白月の君といつまでも
-- Spring, about 16 years old
016:来訪者は警察官③
「はーい、いらっしゃいませー」
「はーい、いらっしゃいましたー!」
ギュッ。
玄関を開けると松田が花梨に抱きついてきた。
あっという間に腕に包まれて、胸の中へと隠されてしまう。
……松田とも約三年振りの再会だ。
「なっ!?(陣平さん!?)」
「花梨、よく頑張ったな……!」
「陣平さん……」
“よく頑張ったな”というのは、親戚の家でのことだろうか。
松田は花梨がここに引っ越してきた経緯を、どうやら知っているらしい。
三年前に遭った出来事を思えば、容易に想像はつく。
自分が助けた少女が、無事生きていたことが嬉しいのだろう。
――おかげさまで、生きていますよ。
花梨は抱き返さなかったが、そのまま大人しく抱きしめられ続けた。
「……ん? ……成長してんな……」
「あ、そういえば背が伸びました」
「あー、うん。そう、だな……」
しばらく放っておくと、なぜか松田がギュウギュウと強く抱きしめてくる。
何度も強く抱きしめては緩め、また抱きしめては緩め……何かを確かめているようだ。
……苦しいんですけど。花梨は眉を寄せる。
「ちょ……陣平さん、苦しいです」
「やっぱ。抱き心地良くなってる。骨皮ちゃんじゃねーじゃん。JKスゲー、可愛い」
「え」
――は?
頭にぐりぐりと頬擦りをかましてくる松田。
距離が近い近い。
なんだろうこれ、と花梨の顔は歪む。
「松田、強制わいせつ罪だぞ」
「っ!? セクハラ!」
後ろから降谷の声がして、花梨は慌てて手を突っ張った。
松田もハッとして花梨から離れる。
「ちげーわ! 感動の再会だぞ? 軽い抱擁くらいいいじゃねーか!」
誰が強制わいせつ罪だ。
せっかく感動の再会を果たしたというのに、犯罪者呼ばわりされるとは。
こちとら現役警察官だぞ!?
確かに突然抱きしめたのはちょっと軽率だったかもしれない。自覚はある。
だが、別に胸を揉んだとか尻を揉んだとかしたわけではないのだから、許されてもいいはず。
……松田は必死で訴えた。
「同意のないわいせつ行為は、不同意わいせつ罪だ」
「同意のないわいせつ行為は、不同意わいせつ罪。犯罪ですよ! ねっ、零お兄ちゃん」
「ああ、今手錠を持ってくる。松田、現行犯だからな。言い逃れはできないぞ」
淡々とした降谷の言葉を花梨がリピートする。
降谷は「手錠が鞄に入っているから」と踵を返し、部屋へ戻っていった。
「わ~現行犯~!」
花梨も降谷に続こうとしたが、不意に松田に手首を掴まれる。
「はぁああああ? 花梨お前ゼロに懐きすぎだろ! こんなイイ男に抱きしめられて犯罪者呼ばわりとか、頭おかしいんじゃねーの?」
「私はおかしくないですよー……ふふっ。冗談ですよ、冗談。ふふふっ、陣平さん、お久しぶりです。元気にして……いや、元気そうですね」
「なんだ、冗談かよ……。まーなー、おかげさまってやつよ。お前も言うようになったじゃねーか」
「ふふふっ、元気そうでよかったです」
「お前もな」
手の平を上に向け、中へどうぞと松田を部屋の中へと促し、廊下を進む。
リビングドアを開けようとしたところで、手錠を手にした降谷がやってきた。
「本気だったのかよ!」
「……え?」
松田がリビングに入って来るなり、降谷は流れるような手付きで松田の手首を捉え、手錠を嵌める。
「あはははっ! 零お兄ちゃん、冗談ですよ冗談!」
「あ、ああ……冗談だったのか」
「ふふふっ、零お兄ちゃんも変わってないなぁっ! あははははっ!」
……降谷には冗談が通じなかったらしい。
そんな生真面目な降谷に、花梨は愉快そうに笑った。
「そうだぞゼロ。花梨が俺を罪に問うはずねーだろ。これ外せ」
「花梨ちゃん……いいのかい?」
「アハハハッ!」
ウケ狙いなのか、手錠を嵌められた松田の言葉を無視し、至極真面目な顔で降谷が聞いてくるものだから花梨は腹を抱える。
知り合いがほとんどいない土地で、急に数少ない知り合いが現れ気が抜けたのだろうか。
二人は警官で、大人で、自分に危害を加えたりしない安全な人間。
久しぶりに安心して大笑いすることができた花梨は……。
「また抱きしめられると嫌なので、しばらくそのままにしておきません?」
「フッ。花梨ちゃんが望むなら」
悪ノリでキッパリ嫌だと主張する花梨に、降谷は鍵を回しかけた手を止めた。
「ざけんな。花梨、俺と離れていた間にずいぶん性悪になったな? あの純真無垢な花梨はどこに行っちまったんだ?」
「俺と離れていた間って……別に陣平さんと私って、何の関係もなくないですか? なんか元カレみたいな言い方やめてもらってもいいですか?」
「あ、冷てーの。俺みたいなイケメン袖にするヤツ、お前ぐらいだぞ?」
松田に純真無垢と言われた花梨。
確かに昔は幼くて世間知らずだったかもしれない。
だが、いつまでも無垢なままではいられない。
「そうですか。私、顔の善し悪しで人を判断したりしないので……」
「ウソをつけっ! ゼロばっか見てたくせに!」
花梨が冷静に返すと、松田は降谷を指差した。
「え、俺?」
二人の会話を聞きながら、鍵を開けてやっても良さそうだと判断した降谷は、解錠しながら聞こえてきた言葉に目を瞬かせる。
……かなり驚いたらしい。いつもは使わない“俺”なんて出てしまっていた。
「それは……。んーと……」
「……それは……?」
「髪が綺麗だったから。零お兄ちゃんの髪、私みたく白髪じゃないからいいなーって」
「え、あ。なるほど……」
花梨の答えが気になった降谷が尋ねてみれば、納得のいく答えが返ってきてまた目を瞬かせる。
……降谷はそのまま黙り込んでしまった。
「そうかよ。俺はてっきり、花梨はゼロが好きなんだと思ってた」
「まあ、好きではありますよ。零お兄ちゃん格好いいですもん!」
「……」
黙っていた降谷だったが褒めちぎられて悪い気はせず……それどころか照れて頬を掻いた。