風邪を引いたら
快斗の場合・前編
放課後――今日もオレは花梨と一緒に帰っていた。
「でさ――花梨……?」
「ん……? あ、ごめ……歩くの遅かったね」
さっきまで隣で歩いていたはずが、いつの間にか花梨は、オレの後ろを歩いている。
慌てて駆けてくる花梨に違和感を覚えた。
なんか変だ。
彼女の顔が赤い。
「熱あるんじゃねぇの? なんか顔赤いぞ?」
「え……?」
花梨はぼぅっとした様子で首を傾げる。
その仕草はとっても可愛いんだけど、いつもより遅い足取り、元気のない声、目もなんだか虚ろで。
オレは花梨の額におでこを引っつけた。
「っ! か、快斗……?」
「あっつっ!! バカっ、オメー! 熱あるじゃねーか!! なんで黙ってた!?」
花梨の額はかなり熱かった。
……これ、今さっき上がったもんじゃない。
昼飯もほとんど食べてなかったし、五限目はずっと俯いてたっけ――。
たぶん、昼前には熱が上がってたんだと思う。
今日は五限目までだからって我慢してたのか……。
どうせ、「具合が悪いです」なんて言って、迷惑かけたくないとか思って黙ってたに違いない。
花梨は誰かの世話になるのが苦手だから……。
「そ、そうかな……? なんともないよ?」
「バーロっ! 真っ赤な顔してなに言ってやがる。歩いてる場合じゃねーだろ!」
「え……わっ!? ちょっ」
オレは花梨の腋の下と膝裏に手を忍ばせ、彼女を横抱きした。
……ずっしりとした大好きなこの重み。
腕の中に彼女がいると思うと、安心できて好きだ。
いつでもこうして運んでやりたいけど、人目もあるし、花梨が恥ずかしがるから滅多にしない。
けど、今は外聞などどうでもいい。
抱き上げた花梨の身体が熱すぎる。
「さっさと帰るぞ!!」
「っ、じ、自分で歩――」
「黙らっしゃい! しっかり掴まってろっ!!」
オレは花梨を抱えて全力疾走――はさすがに危ないので、早足で花梨のマンションに向かった。
◇
ピピピ、ピピピ……。
花梨の部屋で、体温計の測定音が鳴る。
あれから花梨のマンションに帰ってきた。
オレは花梨の部屋に彼女を運び、ベッドに座らせた。
……まずは検温だ。
立ったまま腕組みしたオレは手を差し出す。
すると、ベッドに座る花梨がチラッと体温計を見下ろしてから「はい……」と、申し訳なさそうに体温計を渡してきた。
「う、ん……? 38.4度――はいアウト! やっぱな~。さっさと寝ろ」
「っ、大丈夫なのに……」
花梨が「38.5度までは平熱だよ……?」なんてわけのわからないことを言う。
今までどんな生活をしていたんだと気になったけど、そんなのは元気になってからだな。
オレは、部屋のクローゼットから着替えを取り出し、花梨の制服を脱がしにかかる。
……花梨の服がどこに入っているかなんて把握済みだ。
何度この部屋にこっそり侵入していると思って――と、これは絶対花梨に知られちゃいけねぇ。
「あっ、ちょ、ちょっと快斗っ……ダメ……っ!」
セーラー服の上を引っぱり上げようとしたら、花梨が抵抗してきた。
「っ!? バーロっ! 彼女が弱ってるときに手なんて出さねぇよ! 信用しろっ!」
……これ、オレのせい?
花梨ちゃん、ぷるぷる震えてんの。
怯えた感じじゃないけど、今は応じられないって感じか?
そりゃ、いつも手ぇ出しちゃってるから、信用ないとは思うけども……。
けど、今日は下心なしだぜ!
……っていうのは嘘だけど、我慢する!
人間、普段の行いって大事なんだな~って思った。ちょっと反省。
「ほ、ホント?」
「誓います! 今日は手を出しませんっ! 着替え手伝わせて!」
「じゃ、じゃあ……」
オレが土下座でお願いすると、花梨は真っ赤な顔で両腕を上げてくれた。
……恥ずかしいのかフイッと、顔を逸らす。
(ちょ……。これ着替えさせていいってことだよな!?)
無抵抗で身体を預けてくれる様子に、オレの心臓が跳ねる。
改めてセーラー服の上を脱がせるんだけど、近くなった距離に、彼女から発せられる熱で、いつもより濃い匂いがもう――堪らない。
ドクンドクンと強くなる鼓動とともに、「はぁ、はぁ……」と息が勝手に荒くなった。
(ああああ……やっべぇ……。理性が試されてる……! 触りたい、触りたい……ダメーーっ!!)
花梨が好き過ぎるオレにとって、これはある種の拷問じゃなかろうか。
(ダメだ……これ以上見てたら死ぬ……いや違う、殺される……誰に? 自分の理性にな!!)
……具合の悪い彼女に手を出しちゃならねぇ。
耐えろよ。
耐えるんだぞ、オレ。
自分に言い聞かせて、オレは今度はスカートも脱がせていく。
(これは……介助だ、介助。花梨は病人だぞ……!)
スカートの留め具を外し、ファスナーも下ろして、花梨が少し腰を浮かせる。
その隙にさっと取り去ってやった。
いつもは白く滑らかな太ももが、今日は普段より赤みを帯びて、これまたおいしそ――って、バカ野郎!
がんばれ理性。治まれ本能。
「快斗……ごめん……ちょっと寒い……。おねがい……」
理性と本能が闘ってる間に、花梨が震えながらそう言って、オレを見上げてきた。
ちょっぴり上目遣いで目が潤んでて――ああっ、くぁwせdrftgyふじこlp!?!?
おねがい? なんの?
抱きしめる?
ちゅーする?
……たわけっっ!!
「……っ、パジャマ着よう、パジャマ!」
オレは平静を装い用意したパジャマを着せてやる。
花梨の指が震えているから、たぶんボタンは自分で留められない。
「はぁ……快斗、ごめんね……こんなことさせて……」
「――な、なぁにっ! オレに任せとけって!」
パジャマのズボンをはかせて、上も着せて、ボタンも一つ一つ留めて――ああ、もうなんだよ、この甘酸っぱい好い匂い。
……くらくらするぅうううう。
いや、しっかりしろ黒羽快斗!
今のオレは、花梨の介助人だろ?
っと、まあ、心の中はぐちゃぐちゃだが、顔はポーカーフェイスなんだぜっ!?
「ボタンを留めて――はいっ、おしまいっ! 寝てな?」
「ありがと……」
よし耐えた! ミッションクリア!
オレ、えっら~~い!!
トイレ行かなきゃ。
……オレは花梨をベッドに寝かせることにした。
横になった花梨は、相当辛かったんだろう。
すぐに目を閉じ眠りについた。