白月の君といつまでも

-- Spring, about 16 years old
027:次の日、江古田高校にて







 次の日、江古田高校にて――。


「ふ」

「ん?」

「ふっふっふっ……、快斗くん」


 教室では青子が不敵な笑みで快斗に声を掛けた。


「あ?」

「羨ましいかね、快斗くん?」

「は? なんだよ青子、ずっとニヤニヤして気持ちわりーな」


 椅子に腰掛け行儀悪く足を机の上に上げる快斗が上機嫌な青子に向け不機嫌に尋ねる。

 いつもなら登校している時間だというのに、今日はまだ花梨が学校に来ていない。
 快斗が彼女と話すことはあまりないが、彼女が隣にいるだけで気分がいい。

 花梨がいると不思議とインスピレーションが湧くのだ。
 知り合ってまだ二ヶ月も経っていないが、すでに新たなネタを二つ思いついている。
 ……今日も観察して、彼女が喜びそうなマジックは何かと考えるつもりである。


「じゃーん! 見て見て! 昨日花梨ちゃんとデートしたの~!」

「な」

「これっ、プリクラ! 一緒に撮ったんだよ~! 可愛くない!?」

「……、花梨ちゃん下向いてっけど?」


 “じゃーん”と青子が写真を取り出したと思ったら、プリクラだ。
 花梨と一緒に撮ったそれ。
 青子は満面の笑みでピースサインを全面に押し出しているものの、花梨はいつも通りの俯き加減で腰の横で控えめにピースサインを作っているだけ。
 ……少し微笑んでいる気もする。


「恥ずかしがり屋さんだからね」


 ピースしてんの可愛いでしょと、青子が花梨の手元を嬉々として推してくる。
 これはある意味可愛くて、おかしい。

 花梨の瞳は、いつも前髪に隠れていてよく見えないのだが、普通の黒目ではなさそうだというのが、快斗と青子の総意で。
 プリクラならはっきり写ってくれるだろうと撮ったようだが、安定の俯き具合で完敗だったらしい。
 それでも青子は一緒にプリクラが撮れて満足そうだ。


「つーか、昨日オメー帰りが遅いと思ったら抜け駆けしてたんか……」


 ――追いかけたけど見当たらなかったんだよな……。


 黒瀬の相手などせず、さっさと追いかければランチを一緒にできたものを。


「フッフッフッ……。花梨ちゃんて食べ方すっごく可愛いの。もきゅもきゅってさ! ネコちゃんじゃなくてリスさんみたいだった♪」

「へー」


 ――花梨ちゃんはリスみたいな食べ方すんのか……見てみたいな。


 青子の話を聞きながら快斗は想像する。
 昼休憩中、花梨は教室からいなくなってしまうから、一緒に食事を摂ったことがない。
 あの小さな口がもぐもぐしていたら、可愛いのだろうな……なんて思うと萌えた。


「花梨ちゃんてハムサンドが好きなんだって。今度作って差し入れしてあげようかな~」

「差し入れ?」


 ――花梨ちゃんはハムサンドが好き……と、サンキュー青子。


 新たな花梨の情報が手に入り、快斗は心に書き留め、続く話に耳を傾ける。


「うん、彼女一人暮らしなんだって。だから食事とか大変かなって」

「マジか」


 ――花梨ちゃんが一人暮らしって……オレと一緒じゃん……♪


 これは一つ話題にできることが増えたなと、共通点が見つかり快斗のテンションは上がった。


「今度お家に遊びに行きたいって言ってみようかな」

「なんだよ、ずいぶん仲良くなってんじゃん……」


 青子は花梨とかなり仲良くなった様子で、面白くない快斗は口を尖らせる。


「へへっ♡ まーね!」

「……で? 花梨ちゃんは今日はなんで休みなわけ?」

「さあ……?」

「知らねーのかよ……。やっぱあんま仲良くなってねーのな」

「そんなことないわよ!」


 思ったほど仲良くなっていないのだろうか。
 快斗がツッコむと、青子は眉間に皺を寄せて食って掛かった。
 ……それからはいつも通りの言い合いバトル。

 そのうち担任の黒瀬がやってきて、朝のホームルームが始まった。


「黒ちゃん! 花梨ちゃんはー?」

「あー、今日は午後から来るぞ」

「そっかー♪」


 花梨が午後から来ることがわかった快斗は、嬉しそうに破顔する。


「ぷふっ。さっきまで不機嫌だったくせに現金ねえ」

「ははっ、あの子見てっと不思議とインスピレーションが湧くんだよな~。オレのマジシャンとしての魂が揺さぶられるっていうかさ。もっと素早く、もっとスムーズにって……」


 青子に笑われたが現金なのはその通り。
 快斗の手にいつの間にかトランプが握られ、滝のように流れる動きでカードがシャッフルされてゆく。
 マジックに使われるウォーターホールシャッフルという切り方のようだ。


「ふーん? まあ、快斗のマジックは青子も楽しみだから、花梨ちゃんに頑張って登校してもらわなきゃね~」

「そうだな♪」


 そして午後に花梨がやって来ると、快斗はまた花梨を凝視。
 彼女がどん引いたことは言うまでもなかった。




 ……そんな生活が続き、花梨と快斗たちの距離はつかず離れずで。
 気付けば季節は夏を過ぎ、秋を過ぎ。

 そして冬――。



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