白月の君といつまでも

-- Spring, about 17 years old
050:帰宅


「ごめん、待たせちゃったね、行こ……」

「ずいぶんなげー通話だったな」

「そう?」

「オレより仲良い友達ができたみたいで何よりだ」

「そうかもねー。じゃ、行こっか!」


 通話を終えて戻って来ると新一からジト目を向けられた。
 少々皮肉に聞こえた気がしたが気のせいだろう。
 焼きもちでも焼いているのやら、新一が頬を膨らませている。


「そうかもねって……、……くそ、なんなんだよ……」

「ほら、新ちゃん手出して」

「は……?」


 花梨は新一の前に手を差し出す。


「ちっちゃい新ちゃんはいつ迷子になるかわからないでしょ」

「なんねーよ……。迷子ってそりゃオメーじゃねーのかよ……」

「でも逸れると困るから手、つなご? 園内マップは頭に入ってるから出口まで案内してあげる!」

「っ、しゃーねーなあ……」


 悪態をつきつつも新一は月のような優しい笑顔の花梨に癒され、手を握り歩き出した。
 しばらく花梨の先導で歩いていたのだが……。


「……花梨、オメーさ……」

「んー? なぁに~?」

「出口、逆方向だぞ。オレ、この場所昼間通ったから知ってる。この先別の島に出る」

「っ、新ちゃん! そういうことは先に言ってよ~!」

「はははっ! オメーがうっかりなんだよ! あ。うっかりんか?」

「むぅっ! ちょっと新ちゃん酷くない!?」

「はははっ!」


 どんな時でも長閑な雰囲気を纏う花梨に、新一は自身に起こった異常事態に対する漠然とした不安が少し和らいだ気がして笑った。









 帰りはバスで帰ることになり、バスが来るまでバス停で待つ。

 花梨と歩いているうちに閉園時間を迎えたらしく、既に閉園したということもあって、出口で少々注意を受けたが気を付けて帰るようにと最終バスの時刻を教えてもらった。
 ……客は花梨と新一以外いない。


「えー、それは自業自得ってものでしょ」

「……だな」

「新ちゃんは、昔から事件に首を突っ込み過ぎなんだよ」

「わーってる。今回ばかりは反省してるよ」


 ……時刻は午後十時前。

 肌寒い中 身の上に起こったことを新一が詳しく話すと、花梨は呆れたようにジト目を送る。

 新一は昼間ミステリーコースター内で起きた殺人事件を解決し、その後怪しい黒ずくめの男たちの後を追って裏取引の現場を目撃。
 証拠を押さえていた途中で、すっかり失念していたもう一人の黒ずくめの男によって背後から襲われ頭を殴打された。

 意識が朦朧としている中で、謎の毒薬を飲まされ身体が溶けるように熱くて死ぬかと思ったものの、気が付いた時には身体が縮んでいたらしい。


「新ちゃん、そんなこと言わないで。今、こうして生きてるんだから」

「……そうだな」


 ……今回ばかりは新一もかなり反省している様子。
 花梨が新一の事件捜査に巻き込まれたことはあまりないが、彼が嬉々として自ら事件に首を突っ込んでいくことは知っている。
 だから今回のは完全に新一の自業自得なのだ。


(……本当に、生きていてよかった。あの時、あの男たちが差し出した薬には、救いようのない『死の色』がこびりついていたから)


「どうやったら戻るんだろうね」


 ひとまずは安堵したが、元の姿に戻るにはどうすればいいのだろう…。


「阿笠博士ならなんとかできねーかな……」

「阿笠博士が……? なるほど……彼天才だものね! ありかも。けど、まずは成分とか色々調べなきゃじゃないかな?」


 新一の家の隣に住む阿笠博士は自称天才発明家だ。自称と言っているが、花梨は本当に彼は天才だと思っている。
 彼ならもしかすると解毒薬を作れるかもしれない。

 ただそれにはまず、現物がないとどうにもならない気がするのだが……。


「……花梨オメー、意外と頭いいのな」

「あのね……、推理は苦手な私だけど推理ものは大好きなんだよ? そういう手口のものだって読むんだから。ちょっとファンタジー色が濃い気もするけどーってー……へっくしょいっ!」


 ちょっと小馬鹿にされた仕返しではないが花梨は盛大にくしゃみをし、新一に唾を飛ばしてしまった。


「……おまえなあ……!(怒)」

「ごめんごめん、こんな時間までいるつもりなかったから寒くなってきちゃって」


 ――ワンピースと薄いカーディガンじゃまだ寒いや。


 花梨は新一の顔に飛ばしてしまった唾を携帯用のウェットティッシュで拭き取ってやる。

 五月に入ったとはいえ、朝晩はまだ肌寒い。
 花梨はぶるっと身震いをした。
 すると……。


「……ん!」

「え……? あ、貸してくれるの?」

「これ着とけよ、今のオレにはでかくて邪魔なんだ。服は元の大きさだから、オメーなら着れるだろ」


 新一が自分の着ていたジャケットを脱いで、強引に押し付けてくる。
 今の彼には不釣り合いに大きいそれは、まだ彼の体温が残っていて。
 彼なりの精一杯の気遣いなのだとわかって、花梨の胸がじんわりと熱くなった。


「新ちゃん……♡ 可愛い……♡ ツンデレなのね。ツ・ン・デ・レ! まさか新ちゃんにそんな属性があるとは……♡」


 花梨の目に映る新一はぶっきらぼうだが、優しい。
 小さくてもちゃんとお兄ちゃんをしてくれる新一に、花梨は嬉しくなって抱きついた。


「デレてねー! あー、もー! いちいち抱きついてくんなってばよっ!!」

「照れちゃって可ー愛い~んだからっ♪」

「あぁ……もぅ……だから(やわらけーのが当たってるんだって……)」


 花梨に抱きつかれ新一は頬が熱くなる。
 ジャケットを貸してしまうと本当は少し肌寒かったが、抱きしめられると温かくて癒された。

 それから五分もしないうちに最終バスがやって来て、二人で乗り込みなんとか工藤邸に辿り着いた。









「ただいまー……って誰も居ねーんだった。灯りが……届かねえ……」


 外灯も点いていない暗い玄関を開け、中に入る。
 照明を点けようとしたが、今の新一の身長ではスイッチに届かなかった。
 そこにパチッと音がして照明が点く。


「おかえり、新ちゃん!」

「っ、お、おうただいま……」


 花梨は玄関の照明を点けた。
 工藤家の照明スイッチの場所を、一時期ここに住んでいた花梨は知っているのだ。
 外門のレバーも今の新一には届かず、花梨が開けた。

 ……ここに花梨がいてくれて助かった。
 花梨がおかえりと言った時、新一はどこかほっとしたような顔をした。


「新ちゃん、頭の怪我は大丈夫なの? 包帯巻き直す?」

「ん? ああ、そういやもう痛くもなんともないな」

「そっか、よかった。私 阿笠博士を呼んで来るから、新ちゃんは着替えて待ってて」

「わかった、悪いな」

「んーん。幼なじみが困ってる時くらい力になるさ!」


 花梨はサムズアップとウインク。新一を一人家に残し、隣家である阿笠邸へと走った。



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