白月の君といつまでも

-- Spring, about 17 years old
059:狙撃未遂


「わぉ!(快斗の形してる……!)」


 風船は快斗の形をしており、自動でどんどんと大きく膨らんでいく。
 花梨は驚いて目を瞬かせた。


「今の、すごいシーンだったね!」

「え? あ、うんっ! びっくりした……!」


 思いのほか大きい声が出ていたらしく、青子に声を掛けられてしまう。
 花梨も慌てて3D眼鏡を装着し、前を向いて3D映画を楽しんだ。

 快斗が戻って来るまでに、何度か青子が花梨にくっついてきたが、彼女が彼を気にする様子はなかった。
 快斗が言っていたように、花梨に監視を任せっきりにしている……。

 そうして、そろそろ映画も終わる時間。
 物語は序破急を経て、爆音とともに大団円で終わった。


「うわぁ~~っ♡」


 パチパチパチ。
 青子が興奮気味に拍手してから3D眼鏡を外す。


「おもしろかったねー♡」

「はあっ、はあっ、あ、ああ……」


 ふいに、青子の視線が快斗に向けられたが、快斗は花梨を抱きしめていた。


「ちょっ!? 快斗、なに花梨ちゃんに抱きついてんのよ、えっち! 離れなさいよっ!」

「あ、ああ……ちょっと寝ぼけてたみてーで……」

「なーんで、あんなにおもしろかったのに寝ちゃうのよバ快斗~!!」


 青子が慌てて花梨から快斗を引き剥がし、叫んだ。だが、花梨は茫然とし固まったままで。
 快斗はといえば、青い顔で身体を震わせながら、花梨の様子を窺っている。

 ……三人は映像館を出て、閉園時間も間近ということで、帰宅することにした。


「……あ、お父さんだ!」

「え? なんだ、テレビか……」


 出入口に向かい、通り掛かった園内の巨大モニタに、夜のニュースが流れる。そこに中森警部の映像が映った。


『見てるか!? 怪盗キッド!! この次は必ずきさまを逮捕してやる!!』


 ……インタビューを受け、興奮気味に唾を飛ばしながら告げる中森警部の様子に、犯行時、青子の変装をしてから逃げて来た快斗は、自分の疑いは晴れたと感じた。


「快斗はやっぱり快斗ね! よかったね、花梨ちゃん!」

「……、……へ? あ、うん……」


 青子が花梨の肩をぽんと叩くも、花梨は上の空だ。
 ……映像館で遭ったことを考え込んでいる。


「あー、よかったよかった!! 安心したらアイス食べたくなっちゃった。買って来るね~!」


 そう言って、青子はアイスクリームワゴンを見つけ、駆けて行った。


「花梨……大丈夫か? 怪我は?」


 青子のいない間に快斗は、花梨に近づき声を掛ける。


「う、ん……してない。大丈夫……今はまだ……」

「今は……?」

「ん……」

「……あとで話そう? まずは青子を帰してやらないと」

「うん……」


 ……快斗が映像館に戻ってくる直前のことだ。

 快斗は予告通り、天使の王冠を見事盗み出し、映像館のテントを突き破って戻って来たのだが、落下する視界の端で、花梨に向けてボウガンの矢が放たれるのを目撃した。
 一本、二本と矢が放たれ、落下しながらトランプ銃を構えるも間に合わない。 万事休すかと思われたが、なぜか矢は空中で折れて弾け飛んだ。

 そして、少し遅れて三本目が放たれる。


「はあっ、はあっ……花梨っ!」

「へっ?」

「あっぶねえっ!!」

「ええっ!?」


 ……これなら間に合う。
 席に着地した快斗はすぐさま花梨を抱き寄せ、ボウガンの矢に向けトランプ銃を発射。
 トランプに当たった矢は逸れ、床に落ちた。


「……び、びっくりしたー……(い、今の矢だよ、ね……?)」

「っ、オレもだよ! はあっ、はあっ(ってか犯人はどこだ!?)」


 ボウガンが放たれた方角を見たが、すでに誰もおらず……。
 一体何が起こったのか、花梨も快斗もわからなかった。

 周りは映画のクライマックスの爆音で気付いていない。
 人の数が多過ぎて、犯人の特定もできないまま、逃げるように映像館を後にしたのだ。


「お待たせ~! じゃーん! アイスだよ~!」


 ……青子がアイスを手に戻って来た。
 快斗と花梨は互いに目を合わせた後で、青子に笑顔を向ける。


「わぁっ! おいしそう! 青子ちゃんありがとう! お金払うね、いくらだった?」

「いいよいいよ! 今日は青子に付き合ってくれたから二人にお礼!」

「でも」


 青子が買って来たアイスは三種類。
 イチゴバナナに、メロンシャーベット、チョコレートアイスだ。

 花梨には青子に奢ってもらう理由がない。
 遠慮しようとしたが、快斗が青子からチョコレートアイスを受け取り、一舐めする。


「サンキュー。やっぱチョコレートアイスだな。礼だって言ってるし、花梨ももらっておけばいいんじゃねーの?」

「そう?」

「そうそう、どっちがいい? 青子、メロンシャーベットが食べたいな~」


 快斗が、ウマウマとチョコレートアイスを食べながら言うものだから、花梨は青子をちらり。
 青子にメロンシャーベットが良いと言われたため、イチゴバナナをもらうことにした。


「ん~♡ おいしぃっ♡ ありがとう、青子ちゃん!」

「ンフフ~♡ どういたしまして! 花梨ちゃんこそ、今日は付き合ってくれてありがとう! 快斗もね」

「ん? あ、ああ……」


 晴れ晴れとした青子の笑顔に、花梨と快斗は互いに視線を交わし微笑み合う。
 きっと青子は、幼なじみの疑いを晴らすため、急だが今日、トロピカルランドに誘ったのだ。疑いが晴れほっとしたことだろう。

 ……青子の気持ちが花梨にはなんとなくわかる。

 花梨も、もし新一が事件の犯人だと疑われたら、疑いを晴らすためにあれこれと動いたに違いない。
 恋愛感情はないが、幼なじみというものは、それくらい大切な存在なのだ。

 そうして三人はアイスを食べ食べ帰宅の途に就く。
 今日は三人なので、バスで帰ることにした。










「……?」


 バス停ではバス待ちの客が複数いて混雑し、長蛇の列となっている。
 二人ずつ並ぶ蛇行方式で花梨たちもそこに並んでいたのだが、ふと誰かの視線を感じた。花梨はその方向へと顔を向ける。


「花梨、どした?」

「あ……ううん、誰かに見られている気がしたんだけど……」

「なに!?」


 映像館での出来事のせいか、快斗は険しい顔で花梨の視線の先に目を凝らす。


「……でも気のせいだったみたい」

「そっか……。こっちおいで」

「え?」

「もう少し内側に入っていた方が安全だ」

「快斗……ありがと……」


 快斗に手を引かれ、花梨は列の内側へと移動させられた。
 視線を感じた方向から見えない位置に移動すれば、おいそれと襲われることはないはず――。

 そう考えた快斗は、自分が花梨の壁になるように彼女の腰に手を回した。


「……、……、……っ(なになになにー!? 二人の雰囲気がやばいんですけどー!?)」


 快斗と花梨のやり取りを見た青子の頬が、真っ赤に染まった。



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