白月の君といつまでも

-- Spring, about 17 years old
041:Honey flavor


「黒羽くん……」

「快斗」

「ん?」

「快斗って呼んでよ。黒羽くんじゃなくてさ、ね? 花梨ちゃん」

「っ、快斗……くん……」


 そういえば花梨は“黒羽くん”と苗字で呼んでいたなと気付いた快斗は、名前で呼んで欲しいと頼む。
 苗字よりも名前で呼んでもらえた方が、より親しみを感じるじゃないか。

 すると花梨の顔が真っ赤に染まって、照れ臭そうにモジモジしながら呼んでくれた。
 だが敬称付きだ……。


「……っ、呼び捨てすんの恥ずかしいの? 呼び捨てもできないなんて、可愛すぎ……♡」


 ――あああぁああっ! なに? そのキュートなお顔っ、ちゅーしてぇ……!


 名前の呼び方ごときで恥じらう花梨が可愛すぎて、快斗の顔が愉悦に歪む。

 ……全オレ! ゆっくり関係を構築していきたいから今は我慢だ。
 快斗は自分に対し必死に言い聞かせた。


「快斗くん……」

「花梨ちゃん、オレ前にも言ったけど、花梨ちゃんのこと好きだけじゃなくて、愛してるんだよ」

「あ、愛……? 恋じゃなくて……?」

「へへっ。そっ! 愛だぜ、愛! 花梨ちゃんのことはまるっとオレが守ってやるって決めてんの! だから何でもこいってな!」


 ――重いかもしれねぇけど、ここまで惚れさせたんだから、責任取ってオレのこと好きになってもらわなきゃ困るんだよ。


 まだ付き合い始めて三日目だ。
 だが快斗の想いはとにかく重い。

 快斗自身も重いかもと思っているが、花梨に対する想いはどうしても止められなかった。


「快斗くん……」


 花梨が頬を赤く染めたまま上目遣いで見つめてくる。
 あざとい姿だが、好きな女にそれをやられると愛おしさが込み上げて仕方ない。


「花梨ちゃん……っ、キ、キス、してもいい?」

「ぁ……ん……」


 花梨のことが大切だから、本当はもっとゆっくり関係を構築したかった。
 だが、快斗は今、キスしたくて堪らない。

 花梨が目を閉じてくれたため、快斗はそっと唇を重ねた。
 大切なものに触れるみたいに、力を入れないよう細心の注意を払って。

 快斗の鼓動がいつになく早鐘を打っている。
 ……一度触れてしまったら――大切にしたいのに、欲しい気持ちが勝ちそうで怖い。


「……甘い」


 ――うわ、オレ、ファーストキスだわ。ファーストキスがハチミツ味とかやばくない?


 なんて甘いひと時なのだろう……。
 快斗はそっと触れただけのキスの余韻に目を閉じて浸る。


「あ、ハチミツティーの味!」

「そっ、そーだなっ!」


 意外にもあっさりした花梨の言葉に快斗がまぶたを開くと、花梨は嬉しそうに微笑んでいた。


「……快斗くん、すき……だよ?」

「っ、オレも♡ オレの方がだーいすきっ! 花梨ちゃん♡」

「わっ!? 快斗くんっ!?」


 小首を傾げ、好きと言われてしまえば快斗の胸は鷲掴みにされ、堪らず花梨に抱きつく。
 その拍子にソファに彼女を押し倒してしまった。


「ごめ……っ……」

「ぁ……っ」


 互いの距離があまりに近く、快斗は倒れた彼女を見下ろす。
 このままもう少し、大人のキスをしても大丈夫だろうか……。

 さらに快斗がスッと顔を近付けると、花梨は目を閉じた。


「っ、抵抗しないの? もっとチューしちゃうよ?」

「快斗くんとならキス、もう少し、してみたい」

「……オレも」


 花梨が小さな唇を少しばかり開けてゆっくり言葉を紡ぐ。
 “キスしたい”なんて言われたら、断る理由は何もない。

 快斗は彼女の少し開いた唇に魅せられるように、顔を近付け再び唇を塞いだ。


「ンン……はっ……」


 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっと水音を立て互いの唇を時に甘噛みしたり、口内に舌を差し入れてみたり。
 花梨の舌に自分の舌を絡めてみたり、歯列をなぞってくすぐってみたり。


「んっ、はあっ……かぃ……くん」

「かりんちゃ……はあ……すき……」

「ンン……わらしも……はあ、はあ」


 舌が絡み合う度、背中にぞくぞくとした感覚が襲ってくる。
 次第に花梨の赤い顔がとろんとしてきて、瞳から涙が溢れた。


「っ、大丈夫か?」

「ん、平気……、気持ちよくて。こんなキス、初めて。はあはあ……」

「っ、オレも……」


 静かな部屋に小さな水音が響く中、熱に浮かされたような顔の花梨は少し息苦しそうだが、最高に艶っぽい。
 快斗もキスに熱中するあまり、意識がぼーっとした。
 きっとお互い同じ表情をしているんじゃないかと快斗は思う。


「……はあ……」


 ――このままずっとキスしていたいけど……。


 今日はこれくらいでやめた方がいいかもしれない。
 花梨の呼吸がなんだか苦しそうな気がする。
 嫌そうではないが泣いちゃってるし……と、快斗は最後に下唇を吸ってちゅっぽんと離し、一息。親指で彼女の瞳から溢れた涙をそっと拭ってやった。


「……はあ、はあ……キス、息するの難しい……ね。はあ、はあ……いま私、鼻づまりしてて」

「鼻づま……? ……ぷっ! 花梨ちゃん、キミ面白すぎ!」


 ――道理で苦しそうだなと思った……!


 強く吸ったせいか、少し赤くなった下唇の花梨が鼻づまりだと今頃伝えてくる。
 せっかくの甘い雰囲気が一気に和んで、快斗は噴き出してしまった。


「へ? あ……ふふふっ、そう?」


 花梨の手を引いて上体を起こしてやると、まだ少しぼぅっとしたまま彼女が笑う。
 押し倒されたからか、髪に癖がついて少し乱れている様も可愛くて、快斗の手は知らずのうちに、花梨の髪を整えるように撫でていた。


「……今日はもう帰るよ。これ以上一緒にいると不味い気がする。けど、次はもう少し先に進めてもいい?」


 ――これ以上一緒にいると、理性が持たない。


 意外にも花梨が無防備すぎて、このままだと本能が求めるままに振舞ってしまいそうだ。
 途中で止めてと泣かれても、止められない気がする。

 まだ付き合いが浅いうちにそんな関係になっては、あまりに軽率じゃなかろうか。
 快斗自身もそうだが、彼女の反応からして恐らく初めてだろうし、急に関係を迫られたら困るだろう。

 だが、彼女にいっぱい触れたい衝動はあるわけで……。
 それに今日は準備もできていないし――、と。
 次回の楽しみにしておくのがいいのかもしれない。

 ……快斗は花梨をじっと見つめて尋ねる。


「え? あ、先にって……えと?」

「……ん~、わかんないか。ならもう少しゆっくりでもオレはいーから」


 花梨は何のことかわからない様子で首を傾げた。

 わからないならわからないで、少しずつ進めたらいいか……。
 時間はたくさんあるのだから。

 彼女の髪を撫で、快斗の目は細くなる。
 ところが、次に花梨の口から出た言葉に、快斗は驚くことに――。



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