白月の君といつまでも

-- Spring, about 17 years old
160:いつかくるさよならの前に







 校門を出て帰路につき、いつものように快斗が花梨の鞄を持ち、手を繋いで歩く。


「ったく青子のやつ……余計なこと言いやがって……」


 ……話題は青子のこと。
 快斗は口を尖らせ、頬を膨らませた。


「ん? 青子ちゃんがどうかした?」

「白馬のヤローに今夜のこと話しやがったんだってよ。青子から情報仕入れてたんだな……」


 白馬の情報源は、警察の内部情報をこっそり……というわけではなかった。
 まさか青子から漏れていたとは――。

 快斗が、キッドだと思っていない青子からすれば、話してしまうのも無理はない。
 それくらい楽しみにしていたようだし……と、快斗はため息をつく。


「そうなんだ? でも、白馬くんは乗らないんでしょ?」

「まー、そうなんだけど。白馬は、オレのことキッドだって疑ってっからさ、あんまそういう情報、教えたくねえなって」

「ふふふっ♡ 白馬くんって鋭いよね。探偵って、みんなああなのかな」


 花梨は、いつか白馬も新一も、快斗の正体を暴いてしまう気がしてならない。

 真実を追い求める探偵は、絶対に諦めないから――。
 そんな存在が近くにいて、快斗は大丈夫なんだろうか……。

 微笑みながら心配になって、快斗を見上げる。


「ん? 探偵みんなって……どういうこと?」

「あ、うん、幼なじみの彼も鋭いから」

「フーン。けど、花梨は探偵よりも怪盗の方が好きだもんな?」


 ふいに快斗が前のめりに覗き込んできた。


「え?」

「ん?」


 花梨が「今、そんな話してたっけ……?」と目を瞬かせると、快斗の首が傾き、大きく見開く。

 どうして彼は、新一の話題を出すと張り合おうとするのか――。
 焼きもちだと、なんとなくわかるのだが、今考えていたのは快斗のことだというのに。

 ……快斗はおかしな人だ。


「……ふふふ♡」


 花梨は口元に手を添えてくすくす笑った。


「ちょ、そこは『うん♡』だろ!? なあ花梨? な?」


 笑って誤魔化す花梨に、快斗は必死だ。


「ふふっ……♡」


 ――快斗の必死な顔、可愛い……そんなところもすごく好き。


 快斗はいつも一生懸命で、優しくて頼もしくて。
 でも、彼は大事な目的をもってキッドとして活動している。

 ……だから、自分が足枷になってはいけない。

 微笑みながら花梨は、繋いだ手を放して走り出す。


「ちょっと、花梨ちゃん!? そりゃねえよ~~!! こらっ、花梨待てっ!!」

「っ、きゃ~~♡♡」


 逃げる花梨を追いかけるように、快斗も駆け出す。
 すぐに追いつき、快斗は花梨を抱きしめた。


「ったく、オメーはオレの宝石なんだから、逃げるのは許さんっ!」

「あはははっ! なにそれ~……! いたっ!」

「――も~、今夜ぜったい食っちまうからな……!!(大阪着いたら覚えとけよ……♡)」


 がぶっと頬に噛みつかれた花梨は、痛みに身を捩る。
 ……あむあむと甘噛みされた。

 道の真ん中でこんな風にじゃれ合うなんて、バカップルもいいところだ。
 けれど花梨は、そんなじゃれ合いがすごく楽しかった。


「いたた……そういえば快斗、授業中抜け出してたけど、どこ行ってたの?」

「ん? あー、ちょっと……な?」

「ふぅん?」

「へへっ、今夜のお楽しみ♪」


 花梨の質問に、快斗はいたずらっ子のように笑う。
 よくわからないが、楽しそうなので花梨もにこにこと笑っておいた。

 二人はそのまま花梨のマンションへ――。


「――よし、荷物持ったな?」


 快斗が花梨の家の玄関で言った。
 花梨が私服に着替え、荷物を持ったら快斗の家まで行き、そのあと青子とともに駅へ行く予定だ。

 一泊旅行ということで、花梨は前日、小さめのスーツケースに着替えを詰めてある。

 花梨の今日の装いは、キッドに初めて逢った時と初デートの時に着た想い出の白いワンピースに、夜は冷えるのでベージュのトレンチコート、今は腕に掛けている。


(くぅ~~っ!! 花梨はやっぱ白が似合うなっ!! マジ天使!! かんわええっ♡ 好きだっ♡♡)


 その姿を見た快斗はしばし見惚れ、頬はポッと赤く染まった。


「うん。あ、戸締りを確認してくるね」

「わかった、待ってる♡」


 快斗を玄関に残し、花梨は踵を返した。










「……お世話になりました」


 ――ここにも長くいられなかったなぁ……。


 花梨はリビングで一人、丁寧に頭を下げる。

 鍵は朝、きちんと閉めてあり、戸締りの確認など本当は必要ない。
 けれど、最後に部屋にも挨拶をしたい花梨は、一年半住んだ部屋に戻り頭を下げた。

 幼い頃から、一つのところに長居できない根無し草のような生活は、最期までそうみたいだ。
 そう思うと、なぜか笑えてしまう。


「……」


 ――この部屋で、快斗や新ちゃん、お兄ちゃんたち、権堂さんと過ごせて楽しかった……ありがとう……。


 部屋を見渡せば、この部屋であった出来事が、次々と思い出されて目の奥が痛む。

 ……快斗が玄関で待っているから泣くわけにはいかない。
 後処理のお願いは手紙に書き置いておいたし、そこは申し訳ないと思うが、許してもらおう。

 花梨はすんと鼻をすすって玄関に向かった。


「戸締り、OK?」

「うん、ばっちり!」


 玄関に行くと快斗が微笑みかけてくれる。
 優しい笑顔に少し泣きそうになった花梨だが、笑顔とサムズアップで答えた。



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