白月の君といつまでも

-- Spring, about 16 years old
017:来訪者は警察官④


「俺も結構イケてる方だと思うんだがなあ……」

「犯罪ですよ?」

「なに?」

「冗談だとは思いますけど、一応。成人男性が未成年に手を出したら犯罪です。陣平さん。私、JKですよ!」


 どうも花梨は松田に当たりがきつい。
 相変わらず降谷の背後からちょっぴり顔を出し、はっきり告げてくる。
 それを手錠を持ったままの降谷が、見守るように黙って聞いていた。


「……。だーれが出すか! このしょんべん臭いガキが。調子乗んなよ!」


 花梨の眉間に松田の指先が伸び、とんっと強く押される。


「えー。最近殴られてないから漏らしてないんですけど……。膀胱ももう回復してますし」

「「……」」


 思いも寄らぬ重い話に、降谷と松田が固まった。


「花梨ちゃん……」

「……。……花梨ちゃん、なんかごめんね。俺が悪かったわ」


 身体を捻り、降谷が背後の花梨の頭を撫でる。松田の手も伸びて一緒になって撫でた。
 憐みの目で見下ろしてくる二人に、花梨は困惑顔だ。


「あ、いえ……」


 ――なんで頭撫でられてるんだろ……けどイケメン二人に撫でられるのは悪くない気分……。


 あやすようにいい子いい子してくれる二人に、花梨の目は穏やかに細くなった。


「……検挙できなかったのが悔やまれるぜ」

「ああ……」


 花梨の頭上で松田と降谷が互いに目配せする。
 表情は二人とも険悪そのもの。
 今回花梨が引っ越して来た理由を、やはり二人は知っているのだ。


「……あ。そういえば陣平さんはどうしてうちに? って、怖っ!! お二人ともなに睨み合ってるんですか!? け、喧嘩!?」

「……あ。いや、これは別にそういうんじゃないよ」

「ん? これは花梨を取り合っての睨み合いってやつでなー」


 降谷と松田の険悪ムードに花梨の肩がびくりと揺れると、二人の鋭い目付きは解除された。


「犯罪ですよ!」


 ……ササッ。
 花梨は再び降谷の背後に移動。松田を警戒するようにじっと見つめる。


「お前ね……。俺に意見する時、すぐゼロの後ろに逃げるんじゃねーよ……、ってか今のがホントだったらゼロも犯罪だろーが」

「零お兄ちゃんは許されてる」

「ふざけろよ!」


 松田に物言う時は、降谷の背後に回るというのが花梨の定番らしい。
 小憎らしい奴めと思いつつ、元気そうな花梨に松田の顔は綻び、降谷の目元も緩む。

 そんな一幕があり、松田は外に荷物を置きっぱなしだったと取りに行き、大きな箱を抱えて戻って来た。


「なんですか、それ……」

「ランニングマシンだ、やる」


 松田に「やる」と言われた大きな箱の中身はランニングマシンらしいが、大き過ぎて花梨には受け取れない。


「やる……と言われましても」

「お前、体鍛えた方がいいよ。どこに置けばいい?」


 花梨が持ち上げられないことくらい察しているのだろう、松田は箱を抱えたまま廊下を歩く。


「うん、話聞いて下さいます?」

「つーか、広い家だな。一人暮らしなんだろ? いいとこ住んでんじゃん」

「話聞いてます?」


 ――全っ然、話聞いてくれてなくない!?


 きっとさっきのお返しなのだ。
 松田は花梨を無視してずんずん歩き、花梨の自室の前で立ち止まる。


「かりんずるーむ……。ここが花梨ちゃんのお部屋ってわけね。JKの部屋! ヤバくない!?」

「開けないで下さいね」

「じゃーどこに置けばいい?」

「……隣の部屋で」

「オッケー」


 花梨の部屋のドアに手を掛けた松田だったが、ノーと言われて手を放す。
 プライベート空間にずかずか上がり込むほど傲慢ではないようだ(いや、すでに上がり込んでいるのではあるが)。
 松田は花梨に言われた通り、隣の部屋のドアを開けた。

 ドアを開いた先にはガランとした広い空き部屋。十畳どころか十二畳はありそうだ。
 そこにはカーテンはあれど、家具は何もない。


「おっ、なんもねえじゃん。しかも広いし。ここトレーニングルームにしよーぜ」

「しませんけど……」

「俺に任せろ!」

「だから話をっ!」

「よーし、今組み立ててやっからな! 陣平さまに任せとけ!」


 花梨の言葉は完全に無視で、広い部屋に持って来た組み立て前のランニングマシンを広げ、松田は腕まくりをする。


「……はぁ、陣平さんってホント強引(なんで話が通じないのよ~!)」


 深いため息を吐き出す花梨は諦めの境地で「お好きにどうぞ」と投げやりに腕を組み、部屋の壁に背を預けた。
 そんな二人のやり取りを見てついて来た降谷は腹を抱える。


「フフフフッ」

「ゼロ、なに笑ってんだよ」

「あはは……いや、二人は仲がいいなと思って」


 松田が一回り下の女子高生相手に素で応対しているのが面白過ぎて、降谷の笑いが止まらない。
 同レベル……と言ったらきっと怒るだろうから言わないが。


「え、どこがですか? 全然よくないですよ?」

「花梨お前、ホントに酷くね?」


 塩対応の花梨と、サングラスを上げて眉間に皺を寄せる松田の睨みを利かせた顔がもう――。


「あははははっ!」


 我慢できなかった降谷は大声で笑った。


「なに笑ってんだよ……。にしても説明書通りの組み立てはメンドクセェな……。適当でいいか」

「花梨ちゃんが使うのだからしっかり組み立てないと。僕が組み立てようか?」

「おっ、そうか? んじゃ頼むわ」


 説明書を一睨みし松田がレンチを手に取るが、面倒臭くなった様子。
 選手交代で、降谷がマシンの組み立てを交代した。


「零お兄ちゃん、ごめんなさい」

「いや、いいよ任せて。終わるまでリビングでゆっくりしてて」


 別に欲しくもないランニングマシンだったが、花梨は恐縮して頭を下げる。
 降谷は優しい笑顔で花梨をリビングに行くよう促した。


「よっし、じゃー俺もリビングでゆっくりしてくるわ」

「……松田……」

「行くぞー、花梨」


 悪びれなく松田が頭の後ろに手を組んで部屋から出て行く。


「あっ、ちょっと陣平さん! ごめんなさい、零お兄ちゃん。よろしくお願いしますっ」


 松田の後を追うように、花梨も慌てて部屋を出て行った。
 「勝手に色んなもの触らないでくださーい!」と閉じたドアから聞こえる。


「ふふっ、花梨ちゃんは面白いなぁ……。今度ヒロも連れて来てやらないとな」


 ……降谷は笑顔でランニングマシンの組み立てを始めた。


 その後伊達がやって来てエアロバイクを設置。
 少しばかりお茶を飲み、昼も近づき、降谷が昼食を作ると宣言。
 伊達は午後から婚約者とデートらしく、ランチをするからと帰って行った。




 ……そして現在に至るわけで――。



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