白月の君といつまでも
-- Spring, about 17 years old
091:急襲
◇
米花公園は広い公園で、時間帯によっては散歩する人やジョギングする人も多く、子どもたちが遊ぶ遊具なんかも充実しており米花町の人々の憩いの場となっている。
公園内に植えられた樹木の中には桜も多くあり、春になると花見客が訪れる。五月の今、桜は青々とした葉が生い茂り、風に揺れると木漏れ日が心地良く感じられた。
快斗より一足先に米花公園に着いた花梨とコナン。二人は公園に入るとキョロキョロと辺りを見回す。
今の時間、日差しも強く、暑いからか公園を訪れる人はまばらで、ぱっと見、快斗らしき人物は見られない。
「まだ来てねーみてーだな」
コナンは額に手を当て、遠見するように高校生らしき青年を探していたようだが見つからず、「ふう」と一息ついた。
そうして何だか少しソワソワ、落ち着かない様子でまたキョロキョロ。緊張しているような気がするのは気のせいだろうか……。
「コナンくんはもう帰ったらどうかな? たとえ近所でも、小学生が一人でうろついてちゃ危ないよ?」
――小さな新ちゃんの推定年齢は、五~六歳ってところよね……。
五、六歳と言えば年長~小学一年生。
蘭が小学校でモテると言っていたから、コナンは今、小学一年生だ。
どうよ、合ってるでしょ。たまには推理だってできちゃうんだから! と、新一にお帰り願いたい花梨は、あえて「コナンくん」と呼び、年長者として帰宅を促したものの……。
「はあ? なんでだよ、別に危なくねーよ。真昼間の近所だぞ? あっちで同じくれーの小学生だって遊んでんじゃねーか。オメー、そんなにオレを彼氏に会わせたくねーのかよ」
「そうじゃないけどぉ……」
コナンから「オレに向かって言ったのか」という呆れ顔を向けられ、花梨の眉が下がる。
「どうせ、オレが何かケチつけるとでも思ってんだろ?」
「そんなことはないけど?」
コナンがケチをつけるだなんてことは思わないが、何かの拍子で快斗の正体に気付かれる可能性はありありだ。
それに、快斗が小学生にも焼きもちを焼くかもしれないという懸念もあって、そうすると、言い合いに発展しかねない。
接触すればするほど綻びも生まれるだろうから、避けたいわけで。
「ハッ、どうだか」
「……彼、ちょっと強引だけど本当にいい人なんだよぉ……」
――新ちゃん、今日はすっごくいじわるぅ~……! 手、痛いんですけど~!
コナンに鼻で嗤われた。
花梨は未だ放してくれない小さな手からどうにか逃れようと試みたが、コナンはさらに力を込めて握ってくる……。
絶対逃がさないつもりなんだと察して諦観した。
「……あそこで座って待ってっか?」
「もぉー、聞いてないふりしちゃってさー……!」
通路沿いにある桜の樹の前のベンチを指差し、グイグイと手を引くコナンから告げられ、“尋ねた風に言ってるけど、それ強制ですよね?”と思いながら花梨はついて行く。
その時――。
「っ!? ……花梨、伏せろっ!!」
「えっ!? あっ!」
急にコナンの
すると、ヒュンッと風を切る音が頭上を通過した。
その後でボコッという音がして、音のする方向を見るとゴルフボールが桜の樹に当たり、地面に落ちていた。
「バカッ、頭上げんじゃねー!!」
「えぇっ!?」
自然と頭が上がっていたらしい、コナンが花梨の腕を強く引き、頭を下げさせる。
『花梨っ! 逃げろ!!』
……ふと快斗の声が聞こえた気がした。
その声を皮切りに、ヒュンヒュンヒュンと次から次へと今立っている通路の対面側、生垣からゴルフボールが風を切り、花梨目掛けて飛んでくる。
「なろっ……!」
「新ちゃん、今顔上げちゃダメっ、危ないっ!」
「ばっ、オメー! なに庇って……!」
ボールは地上から百センチ以上の高さを維持し飛んでおり、威力も一発目同様、かなりの速度だ。
ゴルフボール用に改造した自動球出し機か何かと思ったコナンは、ゴルフボールが飛んで来た生垣へと走り出そうとした。
……が、今飛び出すのは危険と判断した花梨がコナンに覆い被さり、身体を低くする。
それと同時。
「花梨さんっ!!」
「っ! 権堂さんっ!」
「お任せを!」
近くにいたのだろう、権堂が伸縮式の警棒を手に現れ、飛んでくるゴルフボールを目にも留まらない速さで叩き落としてゆく。
最初の一球を除くすべてのボールが権堂の足元に転がった。
「……(一体何が起こってるんだ……!?)」
――すげえ……警棒振り回してゴルフボール叩き落とした……。
コナンは何が起こっているのか思考しつつ、花梨に守られながらこっそり権堂を覗き見、何者なんだと驚愕した。
「花梨さんっ! 攻撃が止みました! 私は犯人を確保しに行きます! 黒羽さんと一緒にいて下さい!」
「っ、お気を付けて!!」
ゴルフボールによる攻撃が終わり、権堂が駆け出す。
ボールが発射された生垣へ走る権堂を見送ると、入れ替わるように快斗がやってきた。
コナンもいつの間にか権堂を追い掛けるように駆け出し、生垣の中へと消えている。
「花梨っ!!」
「あっ! 快斗っ……!」
「大丈夫か……!? 悪いっ出遅れた……!」
「ん……うん……平気! 快斗っ」
座り込む花梨に駆け付けた快斗の顔は真っ青で、目の前まで辿り着くと両膝をガクッと地面に落として震えながら抱きしめてくる。
ぎゅうっとその存在感を確かめるように抱きしめられ、花梨は苦しかったが、快斗が来てくれた安心感に満たされ抱きしめ返した。
――来月までは大丈夫だけど……それでもちょっと怖かった……。
硬いゴルフボールの速度がどれくらいあったのかはわからないが、剛速球だった。
命中して当たり所が悪ければ骨折だけじゃ済まない。
力強い快斗の腕にほっとした花梨の瞳からほろりと涙がこぼれる。
花梨の母、雪音の未来視では五月中に花梨が亡くなることはない。
けれど、よくよく考えたら死なないだけで、怪我をしないとは言っていなかった。病気をしないとも言っていなかった。
死なないだけで危険がないわけではない……。
……五月中は安全なのだとどうやら勘違いしていたようだ。
それに気付いた花梨は目を閉じ、眉間に皺を寄せてから瞼を開くと口角を上げる。
「……立てる?」
「ん……、ありがと……」
抱きしめ合い互いに安堵した後、地面にそのまま座っているというのもなんだし、ベンチに座ろうと快斗が先に立ち上がり花梨の手を引いた。
「怪我はない? よく見せて」
「だ、大丈夫! どこも怪我してないよ?」
ベンチに移動すると心配そうな表情の快斗が花梨の頬や髪、肩に触れて注視してくる。
ワンピースのスカートは汚れてしまったが怪我はなく、花梨は首を横に振った。
「……、ごめんオレが側にいなかったから」
「最初の一球目は
そういえばコナンくんは……と花梨が消えた生垣へと視線を移す。
すると生垣の脇から犯人を確保した権堂とコナンが現れた。
「そっか、あのボウズが……大したもんだな」
「ん……」
――新ちゃん、ありがとう……巻き込んでごめんね、快斗も……。
花梨は申し訳なくて快斗から目を逸らし俯く。
そんな花梨の頬に快斗の親指が触れた。
「……怖かったよな」
「え?」
「花梨泣いてるし、身体震えてる」
「えぇっ? うそぉ……!」
指摘されて初めて自身の身体が震えていることと、涙を拭ってくれたことに気付き花梨は目を見開く。
いつものことだから平気だと思っていたのに、そうではなかったらしい。
「うそ……っ、別にこんなのっ、いつものことだしっ……」
「花梨……」
花梨は心配そうにうかがう快斗の前で、いつの間にか流れていた涙を必死で拭った。
そんな花梨の元へタッタッタッと駆けて来る足音が聞こえてくる。
「……はあっ、はあっ、花梨っ、おめぇ一体何があった!?」
ベンチまでやって来た足音の主はコナンだ。
コナンは快斗に寄り添われる花梨に向けて険しい顔で怒鳴ってくる。
「っ……、何って……」
「さっきのは何なんだよ!?」
――なんで泣いて……!
花梨の瞳に涙の痕が見え、コナンは一瞬眉を寄せた。