図書室の再会

図書室の再会(おまけ)


※快斗視点


 胸騒ぎがしたのは、昼休みも半分を過ぎた頃だった。


「……いねーな。どこ行った、あいつ」


 教室にも、屋上にも、花梨の姿がない。
 いつもなら「快斗ー、お弁当食べよ」って、綿菓子みたいにふわふわした笑顔で寄ってくるはずなのに。

 まさか、また変な奴に絡まれてんじゃねーだろうな。
 あいつ、無自覚に男を引き寄せる“天使”な自覚がなさすぎるんだ。

 過保護だって笑われたって構わない。
 あいつの「初めて」を全部もらったのはオレなんだ。誰にも指一本触れさせるもんか。

 廊下を早足で歩きながら、ふと図書室の扉が目に入った。
 ……あそこか。

 静まり返った室内へ足を踏み入れた瞬間、オレの「探知機レーダー」が激しく警報を鳴らした。


(……はあ!? なんでアイツがいんだよ!)


 窓際の特等席。
 陽だまりの中で、花梨が穏やかに本を読んでいる。そこまではいい。最高に絵になる。

 だが、そのすぐ隣。
 まるで「お似合いのカップルです」と言わんばかりのツラして座っているのは、あのキザなロンドン探偵――白馬探だった。


「――あ。いたいた。花~梨っ♡」


 あえて遠くから、図書室の静寂をぶち壊すような明るい声を出す。
 白馬が眉をひそめるのが見えたが、知るか。そこはオレの席だ。


「快斗……! どうしたの?」


 花梨がパッと瞳を輝かせて、読んでいた本を置いて駆け寄ってくる。
 よっし! その反応だ。合格。
 オレに向けられるこの「特別」な笑顔だけは、誰にも譲らねー。


「どうしたじゃねーよ。探したんだぜ? ……で、なんであんなスカした野郎と一緒にいんだよ」


 わざと花梨の腰を引き寄せ、白馬に見せつけるように抱きしめる。
 花梨は「えへへ、偶然会ってね」なんて呑気に笑ってるけど、あいつの目は笑ってねーぞ。


「白馬くん、おすすめの本教えてくれるって。白馬くん。私、先に教室に戻るね」


 花梨がトコトコと戻って、白馬に何か耳打ちしている。

 ……おい、近ぇ。
 近すぎるだろ、おい!

 白馬の野郎、鼻の下伸ばして真っ赤になってやがる。


「行くぞ、花梨」


 耐えきれなくなって、花梨の手を引いて図書室を後にする。
 だが、扉を出る直前。
 オレは首だけを後ろへ回し、まだこっちを見ていやがる白馬を睨みつけた。


(……おい、探偵。これ以上花梨に近づくな。こいつはオレの「ビッグジュエル」なんだよ)


 言葉の代わりに鋭い視線を叩きつける。
 ところが、あいつは怯むどころか、あえて優雅に、余裕たっぷりの笑みを返しやがった。


「――っ、チッ」


 舌打ちが漏れる。
 廊下に出ると、花梨が不思議そうにオレの顔を覗き込んできた。


「快斗? どうかしたの? 怖い顔して」

「……なんでもねーよ。お前が隙だらけなのが悪いんだ」

「ええっ? 私、何かしたかなあ……」


 首を傾げる花梨の額を、軽く指で弾く。
 あいつは「いたーい」なんて言いながら、またオレの腕に抱きついてくる。

 まったく、白馬の野郎。

 「おすすめの本」だあ?
 そんなもん、オレがいくらでも教えてやるよ。

 推理小説だか何だか知らねーが、花梨の物語の結末エンディングは、もうオレの隣って決まってんだからな。


「花梨、今日の放課後……デートな。どこにも寄らせねーから」

「わぁ、本当? 嬉しい!」


 素直に喜ぶ花梨を引き寄せて、オレは誰にも見えないように、あいつの白髪に小さくキスをした。

 ……余裕のない番犬?
 上等だ。

 大事な宝物を守るためなら、狂犬にだってなってやるよ。



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