん? あっ! 新ちゃん! こんにちは~!」

「お、おう。なにやってんだ?」

「あっ! えへへ。見ーたーなー!」


 瞬時にオバケのモノマネで、両手のひらを胸の前でぶら下げる花梨。
 口元はにやにやと小さく笑っている。

 うかがうような金色の大きな瞳。

 上目遣いが、か、可愛い……!
 こいつ……!
 そういうとこだぞ……!

 不意打ちに、きゅんと胸が疼いちまった。


「っ、たまたまだろっ!? だいたいっ! 博士の家に来て、そんなことしてるほうが悪いんだよ!」

「ふむ……それもそうだね! じゃあ、ま、いっか」


 オレの意見に花梨は顎に手を当て、即納得する。
 素直っつーかなんつーか……。


「今のフリ、プリキュアのポーズだろ? 歩美ちゃんが好きな」

「さっすが新ちゃん! よく知ってるね! そうなの! ちょっと振り付けを覚えてみようと思って」

「は…………? お前はまた、しょうもないことを……」


 なんで、花梨がプリキュアの振り付けを覚える必要があるんだ?

 オレの頭の中に、瞬時に疑問符が無数に浮かんだが、花梨のことだから、深く考えるのはすぐにやめた。
 考えるだけ無駄だ……。


「ん? しょうもないって、なぁに?」


 白い睫毛がぱちぱちと上下する。
 彼女は決めポーズを練習していたんだろう。

 額が少し汗ばんで、前髪を払う仕草が愛らしい。

 もう、それだけで眩しかった。

 ちょっと……いや、かなりの天然娘だが、こいつがいると場の空気が和む。居心地がよくて、どこまでも清浄で温かな空間。
 オレはその場所が大好きだ。

 たとえ、彼女の想い人がオレでなかろうと、今、この時間だけはオレのもの。


「フフッ、工藤君が来たし、交代ね」


 灰原はくすりと笑って立ち上がると、自分の部屋へと戻ってった。


「あ」


 ――やべ。
 灰原がいたんだった。

 オレ、今変な顔してなかったか……?


「交代? 何をするんだ?」


 オレは気まずさを覚えつつ、花梨に尋ねる。


「んと、哀ちゃんに振り付けを見てもらってたの……!」


 ほらっ、と花梨がテーブルの上に置いたノートPCの画面をオレに向ける。
 そこにはプリキュアの動画が表示されていた。


「名探偵プリキュア……」

「新ちゃんに見てもらうのは、ちょっと恥ずかしいけど……振り付けで、違うとこあったら教えてくれる?」

「恥ずかしいのか? お前が?」


 花梨は思い切りのいい奴だ。
 恥ずかしがるポイントが、普通の人間とはちょっとずれてる。

 その彼女が恥ずかしい……?
 ちょっと疑問に思ったけど――


「恥ずかしいよ!? だって、まだ完璧じゃないんだもの。完璧にマスターしたら全然恥ずかしくないのに」

「はは、そっちかよ」

「他に何があるの?」

「いや……なんでもねえ」


 女子高校生が、小学生女児向けアニメのキャラポーズの真似を真剣に取り組むこと自体が恥ずかしいと、オレは思ったんだが……。
 やっぱ花梨は斜め上をいってたな。


「この動画と見比べればいいんだな?」


 オレはマウスを操作し、再生動画を一時停止させる。


「うん! 違うところは違うって指摘して欲しいな。あと、そういうとこは、一時停止してほしいの。復習するから」

「わかった」


 なんかよくわかんねーけど、博士もいねーし、付き合ってやっか……。


「あ、でも新ちゃん、博士にご用があったんじゃ?」

「留守なんだろ? 帰って来るまで付き合ってやるよ」

「わぁ♡ ありがとう♡」

「っ、お、おう……」


 弾ける笑顔を向けられて、オレの頬が熱を帯びた。
 その三十分後――。


「っ――っ、くっ……!!」


 オレはPCの前で悶絶していた。


「キュアット解決! ……ふぅ。どうだった?」


 ピシっと決めポーズが決まり、花梨は数秒動きを止めると息をつく。


「ど、どうって…………」


 すっげぇ可愛かった……!!
 ああ~、可愛いっ!!

 なんだよ、ちゃんとプリキュアじゃねーか!

 『すげぇ可愛い!!』って、叫んでいいなら叫びたかったぜ。
 けど、本音を悟らせるわけにはいかねーからな。

 ……言わねぇよ。


「ン?」

「い、いーんじゃねーの!? 誰かに見せるつもりなんだろ? だとしたら、ほぼ100点だ! あとは衣装さえ着ればばっちりだな」

「ふふっ、やったぁ♡ ううん。誰にも見せないよ? ただの自己満足♪」

「はぁ? ……じゃあ、オレだけかよ……」


 自己満足ってなんだよ!
 やっぱ、こいつ、わけわかんねぇ……!

 けど、オレだけが見たってことか?


「哀ちゃんもだけど……」

「灰原はノーカウントだ。オレだけ……なんだな?」

「へ? そうだね、新ちゃんだけだね?」


 よしっ!

 このときの練習の成果を、後日黒羽に披露するなんて知らないオレは、テーブルの下でこっそり拳をグッと引いた。




※次ページはあとがき。
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