キュアット解決!
前編【快斗視点】
ある日の、オレの部屋――。
机の上に置いたノートPCには、プリキュアの動画が流れていた。
(よし、ここのターンの時の指先はもっと優雅に……。笑顔の角度は上向き二十度! これがプリキュアの黄金比率……!)
「ここは、こう、で……こう――だな! よし決まった!」
決めポーズが決まり、ガタッと背後で音がした。
「っ!? か、花梨……!? い、いいい、いつの間に……!?」
振り向くとなぜか、花梨がいる。
そういや、合鍵貸してたんだった……。
「……あ、おやつ持ってきたよ~……」
トレイにティーセットと、マカロンを手にした花梨は、オレと目が合うとふんわり微笑んだ。
「ここに置くね」
今のは見なかったことにしたかったのだろうか……いつもと変わらない様子でスルーする彼女。
ちょ、花梨。
それどういう態度!?
「か、花梨ちゃん! こ、これは、だな……!」
……慌てるオレ。
最後だけか?
それとも、全力プリキュアポーズ、全部ばっちり見られちまった感じか?
「ダンス、上手だね。真剣だったから声をかけるの遅くなっちゃった。新しい趣味なの?」
声をかけるのが遅くなった……?
これはどっちだ!?
見たのは一部か!? 全部か!?
「いやっ、ちがっ! ちげーよ!?」
オレは即否定したね!
(別に趣味じゃねーのよ!? 米花町の金子宝石店で、こないだお粗末なキッドの変装しやがった不届き者が出たっつーから!)
その怪盗、ぶっ飛ばしたいだけなんだよ!!
オレのハイクオリティ変装を見せつけてなっ!!
「あ、プリキュアだー! この振り付けを研究してたんだね?」
プリキュアの動画が流れているのを見つけた花梨は、PCの横にティーセットを置きながら画面を見つめた。
「……そ、そう! 完璧な変装ってのはなぁ、指先の角度からステップの踏み方一つまで、徹底的にコピーしてこそ成り立つんだよ! 決してオレの趣味なんかじゃ――」
「うん、知ってるよ♡ 快斗はいつだって、お仕事に一生懸命だもんね!」
「うぐっ……」
真っ直ぐでピュアな金色の瞳に、これ以上ないくらいのキラキラな笑顔で肯定されて、オレの言葉が喉に詰まった。
……だめだ、花梨のこの無邪気な優しさが、今のオレには逆に一番突き刺さる……!
「でも、快斗のプリキュア、すっごく可愛かったなぁ♡」
「っ、可愛くねぇ! カッコいいだろ……じゃなくて! 頼むから忘れてくれ!!」
顔がカッと熱くなるのが分かった。
ポーカーフェイス?
クールな怪盗?
そんなもん、大好きな彼女の前じゃ一瞬で消えてなくなるっつーの!
オレは恥ずかしさを誤魔化すように、花梨が持ってきてくれたマカロンを一つ掴んで口に放り込んだ。
甘い。けど、今のオレの心臓のバクバクを止める薬にはなりゃしねぇ。
すると、花梨はPCの画面とオレを交互に見つめて、人差し指をあごに当てて楽しそうに首を傾げた。
「ねえ、快斗。せっかく練習したんだし、私が『振り付けが合ってるか』チェックしてあげよっか?」
「はあ!? なんでそうなるんだよ!」
「だって、本番で間違えちゃったら大変でしょ? 私、特等席で見ててあげる♡」
そう言うと、花梨はオレのベッドの端っこにちょこんと腰を下ろし、期待に満ちた目でオレを見上げてきた。
トレイを膝の上に乗せて、嬉しそうに目を輝かせている。
(うわ……っ、その上目遣いは反則だろ……!)
断ろうとした言葉が、その可愛すぎる姿に全部溶かされてしまう。
くそ、オレは世界中を騒がせる怪盗キッドだぞ?
警察の包囲網だって、コナンの探偵眼だって、ひらりとあしらってきたってのに……。
「……一回だけだぞ。マジで一回だけだからな?」
「うんっ♡ 楽しみー!」
結局、花梨の笑顔には逆らえなくて、オレは観念してPCの再生ボタンをもう一度クリックした。
部屋に響き渡る、プリキュアのアップテンポでキュートなイントロ。
ハァ、と小さくため息をつき、オレはスッとポーカーフェイス(プリキュアVer.)をセットする。やるからには、お遊びでも手は抜かねぇのがオレのスタイルだ。
「――どんな謎でもはなまる解決! ピンっときた!」
BGMに合わせて、キレッキレのターンを決める。
指先を優雅に伸ばし、上向き二十度の完璧な笑顔。フリルが翻る幻影が見えるくらいのハイクオリティなステップを踏んで、最後に花梨の目の前でバシッとキメポーズを作ってやった。
「わぁぁ……っ♡ 声まで♡ すごい、完璧だよ快斗……っ!!」
パチパチパチ! と、花梨が嬉しそうに両手で拍手をくれる。
その大喜びする姿を見ていたら、さっきまでの恥ずかしさが、なんだか急に愛おしさに変わっていくのが分かった。
オレはキメポーズを解くと、ベッドに座る花梨の前に膝をついて、その小さな手をそっと包み込んだ。
「どーよ。オレの全力プリキュア。……お嬢様のハート、ちゃんと盗めた?」
怪盗らしく、ちょっと意地悪く微笑んで顔を近づけてやる。
すると、さっきまでオレをからかっていた花梨の頬が、今度はみるみるうちに真っ赤に染まっていった。
「う、うん……っ♡ 快斗のプリキュア、世界で一番可愛いし、カッコいいよ……!」
照れながらも、金色の瞳で真っ直ぐにそう言ってくれる彼女に、オレの胸はさっきのダンスの時よりも激しくノックされた。
「……あー、もう。本当に花梨には敵わねぇわ」
降参、とばかりに苦笑して、オレは花梨の額にちゅっと軽いキスを落とした。
本番の米花町でのショー(怪盗撃退ミッション)も、これなら百戦錬磨で大成功間違いなしだな。なんてったって、オレには世界一可愛い、最強の専属監督がついてるんだから。
――で、後日。
「わ~! プリキュアが怪盗をやっつけたんだって! すごいね~♡ 歩美ちゃん、すっごくよろこんでたよ♡ 快斗、おつかれさま♡」
「へへっ♡」
新聞の【怪盗逮捕】の記事を見下ろし、花梨はオレに労いの言葉をかけてくれる。
いやぁ~、もう。
ミッションが終わったあとに癒してくれんの、最高だわ。
……と、もうちょい癒してもらおうと思う。
「ね……確かにおつかれさまなんだけど……これ、は……?」
「花梨に着せてみたいな~、ってな?」
オレは、プリキュアの衣装を花梨に着せてあげた。
やばっ!
控えめに言って、めちゃくちゃ可愛い……。
「えええええ!?」
「可愛いな……」
「っ、じゃあキュアット解決だね!」
ちょっと戸惑ってるようだったけど、花梨はプリキュアの決めポーズを、寸分違わぬ角度で、見事に披露してみせた。
花梨、ノリよすぎだろ……。
どこで覚えたんだよっ。
「っ!」
あまりの完璧さに、思わず息を呑んだ。
「かっわ……♡ オレも可愛かったけど、花梨やっぱ可愛いわ。練習したの?」
「うん、した~♡」
「勉強熱心だなぁ~♡」
(可愛い♡ 可愛い……♡ オレの彼女、マジ可愛い♡)
オレは得意気に腰に手を当てる彼女を抱きしめ、頭をナデナデし、たっぷり癒されキュアット解決!
捕まった怪盗の低クオリティな変装のせいで、イラついていた気持ちもすっかり消えた。