白月の君といつまでも

-- Spring, about 17 years old
072:クラスメイトたちの反応①


「黒ちゃん、デレデレすんなよな」


 花梨が校舎に入って行ったのを確認して、快斗は黒瀬に近付く。


「おっ! おはよ。今日は朝から来たな、偉いぞ黒羽! 葵ならさっきここを通ったぞー」

「知ってるっつーの!」

「そうか、知ってたか。だよな。お前、葵のストーカーだもんな」

「ストーカーじゃねえっ! 彼氏だっての! ってか黒ちゃん、さっき花梨に見惚れてただろ!」

「……なんのことだ?」


 快斗が指摘しても黒瀬は穏やかな笑みを浮かべるだけ。
 だが快斗には、黒瀬が嘘をついていることくらいお見通しだ。

 花梨が校舎に入るまで、黒瀬はずっと彼女を見ていた。
 ……その目があの金髪男、降谷の目と似ている。

 保護者としての慈愛なのか、それとも一人の男としての執着なのか……。判断がつかない快斗の焦りが“ぎぎぎ”と口角を不自然に歪ませた。


「はっ。ったく、どいつもこいつも……花梨の周りは汚い大人ばっかりだぜ」

「どいつもこいつもがどこの誰たちを指しているのかわからんが、お前に言われたくないと思うぞ、ストーカー」

「教師が生徒に現を抜かしていいんすかねえっ!? ってオレはストーカーじゃねえっつーの!」


 快斗は黒瀬をジロッと睨みつけながら校舎に向かう。

 ……何となく高校の敷地外に目を向けると、権堂が敷地に沿って歩いているのが見えた。
 花梨が登校したのを見送り、見回りをしているのだと思われる。


「校内に暗殺者がいないってのは助かるな」


 校内に暗殺者がいない理由はいくつか思い当たるが、今はまあいい。
 花梨が学校に来られないとなると、会える時間が少なくなってしまうから助かった。
 靴箱に花梨の靴が入っていることを確認し、快斗も靴を履き替え教室へと急ぐ。
 本当は先回りしようと思っていたが心配でつい見守ってしまい、後を追う形になってしまった。

 ……2-Bに近付くにつれ、ザワザワと教室内がざわついていることに気がつく。


『て、転校生ですよね!? 何組ですか……!? お、俺、内田っていいます。お困りでしたらあなたの教室までご案内します!』

『ぼっ、僕は山田と言います! 僕は、校内全てをご案内できますよ!! あなたのお名前を伺っても宜しいですか!?』

『え、あ、あの私……』


 教室からは「あの子誰?」「芸能人?」「可愛い……」などというざわめきの他、連休前に花梨の陰口を叩いていた内田と山田の一際大きい緊張したような声がして、その後で花梨の戸惑う声が聞こえた。


「あいつら……!」


 快斗は急いで教室に駆け付けたのだが――。


「花梨ちゃーん! おはよー!」

「あっ、青子ちゃん! おはよー!」


 一足先に青子が花梨に声を掛けて、花梨は嬉しそうに青子の元へと寄って行った。


「「え? 花梨ちゃんて……まさか、あお……?」」


 ……内田と山田の目が点になる。


「うっひょ~!! 花梨ちゃん、マジ寄りのマジ? 超絶美少女じゃないかあ~……っ!!」

「恵子ちゃん、おはよー」

「おはよ~! 言ってよ~~!! もぉ水臭いなあ~!」

「え~……」


 青子の隣には恵子もいて、花梨の姿に驚いていた。
 恵子がにこにこと余裕の笑みを浮かべる青子に「青子知ってたわね……!」と詰め寄り、青子は「ふふん、まーね♪」なんて優越感に浸っている。


「こないだちょっとね♪ ねー?」

「うふふ♪」


 トロピカルランド楽しかったね~、なんて話をし、青子と花梨は笑みを交わした。


「花梨ちゃん、よかった。勇気出してくれたんだね。ありがとう!」

「青子ちゃん……、こちらこそありがとうだよ……」

「んーん? 青子はなんにもしてないよ? 頑張ったのは花梨ちゃん」

「ん……ありがと……♡」

「あーん、朝から眩しい……! 花梨ちゃんすきー♡」

「わっ……あははは……」


 青子が花梨に抱きつき、恵子も「今日帰りにファミレス行こうよ」なんていつもの会話が始まる。


「う、うそだろ……あれ、葵なのか……?」

「あの根暗の……?」


 ……キャッキャとはしゃぐ青子たちの様子に、内田と山田は徐々に理解が追いついてきたようだ。


「そーだぜ? オメーらが散々陰口叩いてた彼女だよ」


 ――ケッケッケッ、後悔するがいい……!


 内田と山田の会話を聞いていた快斗は頭の後ろに手を組んでニヤニヤ。


「あんな可愛かったなんて聞いてない……。芸能人レベルだろアレ……」

「そうだよ、あんな可愛いって知ってたら悪口なんて言わなかった……」


 “夢じゃないよな……?”などと、内田と山田は互いに頬の肉を引っ張り合い「いてて」。夢じゃないことを諒解した。


「いや、見た目だけで陰口言うのは人として駄目だろ……」

「な、なあ快斗。葵……いや、花梨ちゃんに謝ったら許してくれるかな……?」

「お、俺も花梨ちゃんに謝りたい……!」


 快斗がツッコミを入れるも、内田と山田は花梨しか見ていない。


「……はー……すげーなお前ら。早速手の平くる~か。秒だぞ秒。あっきれた。ていうかオレの彼女に“花梨ちゃん”呼びやめてくんない?」


 ――明らかに態度が変わり過ぎだろ……!


 わかってはいたが、散々花梨の悪口を言っておいて秒で手の平返すとは。
 ただ素直なのか、プライドがないのか。
 ……自分の発言にはしっかり責任を持って欲しいものである。

 快斗は、自分以外の男に花梨を名前で呼ばせたくないので、不機嫌に返しておいた。


「えっ、でもあんなに可愛いなら“ちゃん”付けで呼ぶ権利くらい……!」

「そうだよ、人類の宝だろ!? もはやみんなのアイドル……」


 内田と山田が食い下がる。
 花梨の神々しさに当てられ、諦めきれないといった未練のある表情。話しながらも視線はやっぱりチラチラと花梨を見ていた。


「ねーよ。許可制だっつーの。あと宝とか言うな、オレんだ」


 ――ンにゃろ、いっちょ前に食い下がりやがって、絶対許可しねーぞ!


 花梨を“ちゃん”付けで呼んでいいのは、オレだけ。
 いや、青子と恵子はしょうがない。

 それ以上は認めない――と、快斗の頬はぷくっと膨らむ。


「っ、だ、だってよ、葵ってずっと前髪で目ぇ隠れてて顔がよくわかんなかったし、突然笑うし不気味だったんだよ……」

「不気味だからって陰口言うか? 女子一人に対してみんなしてさ」


 内田の言い訳に快斗が告げると、内田と山田の後ろで、花梨を悪く言っていた女子たちが気まずそうな顔をした。
 ついでにチラッとその女子たちにも目を向けてみれば……。


「だ、だってあの子、全然話し掛けてこないじゃない。そのくせクラスの人気者の快斗君と中森さんとは仲がよくて……。私たちなんて眼中にないって顔して。根暗の癖にわけわかんないから不気味だったのよ……!」


 花梨への悪口を言うグループ筆頭、おしゃれ好き女子力高めの深沢が、自ら言い訳をしだした。
 深沢が言うように、花梨は教室では基本無言。
 そしてたまに笑う。

 ……残念ながら花梨を知らない人からすれば、確かに不気味なのである。
 深沢たちを責められない気もするのだが……。


「……深沢ちゃんもさー、花梨が何かしたわけでもないのに隣のクラスの子に花梨のこと悪く言ってたよね? “不気味ちゃん”とかあだ名付けてたよな?」


 今まで花梨の件で快斗が言及したことはないが、快斗は花梨の彼氏。
 この機会にちょっと言っておこうと思い、口にした。


「っ、快斗君知ってたの!?」

「うん……たまたま聞いちゃったよ……」


 深沢が目を丸くする。
 花梨のことを好きになる前まで、深沢と喋ることも多かった快斗は、かつての女友達に弱った顔ではにかむ。


「っ……」


 自分たちの悪意が、憧れの快斗に筒抜けだったことを知り、深沢たちは顔を真っ赤にして黙り込むしかなかった。


「大体、花梨がオレと青子と仲良くしてたっつーのはさ、それはそうなんだけど、アレ、オレと青子が一方的に纏わりついてただけだぜ?」

「え?」

「花梨てさ、基本、誰に対しても塩対応なんだよ」

「え」


 誰に対しても塩対応……。
 ……はて?

 快斗の説明に深沢の首が横に傾いた。


「だからオレと青子がめげずにアタックし続けてただけ。あの子、すげー人見知りなんだ。慣れると懐いてくれるけど」

「うそ……。だってあいつ、前に私たちのこと見て笑って去ってったわよ……? バカにされたと思って腹が立って」


 花梨は人見知り……。
 快斗にそう教えられてもいまさら……。


 ――かなり不気味だったわよね……?


『フフフ……』


 以前、目が隠れて見えないほど厚ぼったい前髪の花梨に笑われ、走り去っていった姿を思い出し、深沢は肩を震わせる。
 ……得体が知れな過ぎて怖かったのだ。



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