白月の君といつまでも
-- Spring, about 17 years old
058:重っ
「もうそんな時間か。オレも腹減った! メシ行くかー!(恥ずかしがる花梨かーいー♡)」
「賛成~! 青子に任せてー!(ああ~、なになに? そんなに恥ずかしがるとこー!?)」
歩き回っていると腹も空くもので……。
快斗が腕時計を見やり、時刻は十七時過ぎ。
青子主導で海のレストランへとやって来た。
まだ十七時ということもあり店内の客は疎ら。
海のレストランという名だけあって、メニューは魚介類を中心としたものばかりだ。
花梨、快斗、青子と三人がともに注文を済ませ待つこと十分。
花梨と青子の料理が先にテーブルに並んだ。
「てめえ、オレの目の前で魚食うことないだろ!?」
「だって好きなんだもーん♡」
青子が白身魚のムニエルを美味しそうに頬張る。魚料理を注文したからか、快斗は憤慨し怒り出した。
「魚……?」
二人の様子に花梨は、自分の注文したエビのフリットを食べつつ首を傾げる。
「快斗って、魚嫌いなのよー?」
「あ、そうなんだ?」
「こんなにおいしーのにねっ♡」
ナイフとフォークで、青子が白身魚のムニエルをパクパクと口に運ぶ。
添えられたソースが絶品のようで、口に入れる度口角を上げていて幸せそうだ。
「……花梨はエビにしたんだな。うん……さすがわかってる!」
「へ? あ、入口におすすめって書いてあったから……」
「オレもエビにしたんだ!」
快斗がなぜかうんうんと満足そうに頷いているが、花梨に好き嫌いは特にない。
腹は空いているが、特に食べたいものもなかったから、レストランの入口に設置されたウェルカムボードに書かれた“甘エビのフリット”を注文したまでである。
「お待たせ致しました」
「おっ、来た来た♪」
快斗の前に大きなエビがのった皿が配膳される。
これはオマール海老というものではなかったか。オマール海老の白ワイン蒸しというのを頼んだらしい。
魚は苦手らしいが、他の魚介は大丈夫そうだ。
「青子、てめえオレの前で魚食ったこと憶えてろよ……」
「魚くらいでなによ」
「ぜってー仕返ししてやっからな」
「ふんっ、やれるもんならやってみなさいよ」
快斗と青子が険悪な状況になってしまい、場の空気が悪くなる。
ところがそんな中でも花梨は。
「……甘エビおいし……♡ んっ、ふふっ♪」
――殻ごと食べるからカルシウムも取れるし、添えられたカリカリワカメでマグネシウムもばっちりね。
一人、まったりエビの美味さに舌鼓を打っていた。
二人が揃うと言い合いが始まる。
……快斗と青子の喧嘩はもう慣れっこである。
花梨も新一と言い合いになってしまうことがあるから、幼なじみはこういうものなのだと理解しているつもりだ。
そのうち言い合いをしていた二人も、花梨が大人しいことに気付き、置いてけぼりにしてしまったかと心配したが、美味しそうにエビのフリットを食べる彼女に注目――。
「「……きゃわわ♡」」
にこにこと機嫌良さそうに食事をする花梨に、快斗と青子は釘付けになった。
「はー、おいしかった~♪」
「うん、おいしかった~!」
「可愛かった……、花梨は何してても可愛いからオレ困っちゃう」
ゆっくり食事を摂り、レストランを出て青子を先頭に、花梨、快斗と続く。
人気のレストランだったらしく、店を出る際、これから食事をする客が待ち行列を作っていた。
早めの夕食は正解だったかもしれない。
……快斗は、花梨の食事風景を収めたスマホを見ながらニヤニヤ。
「快斗……あんた花梨ちゃんのこと好き過ぎでしょ……。食事中ずっと花梨ちゃんにスマホ向けて……」
「しょーがねーだろ、好きなんだから。オレのスマホ花梨の画像でいっぱいなんだぜ♪」
ほらっ、と快斗は“花梨フォルダ”なる、画像データを青子に見せつけた。
そこには動画を含むサムネが二百枚以上――。
中には盗撮っぽいものもあるのだが、パッと見ではわからない。
……付き合い始めてまだ間もないというのにその量。
「重っ……(花梨ちゃん可哀想……)」
――青子の“花梨フォルダ”も中々のものだけどね……!
青子も負けじと花梨フォルダを開いて快斗に見せつける。
その枚数は百二十二枚……。
「うわっ! これっ、
「いやよ! これは青子のなの!」
「チッ。いーよいーよ。花梨にやってもらえばいーし! なー花梨? あれ?」
「……え? 花梨ちゃん?」
いつの間にか並んで歩いていた快斗と青子だったが、花梨がその場にいないことに気が付き、辺りを見回した。
花梨は一人、離れた場所で【CAPTAIN E.T.】なる大型テント造りの立体映像館を見上げている。
二人が花梨トークで盛り上がっている間に、話題の中心の彼女はその場から抜け出していたらしい。
「ねー二人とも、映画見ない~? 上映時間、四十分だって!」
「いいね~! 面白そ~、みよみよ~♡」
花梨の誘いに青子はウキウキで駆けていく。
「映画……」
――そろそろ時間か……。
快斗が腕時計を見ると、時刻は十九時二十分。
予告時間は二十時だから、抜け出すのにちょうどいい頃合いである。
予告時間に今回のターゲット“天使の王冠”を盗み出し、戻ってくるつもりだ。
「楽しみだね~、花梨ちゃんっ♡」
「そうだね」
映像館の中へと入り、花梨を真ん中にして左に快斗、右に青子。三人並んで座った。
青子は花梨の腕を抱きしめ、ぴったりくっついて前を向き、映画が始まるのを待っている。
……よし、これなら小道具も使わず、スムーズに行けそうだ。
快斗は不自然にならないように心掛けて、口を開いた。
「あ、オレ……立体映画って苦手なんだ……外で待ってるよ……。花梨悪いけど青子と楽しんで――」
「逃がすわけないでしょ!」
「へ?」
“ガチャンッ!!”
金属が嵌る音で快斗の言葉は途中で遮られた。
手首にワッパ……手錠が掛けられている……。
冷たく硬く、重い――その手錠、どう見ても本物だ。
……父親から借りてきたのだろうか。
「ごめん……もう少しだけ……、もう少しだけじっとしてて」
花梨を挟んで、青子は身を乗り出し必死な顔。
そして再びガチャン!!
金属が嵌る音が聞こえた。
「なぜ私にまで……?」
「っ」
快斗に嵌めた手錠の片方は花梨に掛けられ、花梨と快斗は互いに手元を見てから目を合わせる。
「二人が一緒にいれば安心かな~って。さあ、みよみよ♡♡」
青子は安心したように席に着き、3D眼鏡を掛け前を向いた。
……そろそろ上映時間だ。
『ただ今からキャプテンE.T.を上映致します……』
館内アナウンスが流れ、青子がそちらに集中し始める。
映像館に入る前からウキウキしていたから、かなり楽しみのようだ。
快斗の見張りは花梨に任せておけばいい、とでも思っているのかもしれない。
そんな青子を見計らい、花梨は快斗に耳打ちした。
「ね、快斗。青子ちゃん、私も疑ってるのかな?」
「いんや? そうじゃねーと思う。どっちかっつーと、花梨がオレの正体を知らねーと思ってっからわざと掛けたんだよ」
「そっか……私、手錠嵌められたの初めて。重いね」
「はは、気分わりぃよな、ごめん」
「あ、ロープなら結構あるんだけどね、よく捕まっちゃうから」
「……、……マジか」
――普通、ロープで縛られるなんてあんまないけどな……。
この間もそうだが、花梨はどれだけ拐われたりしているのだろう。
表情の変化もなく、平然と言ってのける彼女に快斗は微苦笑する。
「おかげでロープ抜けは得意だったりするよ?」
「はは、すげえな。花梨ならオレのマジックの助手もできそうだな」
「マジックの助手……? ふふっ、それ楽しそうだね!」
――マジックの助手かぁ……できたらきっと、楽しかったんだろうね……。
そう、未来があれば。
数年先のことなど花梨には考えられない。
快斗の未来に花梨、自分がいることはきっとないから。
……花梨はにこにこと笑顔を返しておいた。
「……なあ花梨、オレそろそろ行ってこようと思うんだ」
「ん、ちょうどいい頃合いだもんね」
腕時計を見ると、時刻は十九時二十七分。
キッドの犯行予告時刻まであと僅かだ。
「青子のこと頼む……つっても、今日の様子を見る限り、青子はオレのことなんか気にしちゃいねーと思うけどな。念のための手錠だと思う。バレそうだったら適当に誤魔化してくれるか?」
「うん、任せて。気を付けて行って来てね」
「うん……いってきます」
ちゅっ。
快斗は花梨の唇に軽く口づけ、あっさり手錠から手首を抜き、持ってきた小道具――風船を膨らまし始めると、あっという間に去って行った。