白月の君といつまでも
-- Spring, about 17 years old
067:快斗の提案
「……そういうわけで、黒羽君、安心してもらえたかな?」
「え? あ……、はい……」
――おお、急に言い合いが終わった……!
しばし口喧嘩らしき言い合いを経て、最後に降谷と松田は和解(?)。
どういうわけかはよくわからないが、降谷は花梨に警護がつくから過度な心配はしなくていい、と言いたかったようだ。
……伊達は元警察官で、現在は警備会社のプロの警護スタッフ。
その警備会社は通常は警備業務が主だが、身辺警護も請け負っている。
明日挨拶に来る女性スタッフもかなり腕の立つ人物で、大男も簡単に制圧できる程の実力者だから、安心していいとのことだった。
プロの警護人がついてくれるのなら……少し不安材料を手放してもいいかもしれない。
一昨日から緊張で張り詰め気味だった快斗から、「はぁ……」と小さくため息が漏れた。
……花梨がサインし、警護契約は締結。
その後、降谷たちは花梨のトレーニングルームで再び汗を流し始める。
花梨と快斗は、その間リビングでゲームをしながら過ごした。
「じゃー、またなー」
「明日、挨拶に伺う前に連絡を入れる」
トレーニングが終わり、さっぱりすっきりした顔の松田と、仕事モードな伊達がそれぞれ靴を履き、花梨の家から出て行った。
「花梨ちゃん、高校生なんだからしっかり勉強するんだよ。色恋なんかに現を抜かさないように」
「零お兄ちゃん……」
「ちょっ、それは余計なお世話だろっ!!」
最後に降谷が快斗に冷たい視線をチラッと送ってから、花梨の頭を撫で、学業を頑張れと爽やかな笑顔で言い聞かせてくる。
……快斗が反論する前にドアは閉まり、言い逃げされた。
「……あのにーちゃんたち、本当に汗流して帰っていくのな……。しかもあの松田って人、シャワーまで浴びてったな……」
「ふふっ。そうだよ? いっつもあんな感じ。私、自分の部屋か、ここでゲームしてるし」
「そうなんだ……」
リビングに戻った花梨と快斗はソファに腰掛け、プレイ中のゲームを再開する。
「あっ! 花梨っ、今甲羅投げるなよっ! クラッシュしたじゃん!」
「へっへーんっ! 投げたもん勝ちーっ!」
「あ~~、またオレの負け確!」
「フッフッフ。アイテムの使いどころが肝だよねー♪ やったぁ♡ 一位ゲット~!」
「あー……くっそ。かわええ……♡」
カーレースゲームにはしゃぐ花梨に、快斗の頬は緩みっ放しだ。
花梨からは何も教えてもらえなかったが、同席してよかった。
……明日は自宅待機で花梨の外出はなくなり、明後日から警護のプロが付く。
ならばそこまで心配しなくていいかと思うと、安心して大好きな彼女の顔を眺めていられるというもの。
快斗は怪盗キッドとしての活動もあるし、花梨の元に来るのは着替えてからでないといけないが、それでもこれでいいとほっと胸を撫で下ろした。
「明日、本当は青子ちゃんと遊ぶ予定だったんだけどなー……」
「ガマンガマン、命大事に。だぜ?」
「そうだね……」
――今月は絶対大丈夫なのに……。
メッセージアプリで青子に明日の断りを入れ、快斗に宥められて、花梨は不服ながら頷く。
「なあ、花梨」
「ん?」
“ピコン!”
快斗に呼ばれたタイミングで花梨のスマホに通知が鳴る。
開くと青子から「大丈夫だよー! また今度遊ぼ♪ 明後日学校でね!」というメッセージと、トロピカルランドのマスコットキャラ・トロッピーのスタンプが届いていた。
「明後日からさ、この髪のまま学校行ってみない?」
「ええっ!? お婆さんのまま!?」
「おばぁって……大丈夫! 花梨は綺麗だよ。お婆さんなんてとんでもない……! みんな驚くぜ? 手の平クル~ってな!」
「てのひらくるー?」
スマホを操作する花梨の髪を一束手にして、快斗が
花梨は驚いたが、快斗は大丈夫だと優しい瞳で微笑んだ。
「オレ、彼女自慢したいなっ♡」
「んー……自慢になるのかな……。快斗、こんな白髪の彼女恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいもんか! 優越感に浸ってやるわ!」
――連休前に花梨の陰口を叩いていた奴ら、吠え面かくがいい……!!
本当の花梨を前にして惚れない男はいまい、女も然り。
機は熟した。
今一番彼女に近い男は快斗、自分のみだ。
隣に連れて歩いたら羨ましがられること間違いなし。
それに、彼女が自信を持って前を向いてくれるよう後押しするのは、彼氏の役目である。
「ゆうえ……? ……よくわかんないけど、快斗が大丈夫っていうなら……暑くなってきたしまあいいか……」
「……あ、なに? 実用的な問題……?」
――よっし! 花梨も大丈夫そうだぜ……!
花梨は今一つよくわかっていない様子ながら、快斗の言葉通りに頷く。
数日前までは拒否反応が凄かったが、毎日「可愛い」と言い続けた甲斐がある。
……いや、暑くなってきたとは……一体……。
「そう、暑いと蒸れちゃって」
「ハハハッ! じゃあ去年、結構大変だったんじゃねーの?」
「そうだよー。もう、汗だらだらで。夏なんて私、プールも見学してたでしょ? 暑くて辛かったよ……」
暑いと蒸れる。
そう、鬘は頭が蒸れるのだ。
去年の花梨は通常の体育はともかく、水泳は鬘が外れる危険があるためプールに入れなかった。
これからの季節、気温もぐんぐん上がり暑くなってくる。
鬘を外す、ちょうど良い機会だと受け入れることにした。
事あるごとに快斗が「綺麗だ」と、「大丈夫だ」と言ってくれる。
きっと傍で見守っていてくれるだろうし、怖くない。
彼が「大丈夫だ」と言えば、大丈夫な気がしてくるから不思議だ。
「おおっ♡ じゃあ、今年はプールに入れるっ!?」
「っ、な、なにその目……えっち」
「花梨の水着姿、楽しみにしてるっ♡ 夏になったら海でも行こーぜ!」
「海……ふふっ。行けたらいいね……!」
快斗の目がニヤニヤしている。なんだかイヤラシイけれど、本当に嬉しそうだ。
海に行くのは夏……。
その頃隣には居られないが、一緒に行ったイメージだけは膨らませておいた花梨だった。