白月の君といつまでも
-- Spring, about 17 years old
054:トロピカルランドへの誘い
◇
連休二日目。
あれから昨日は花梨の家に帰宅した。
二人は疲れていたにも拘わらず、仲良く就寝――。
花梨は新一と連絡を取ってはいないが、阿笠から、新一が小五郎のおいちゃん――否、小五郎と蘭とともに、弥生町に行ったと連絡をもらった。
なんでも誘拐事件がどうのと言っていて、小さくなってもそこは変わらないようだ。早速事件に首を突っ込んでいるらしい。
小さな身体でも事件に挑む、そのバイタリティーには敬服してしまう。
“ピコン!”
快斗のスマホがメッセージを受信した。
……現在時刻は午前十時半。
二人とも一時間半前には起きて、風呂と簡単な朝食を済ませた。
その後まったり過ごそうということで――。
ベッドの上で壁に背を預け、電子書籍を読む花梨の膝に頭をのせた快斗が、スマホ片手に白い絹髪をくるくると弄びながら、言いづらそうに口にした。
「あ……花梨悪い、今日なんだけど、オレさ……」
「あ、お仕事?」
「そ、お仕事ー……って、ははは……」
「怪盗キッドから予告状が出たーって、青子ちゃんからメッセージがきてて。トロピカルランドに行こーってお誘いが……」
ほら、と花梨はメッセージアプリの画面を快斗に見せる。
そこには怪盗キッドの予告状の件と、『花梨ちゃん! 急だけど、今日トロピカルランドに快斗と一緒に来て欲しいの!』と書かれていた。
二日連続のトロピカルランド……。
昨日はたくさん歩いたし、衝撃的なこともあったし、家に帰ってからも運動したしで、花梨は少々お疲れ気味である。
「そうなんだよ。こないだちょーっとヘマしちまってさ」
「そうなんだ? 無事でよかった」
「へへっ、そう簡単には捕まんねーよ」
「そうなの? じゃあ、私が捕まえちゃおっかな~」
ぎゅっと、花梨は自身の膝にのる快斗の頭を抱きしめる。
「わっ!? っ、花梨になら捕まりたい!(やわらけー……好い匂い♡)」
花梨の柔らかな感触に包まれた快斗は、ぐりぐりと首を左右に動かした。
「んンッ♡ もぉっ、ふふふっ♪ ところでヘマってなにしたの?」
「青子の親父さんに顔見られた、たぶん」
胸の合間から顔を覗かせる快斗が苦笑いを浮かべる。
「あら……あ、ね、青子ちゃんのお父さんって、ひょっとして中森警部?」
確か青子は父親が警察官だと言っていた。怪盗キッドを主に追っていると。
あの夜会った中森警部がそうなら……。
花梨は思い当たるところがあり尋ねた。
「知ってんのか?」
「ん、キッドさんと初めて逢った夜に会って、少しお話ししたよ」
――抜け目がない感じで、刑事さんらしい刑事さんだったな……。
新一に電話するまで信用してくれなかったし、責任感も強そうな人だった。
中森警部を思い出し、花梨はキッドを追う刑事が、快斗の隣に住んでいるということに不思議な因果を感じる。
「……その節は、どうもありがとうございました。私のお嬢さん」
「あ、どういたしまして。ふふっ」
急に快斗は起き上がり、ベッドから下りると、どこから取り出したのかシルクハットを被ってみせた。
Tシャツにスキニーパンツというラフな格好ながら、ボウ・アンド・スクレープ――貴族のように恭しいお辞儀は、完璧に様になっている。
そんな彼の姿に、花梨は不覚にもドキリとしてしまった
「で、青子のヤツ、オレが怪盗キッドだって疑ってるみてーなんだ」
「青子ちゃんて鋭い~」
ぽすっと、キッドのシルクハットが花梨の頭に被せられ、快斗がベッドに戻ってくる。再び花梨の腿に頭をのせ寝転がった。
「そうなんだよなあ。あいつあんなに鋭い奴じゃなかったと思うんだけど……で、だ」
「ん?」
「予告状の時間は二十時。その時間に一緒にいろって言われてさ」
「トロピカルランドかあ……」
花梨はシルクハットのブリムに触れて少し深く被る。
身体に少々倦怠感が残ってはいるが、動けなくはない。
どうしたものか……。
シルクハットを目深に被り考え込んでみたものの、膝枕中の快斗は花梨を見上げたままだ。
目がずっと合っていたことに気づき、花梨はにこっと口角を上げた。
「花梨も一緒なら二重で無実の証明にもなるし、三人で行こうって、ついさっき」
「あ、さっき鳴ってた通知はそれだったのね」
「そ。花梨、行けそうか? 時間は十五時待ち合わせだから、まだゆっくりできるけど」
予告の時間は二十時だから、青子は不自然にならないよう十五時に約束したのだろう。
こちらに気を遣ってなのか、単に花梨と遊びたいというのもあり得そうだが……。
「ん……がんばる」
「頑張んなくてもいいんだぜ? 昨日の疲れが残ってるだろ? オレ、これからちょっと知り合いのとこに行って、仕込みしてくっから一人でもいけるし」
――花梨には、昨日も頑張ってもらっちまったもんなあ……♡
今朝一緒に風呂に入った時、花梨はかなりぐったりしていた。
主に快斗、自分のせいで……。
一人暮らしの可愛い彼女の部屋に泊まったら、歯止めが利かなくなる彼氏はきっと自分だけじゃないはず。
本当は花梨も一緒に行けたら心強いが、無理をさせたくはない。
「うん……快斗が一人でも大丈夫なのはわかるんだけど、青子ちゃんと二人きりでデートされるのは嫌だなーって」
花梨は僅かに頬を膨らましながら告げてみる。
幼なじみ同士、遊園地くらい行くこともあるだろうけれど、快斗には既に恋人がいるわけで。
そういうことは、お付き合いしている相手がいる以上、してはいけない行為だと花梨は思うのだ。
……花梨も新一に誘われたが断った。
だからではないが、快斗もそれくらいは察してくれたら嬉しいのだが……。
「え……? そ、それってもしかして嫉妬か?(花梨が焼きもち焼いてくれてる!?)」
「……さあ~?」
――あ、気づいてくれたみたい……?
花梨が頬を膨らましつつ言ったからだろうか、快斗の目は一瞬丸くなり徐々に表情が喜びに綻んでいく。
「ちょ、花梨ちゃん! そこは素直になろうよ!」
「ふふふっ、浮気しちゃやだよ? 泣いちゃうからね」
「っ! ああも~! オレは浮気なんかしねーよ! てかやったぜ! 花梨の初焼きもち、いただきましたっ!」
「ふふっ……っン!?」
“ちゅっ♡”
……花梨の嫉妬が嬉しかったらしい快斗に、顔を引き寄せられ口を塞がれた。