白月の君といつまでも

-- Spring, about 17 years old
062:友達友達







 快斗のオートロック解除でエントランスの扉が開き、降谷たちは花梨の部屋へ向かおうとするが――。


「……なあ今の……男の声だったよな?(花梨、口塞がれてなかったか?)」

「…………」


 松田が降谷に問うも、快斗の声を聞いてから、降谷はフリーズしたかのように黙り込んだまま動かない。


「おい、ゼロ?」

「……ああ、いや……友達だろ?」


 行くぞ、と松田に背を叩かれ、ようやく降谷が口を開いて歩き出した。


「フム。……十中八九彼氏だな。青春してるな」

「……友達だろ?」


 伊達が腕を組みながら、ウンウンと首を縦に振るものの、降谷はまたも“友達だろ?”を繰り返す。
 認めたくないのだろうか……。


「っ、だよなー! 花梨に彼氏なんざ百万年早えっての! 俺が女にしてやる予定……なんだよ、ゼロ、睨むなよ。冗談に決まってんだろ」

「……犯罪だからな?」


 松田の軽口に、降谷の視線がナイフのような鋭さを帯びる。


「お前が言うな、パツキン野郎。バレバレだぞ」

「……」

「まあ、とりあえず行ってみよーぜ。あんだけ可愛いんだ、花梨に男がいたって不思議じゃねーだろ? 結婚してるわけじゃねーんだし、いーじゃねーか」

「俺はそういうんじゃ……」


 降谷の返答は、エレベーターの扉が開く音にかき消された。
 松田と降谷は、伊達を置いて会話しながらスタスタとエレベーターに乗り込んでいく。

 降谷の様子がなんだかおかしいが、今、花梨に男がいようがいまいが、松田的に結婚していないのなら問題はないらしい。
 松田は花梨をかなり気に入っている。
 そう、彼女が成人したら口説いてやろうと思うくらいには。

 ……降谷は自身の気持ちがよくわかっていないようで、複雑そうな顔をしていた。


「……そうか、お前ら……。花梨も怖いお兄さんたちに狙われて可哀想になあ……いや、一回り違うから怖いおじさんか?」

「「……(おじさん……)」」


 最後に伊達が乗り込みぼそりと呟く。降谷と松田は黙り込んだ。

 ……花梨の部屋がある階は七階。
 伊達が七階のボタンを押して扉を閉めるとエレベーターは上昇を始めた。


「ところでそれはなんだ?」

「あ、これか? これはケーキだな。焼いてきた」


 降谷の手には少し大きなケーキの箱。
 手土産だとはわかっていたが、松田が尋ねるとケーキだと判明する。


「焼いてって……」

「景がな、持ってけって。合作だよ」

「どれどれ……うはっ、すげえ! プロじゃん! 諸伏、ケーキも作れんのかよ。やっば、モテるわけだ」


 箱の中身を覗くと綺麗に彩られたフルーツたっぷりのショートケーキが見え、松田は目を丸くした。
 フルーツが乾かないよう、かつ艶を与えて美味しそうに見えるナパージュでコーティングされており、どう見てもプロが作ったであろうその出来栄えは見事だ。


「そーいや景の旦那、昔花梨にホットケーキ焼いてやってたっけ。花梨めちゃくちゃ喜んでたよなー。久しぶりに食べたって、ビービー泣いてよー」

「ああ、たくさん頬張って……(可愛かったな)」

「可愛かったよなー」

「……」


 降谷があえて口にしなかった“可愛かった”という言葉を松田は平気で言ってのける。
 そういうところが軽率だと思うと同時に、素直に思ったことを言える松田を少し羨ましく感じた降谷だった。


「お前ら、花梨のこと大好きだよなー」

「ったりめーよ。俺らの白姫しろひめさまだからな。神だよ神」

「白姫か……ま、違いねー」


 伊達が呆れたように告げると、松田が手を組み祈る仕草をしてからにやりと笑う。
 白姫……という呼び名は初めて聞いたが、彼女にぴったりだ。
 本当は別の呼び名であることを知りながらも、伊達は肯定した。


「白姫か……。悪くない」

「あの呼び方よりは気安い感じでいーだろ?」

「……まあな」


 ……降谷も同意見のようだ。


「にしても、花梨の彼氏ってどんな奴なんだろうな。俺よりイケメン?」

「……さあ? 友達だから高校のクラスメイトかなにかじゃないのか」

「ぷくくっ! 知ってるくせにとぼけちゃって! はいはい、友達友達ー」


 松田は、あくまでも“友達”と強調する降谷に噴き出し、背をバンバンバンと叩いてやる。


「彼氏かー……花梨の奴、青春してんなー」

「班長、今日はナタリーさん、いいんですか?」

「ん? あー、友達と出掛けるってんで待ち合わせ場所まで送ってきたぞ」


 穏やかな顔で花梨の彼氏について話す伊達へ、降谷は急に伊達の婚約者について話題を変えた。
 ……これ以上、彼氏彼氏と聞きたくなかったらしい。


「え、友達との待ち合わせ場所まで? 班長やっさし~」


 松田も話題に乗ってきた。


「大事な女なんだから当たり前だろ……。お前らも花梨にばっかり構ってないで、ちゃんとした相手見つけろよ」

「俺、女に不自由してねーよ? 花梨ちゃんが大人になるまで適当に遊んどくし」

「松田お前……」


 婚約者がいる余裕であろう伊達の一言に、松田が軽口で返すが、降谷のこめかみに血管が浮いているような……。


「なんだよ、成人したら犯罪じゃねーだろー」

「……。はあ……まあ、そうだな。まあ、花梨が松田を選ぶとは思えないけどな」

「なんでだよ。白猫、すげー懐いてんじゃん」

「……どうだか?」

「はあ? 俺は――」


 松田と降谷の言葉の応酬が始まり、ああでもない、こうでもない。
 目の前で始まった不毛な“子猫の飼い主争い”に、伊達は小さくため息を吐いた。


「花梨……全力で逃げろよー……」


 花梨が助けを求めてきたら妻と全力で助けてやろう。伊達は心の中で誓った。




 ……ポン・ピン。“七階です”

 エレベーターが七階に停まる。
 降谷たちは花梨の部屋へと向かった。



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