白月の君といつまでも

-- Spring, about 17 years old
054:トロピカルランドへの誘い







 連休二日目。

 あれから昨日は花梨の家に帰宅した。
 二人は疲れていたにも拘わらず、仲良く就寝――。

 花梨は新一と連絡を取ってはいないが、阿笠から、新一が小五郎のおいちゃん――否、小五郎と蘭とともに、弥生町に行ったと連絡をもらった。
 なんでも誘拐事件がどうのと言っていて、小さくなってもそこは変わらないようだ。早速事件に首を突っ込んでいるらしい。
 小さな身体でも事件に挑む、そのバイタリティーには敬服してしまう。

 “ピコン!”

 快斗のスマホがメッセージを受信した。

 ……現在時刻は午前十時半。
 二人とも一時間半前には起きて、風呂と簡単な朝食を済ませた。
 その後まったり過ごそうということで――。

 ベッドの上で壁に背を預け、電子書籍を読む花梨の膝に頭をのせた快斗が、スマホ片手に白い絹髪をくるくると弄びながら、言いづらそうに口にした。


「あ……花梨悪い、今日なんだけど、オレさ……」

「あ、お仕事?」

「そ、お仕事ー……って、ははは……」

「怪盗キッドから予告状が出たーって、青子ちゃんからメッセージがきてて。トロピカルランドに行こーってお誘いが……」


 ほら、と花梨はメッセージアプリの画面を快斗に見せる。
 そこには怪盗キッドの予告状の件と、『花梨ちゃん! 急だけど、今日トロピカルランドに快斗と一緒に来て欲しいの!』と書かれていた。

 二日連続のトロピカルランド……。
 昨日はたくさん歩いたし、衝撃的なこともあったし、家に帰ってからも運動したしで、花梨は少々お疲れ気味である。


「そうなんだよ。こないだちょーっとヘマしちまってさ」

「そうなんだ? 無事でよかった」

「へへっ、そう簡単には捕まんねーよ」

「そうなの? じゃあ、私が捕まえちゃおっかな~」


 ぎゅっと、花梨は自身の膝にのる快斗の頭を抱きしめる。


「わっ!? っ、花梨になら捕まりたい!(やわらけー……好い匂い♡)」


 花梨の柔らかな感触に包まれた快斗は、ぐりぐりと首を左右に動かした。


「んンッ♡ もぉっ、ふふふっ♪ ところでヘマってなにしたの?」

「青子の親父さんに顔見られた、たぶん」


 胸の合間から顔を覗かせる快斗が苦笑いを浮かべる。


「あら……あ、ね、青子ちゃんのお父さんって、ひょっとして中森警部?」


 確か青子は父親が警察官だと言っていた。怪盗キッドを主に追っていると。
 あの夜会った中森警部がそうなら……。

 花梨は思い当たるところがあり尋ねた。


「知ってんのか?」

「ん、キッドさんと初めて逢った夜に会って、少しお話ししたよ」


 ――抜け目がない感じで、刑事さんらしい刑事さんだったな……。


 新一に電話するまで信用してくれなかったし、責任感も強そうな人だった。
 中森警部を思い出し、花梨はキッドを追う刑事が、快斗の隣に住んでいるということに不思議な因果を感じる。


「……その節は、どうもありがとうございました。私のお嬢さん」

「あ、どういたしまして。ふふっ」


 急に快斗は起き上がり、ベッドから下りると、どこから取り出したのかシルクハットを被ってみせた。
 Tシャツにスキニーパンツというラフな格好ながら、ボウ・アンド・スクレープ――貴族のように恭しいお辞儀は、完璧に様になっている。
 そんな彼の姿に、花梨は不覚にもドキリとしてしまった


「で、青子のヤツ、オレが怪盗キッドだって疑ってるみてーなんだ」

「青子ちゃんて鋭い~」


 ぽすっと、キッドのシルクハットが花梨の頭に被せられ、快斗がベッドに戻ってくる。再び花梨の腿に頭をのせ寝転がった。


「そうなんだよなあ。あいつあんなに鋭い奴じゃなかったと思うんだけど……で、だ」

「ん?」

「予告状の時間は二十時。その時間に一緒にいろって言われてさ」

「トロピカルランドかあ……」


 花梨はシルクハットのブリムに触れて少し深く被る。
 身体に少々倦怠感が残ってはいるが、動けなくはない。
 どうしたものか……。

 シルクハットを目深に被り考え込んでみたものの、膝枕中の快斗は花梨を見上げたままだ。
 目がずっと合っていたことに気づき、花梨はにこっと口角を上げた。


「花梨も一緒なら二重で無実の証明にもなるし、三人で行こうって、ついさっき」

「あ、さっき鳴ってた通知はそれだったのね」

「そ。花梨、行けそうか? 時間は十五時待ち合わせだから、まだゆっくりできるけど」


 予告の時間は二十時だから、青子は不自然にならないよう十五時に約束したのだろう。
 こちらに気を遣ってなのか、単に花梨と遊びたいというのもあり得そうだが……。


「ん……がんばる」

「頑張んなくてもいいんだぜ? 昨日の疲れが残ってるだろ? オレ、これからちょっと知り合いのとこに行って、仕込みしてくっから一人でもいけるし」


 ――花梨には、昨日も頑張ってもらっちまったもんなあ……♡


 今朝一緒に風呂に入った時、花梨はかなりぐったりしていた。
 主に快斗、自分のせいで……。

 一人暮らしの可愛い彼女の部屋に泊まったら、歯止めが利かなくなる彼氏はきっと自分だけじゃないはず。
 本当は花梨も一緒に行けたら心強いが、無理をさせたくはない。


「うん……快斗が一人でも大丈夫なのはわかるんだけど、青子ちゃんと二人きりでデートされるのは嫌だなーって」


 花梨は僅かに頬を膨らましながら告げてみる。

 幼なじみ同士、遊園地くらい行くこともあるだろうけれど、快斗には既に恋人がいるわけで。
 そういうことは、お付き合いしている相手がいる以上、してはいけない行為だと花梨は思うのだ。

 ……花梨も新一に誘われたが断った。
 だからではないが、快斗もそれくらいは察してくれたら嬉しいのだが……。


「え……? そ、それってもしかして嫉妬か?(花梨が焼きもち焼いてくれてる!?)」

「……さあ~?」


 ――あ、気づいてくれたみたい……?


 花梨が頬を膨らましつつ言ったからだろうか、快斗の目は一瞬丸くなり徐々に表情が喜びに綻んでいく。


「ちょ、花梨ちゃん! そこは素直になろうよ!」

「ふふふっ、浮気しちゃやだよ? 泣いちゃうからね」

「っ! ああも~! オレは浮気なんかしねーよ! てかやったぜ! 花梨の初焼きもち、いただきましたっ!」

「ふふっ……っン!?」


 “ちゅっ♡”


 ……花梨の嫉妬が嬉しかったらしい快斗に、顔を引き寄せられ口を塞がれた。



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