白月の君といつまでも
-- Spring, about 17 years old
062:友達友達
◇
快斗のオートロック解除でエントランスの扉が開き、降谷たちは花梨の部屋へ向かおうとするが――。
「……なあ今の……男の声だったよな?(花梨、口塞がれてなかったか?)」
「…………」
松田が降谷に問うも、快斗の声を聞いてから、降谷はフリーズしたかのように黙り込んだまま動かない。
「おい、ゼロ?」
「……ああ、いや……友達だろ?」
行くぞ、と松田に背を叩かれ、ようやく降谷が口を開いて歩き出した。
「フム。……十中八九彼氏だな。青春してるな」
「……友達だろ?」
伊達が腕を組みながら、ウンウンと首を縦に振るものの、降谷はまたも“友達だろ?”を繰り返す。
認めたくないのだろうか……。
「っ、だよなー! 花梨に彼氏なんざ百万年早えっての! 俺が女にしてやる予定……なんだよ、ゼロ、睨むなよ。冗談に決まってんだろ」
「……犯罪だからな?」
松田の軽口に、降谷の視線がナイフのような鋭さを帯びる。
「お前が言うな、パツキン野郎。バレバレだぞ」
「……」
「まあ、とりあえず行ってみよーぜ。あんだけ可愛いんだ、花梨に男がいたって不思議じゃねーだろ? 結婚してるわけじゃねーんだし、いーじゃねーか」
「俺はそういうんじゃ……」
降谷の返答は、エレベーターの扉が開く音にかき消された。
松田と降谷は、伊達を置いて会話しながらスタスタとエレベーターに乗り込んでいく。
降谷の様子がなんだかおかしいが、今、花梨に男がいようがいまいが、松田的に結婚していないのなら問題はないらしい。
松田は花梨をかなり気に入っている。
そう、彼女が成人したら口説いてやろうと思うくらいには。
……降谷は自身の気持ちがよくわかっていないようで、複雑そうな顔をしていた。
「……そうか、お前ら……。花梨も怖いお兄さんたちに狙われて可哀想になあ……いや、一回り違うから怖いおじさんか?」
「「……(おじさん……)」」
最後に伊達が乗り込みぼそりと呟く。降谷と松田は黙り込んだ。
……花梨の部屋がある階は七階。
伊達が七階のボタンを押して扉を閉めるとエレベーターは上昇を始めた。
「ところでそれはなんだ?」
「あ、これか? これはケーキだな。焼いてきた」
降谷の手には少し大きなケーキの箱。
手土産だとはわかっていたが、松田が尋ねるとケーキだと判明する。
「焼いてって……」
「景がな、持ってけって。合作だよ」
「どれどれ……うはっ、すげえ! プロじゃん! 諸伏、ケーキも作れんのかよ。やっば、モテるわけだ」
箱の中身を覗くと綺麗に彩られたフルーツたっぷりのショートケーキが見え、松田は目を丸くした。
フルーツが乾かないよう、かつ艶を与えて美味しそうに見えるナパージュでコーティングされており、どう見てもプロが作ったであろうその出来栄えは見事だ。
「そーいや景の旦那、昔花梨にホットケーキ焼いてやってたっけ。花梨めちゃくちゃ喜んでたよなー。久しぶりに食べたって、ビービー泣いてよー」
「ああ、たくさん頬張って……(可愛かったな)」
「可愛かったよなー」
「……」
降谷があえて口にしなかった“可愛かった”という言葉を松田は平気で言ってのける。
そういうところが軽率だと思うと同時に、素直に思ったことを言える松田を少し羨ましく感じた降谷だった。
「お前ら、花梨のこと大好きだよなー」
「ったりめーよ。俺らの
「白姫か……ま、違いねー」
伊達が呆れたように告げると、松田が手を組み祈る仕草をしてからにやりと笑う。
白姫……という呼び名は初めて聞いたが、彼女にぴったりだ。
本当は別の呼び名であることを知りながらも、伊達は肯定した。
「白姫か……。悪くない」
「あの呼び方よりは気安い感じでいーだろ?」
「……まあな」
……降谷も同意見のようだ。
「にしても、花梨の彼氏ってどんな奴なんだろうな。俺よりイケメン?」
「……さあ? 友達だから高校のクラスメイトかなにかじゃないのか」
「ぷくくっ! 知ってるくせにとぼけちゃって! はいはい、友達友達ー」
松田は、あくまでも“友達”と強調する降谷に噴き出し、背をバンバンバンと叩いてやる。
「彼氏かー……花梨の奴、青春してんなー」
「班長、今日はナタリーさん、いいんですか?」
「ん? あー、友達と出掛けるってんで待ち合わせ場所まで送ってきたぞ」
穏やかな顔で花梨の彼氏について話す伊達へ、降谷は急に伊達の婚約者について話題を変えた。
……これ以上、彼氏彼氏と聞きたくなかったらしい。
「え、友達との待ち合わせ場所まで? 班長やっさし~」
松田も話題に乗ってきた。
「大事な女なんだから当たり前だろ……。お前らも花梨にばっかり構ってないで、ちゃんとした相手見つけろよ」
「俺、女に不自由してねーよ? 花梨ちゃんが大人になるまで適当に遊んどくし」
「松田お前……」
婚約者がいる余裕であろう伊達の一言に、松田が軽口で返すが、降谷のこめかみに血管が浮いているような……。
「なんだよ、成人したら犯罪じゃねーだろー」
「……。はあ……まあ、そうだな。まあ、花梨が松田を選ぶとは思えないけどな」
「なんでだよ。白猫、すげー懐いてんじゃん」
「……どうだか?」
「はあ? 俺は――」
松田と降谷の言葉の応酬が始まり、ああでもない、こうでもない。
目の前で始まった不毛な“子猫の飼い主争い”に、伊達は小さくため息を吐いた。
「花梨……全力で逃げろよー……」
花梨が助けを求めてきたら妻と全力で助けてやろう。伊達は心の中で誓った。
……ポン・ピン。“七階です”
エレベーターが七階に停まる。
降谷たちは花梨の部屋へと向かった。