白月の君といつまでも
-- Spring, about 17 years old
038:熱烈な好意シャワー②
「ん?」
「オレ、これから一週間、花梨ちゃんに毎日百回好きって言うわ。花梨ちゃん、すき」
「へっ?」
「……一週間の間に花梨ちゃんが白旗上げたら付き合おう? すきだぜ、花梨ちゃん」
「っ、強引……。白旗を上げなかったらどうするの?」
今まで好意をこんな風に伝えられたことはないのに、「好き好き」とド直球に何度も言われると、恥ずかしくて穴に入りたくなるではないか。
花梨は自分の頬が熱いなと思いながら冷静に対応するように努める。
「諦め……ねえ。その時は別のアプローチにするさ」
「っ……それって、求愛がずっと続くってこと……?」
急に情熱的になってしまった快斗に花梨は気後れして、そっと様子を窺うけれども彼は優しい瞳で口角を上げている。
「そっ! オレはもう決めたんだ。昨日ずーっと考えて、考えて、考えて……考えに考えた。朝まで考えて花屋に行ったんだ」
快斗は真剣な瞳で花梨を見つめ、昨日悩みに悩んだことを打ち明ける。
始めは父の件で花梨を自分の事情に巻き込みたくなくて、彼女を諦めることにした。
けれど花梨は既に何か別の危険に晒されているらしい。
それならば傍で守ってやれないか……?
……もうここで既に結論は出ていたのかもしれない。
いや、自分は犯罪者だし自分の事情に巻き込んでしまえば、危険が倍になるわけで。
だが街中で発砲してくるような相手に狙われている彼女をこのまま放っておいたら……?
考えるだけでゾッとする。
……何度も葛藤した。
花梨の真の姿に一目惚れしたものの、元々彼女が今の姿でなくとも惹かれていた。
これはもう、運命だとしか思えず。
快斗は彼女の
「……それでちょっと目の下、黒ずんでるのね……。寝なくて平気?」
「へへっ、ナチュラルハイってヤツかな。花梨ちゃんに告白するのに勢いがついていい感じ、すきだぜ?」
「もぅ……黒羽くんたら……」
花梨が心配そうに見上げると、快斗の目は優し気に細くなる。
まるで愛おしくて堪らないといった瞳に見つめられ、居た堪れない花梨は目を逸らした。
「オレは花梨ちゃんを堕とすよ。絶対にな」
快斗は繋いだ手を持ち上げまた手の甲にキスを落とす。
ちゅっ……と、花梨を射抜くように挑発的な眼で見つめながらゆっくりと唇を離した。
「っ……」
手の甲に触れた感触に、びくっと肩を揺らす花梨は快斗の眼差しに捉まり息を呑む。
「花梨ちゃんて、紳士的な態度の方が好きだよな?」
「っ、そんなことは……」
急に問われて、花梨は首を傾げた。
だが言われてみれば丁寧な言葉遣いは好きかもしれない。
だって、尊重されているように感じるから。
なぜ快斗は気付いたのだろうか。
自分でも気付かなかった好みに気付いた快斗が、花梨の中で不思議に映る。
奇術師は人心掌握に長けていると聞くし、洞察力が鋭い。
……心を読まれてしまったようで少し気恥ずかしくなった。
「ふぅん? ……お嬢さん、私と恋に堕ちませんか?」
「キッドさんの口調で言わないで……、なんか調子狂っちゃう……」
快斗は絡めた手を外し、急に怪盗キッドのような紳士な振る舞いで指先をそっと持ち上げ、再び恭しく手の甲に口づける。
花梨の顔は耳まで真っ赤に染まった。
「照れてんの? かわいー♡ こりゃ衣裳持ってくりゃ良かったかな。今の顔超可愛いかった。ちょー好き! 花梨ちゃんって結構表情豊かだよな!」
「……」
「花梨ちゃん、好きだよ。すき。すげー好き」
「ぁぅ……、も、もぉ……!」
何度も何度も快斗から好きと言われた花梨はそのうち俯いてしまう。
恥ずかし過ぎて涙目になった花梨に快斗はまた「可愛い、すき♡」と楽しそうに笑った。
……花梨は告白にOKをしていないのだが、快斗はもう彼氏でいる気らしい。
五限目の授業の間、サボった二人。
快斗から好き好き攻撃を受けた花梨は最後には何も言えなくなり、顔を赤くして俯くことしかできなかった。
教室に戻る時、快斗は花梨に鬘と眼鏡を戻し「いつか取っ払おうぜ」と告げて手を繋ぐ。
戻った二人をクラスメイトたちは興味津々といった顔で、拍手する者、ニヤニヤする者、冷やかす者と分かれて皆、生温かい目で迎えた。
「花梨ちゃんおめでと~」
「っ、あのっ、私別にOKしたわけじゃなくて、バラをね……!」
――バラが貰えるっていうから手を取っただけなのに。
青子に祝福されるも、花梨は言おうと思っていたことをやっと告げる。
快斗の勢いに負けて今の今まで口に出せなかったのだ。
快斗との齟齬は薄々感じていた。
たぶんどこかで自分が何か間違った対応をしてしまったのだろうと思う。
「つれないこと言うなよ花梨ちゃん。オレは花梨ちゃんが大好きなんだからさー」
「ぁぅぅ……」
未だ離してくれない手にぎゅっと力を込められ、快斗から弾けるような笑みを向けられる。
新一に似ている彼だが、新一はそんな顔で笑ったりしない。
快斗は快斗。
口うるさい幼なじみとは違う彼に、花梨は戸惑うばかりで。
「言うねぇ……いきなり覚醒し過ぎー」
青子が快斗の様子にしょっぱい顔をした。
……連絡先を教えてと、今の今まで連絡先の交換をしていなかった花梨は快斗と連絡先交換をしたのだが、それが運のツキ。
それからというもの快斗の好き好き攻撃は留まることを知らず、熱烈な愛の宣誓は昼夜続いた。
花梨と快斗のメッセージアプリの会話履歴は、快斗からの「好き」で埋め尽くされている。
「ひぇぇ……(これでもう四日目だよぉ……?)」
「ひい、ふう――……ちょ、永遠に……。重……た、大変だね……」
……今日も朝教室に来てみれば机の上に白いバラの花束が置かれている。
バラの数は九本。
“永遠に一緒にいたい”という意味が込められていると青子に教えてもらった。
これで、四日目。
告白された日から本数が異なる白いバラが机に置かれるようになった。
二日目は二十四本。情熱的な赤いリボンでまとめられたそれ。
“いつもあなたを想っています”だなんて、青子が「キッザー」と笑う。
三日目の本数は十一本。
“最愛”……「ちょっと情熱的やしませんかね……」青子がむず痒いのか体を掻く仕草と眉を歪める。その反応が面白かった。
バラを買うためなのか快斗は朝にこれを置いて、午前中はバイトに行っているらしい。
一度昇降口で会ったら朝の挨拶と「花梨ちゃん今日も可愛いね、好きだよ!」とだけ一言残して走り去っていった。
午後には学校に戻って来るのだが、居ない間もメッセージアプリに「好き」と定期的に送られてくる……。
そんなことより、真面目に出席した方がいいと思うのだが。
……花梨は快斗の出席日数が気になって仕方なかった。
「花梨ちゃん、愛してる♡」
「ぅっ……も、もうムリ。っ、参りました……。も、好きにしてください……」
「やりぃっ!」
顔を真っ赤にした涙目の花梨が白旗を上げ、快斗の指がぱちんと弾ける。
あまりに熱烈な快斗の好意シャワーを浴びに浴びた花梨は、全身がむずむずしてもうこれ以上耐えられなかった。
快斗がクラスメイトから「快斗のヤツ、頭どうかしちまってる」と奇異な目で見られているのもなんだか可哀相になってしまい――。
もうやめてと言えば、付き合ってくれたら回数を減らすというので手打ちにした。
一週間もせずに花梨は快斗に口説き落とされ、正式に付き合うことになった。
……快斗の畳み掛け作戦勝ちである。
※余談:昨夜花梨と別れた後花屋は閉まってました。
閉店後の花屋前にて。
快斗「明日買ってくか……」
↑葛藤も何もなく既に決めてたり。