白月の君といつまでも

-- Spring, about 17 years old
139:甘い一匙にこぼれる本音







「あっ、蘭ちゃん、コナンくん、おかえり~!」


 トレイを抱えて戻ってきた二人に、花梨はパッと明るい笑顔で手を振った。
 その頬はほんのり桜色に染まり、目元はとろけそうなほど優しくほころんでいる。

 彼女の前には、丁寧に盛りつけられたチョコアイス。
 その見た目だけでもすでに美味しさが伝わる一皿を、ちょうど一口食べ終えたばかりだったらしい。

 ……蘭が笑顔で近づく。


「花梨ちゃん、すっごく幸せそう~♡ あ、アイスもあるのね! 私もあとで食べようっと!」

「うんっ、これね、すごく濃厚で……なのに甘すぎなくて、口どけもなめらかでね? 舌にふわって広がるの。ちょっとビターなとこがまたおいしくって……♪」


 花梨は目を細めて、幸せそうにうっとりと微笑んだ。
 その表情に、コナンの目が自然と吸い寄せられる。


(……ホント、こいつ……)


 ――幸せそうだ。


 いや、幸せすぎる。
 こんな風に心の底から美味しそうに、無邪気に笑ってアイスを食べる姿なんて――まるで、子どものような、でもどこか大人びていて、目が離せない……。


「……花梨姉ちゃんって、おいしいもん食べてる時、ほんと、幸せそうだよね……」


 思わず、心の声が口から漏れていた。
 そのくらい、無防備で、飾らなくて――可愛すぎる笑顔で。

 花梨は「えへへ」と照れたように笑う。


「だって、本当においしいんだもん。ここのウェイターさんが『おすすめです』って持ってきてくれたんだよ。チョコアイス。自分じゃ気づかなかったかも」

「へぇ~、優しい人だね。そんなサービスしてくれるんだ?」

「うん。すごく自然な感じだったから、このバイキングを監修したお店のスタッフさんなのかな~って思って」

「……(あのウェイター……)」


 ふと、コナンの中に引っかかる違和感がよぎった。
 花梨の言っている“ウェイター”という男――さっき、トレイを持ってテーブルの間をさりげなく歩いていた男だろうか。

 数時間前に見た、“スプリンクラーの点検”をしていたホテルマンとは、格好も声も違っていた。
 けれど、なぜか気になって視線を追ってしまう。

 そして、ウェイターの視線を追っていると、時々花梨の方をちらちらと見ているような気がした。


(……気のせい、か?)


 ――いや、違う。


 確証はないけど、あの目の動き、距離感の取り方。
 まるで、見守っているような、でもそれを気取らせないように振る舞ってる。
 それは単なる店員の“気配り”というより……“個人的な関心”を感じる。


(……あいつ、花梨を狙ってるな。気に入らねえ……)


 コナンの視線が鋭くなった。

 まだ名前も知らない、正体もわからない。
 でも、なぜか警戒したくなる男だ……。


(なんだろうな……どこかで見た気もするけど……)


 視界の隅、すっと後方に下がっていったウェイターの背中を、コナンはしばらく見つめていた。


「コナンくん?」

「あ、ううん。なんでもない」


 花梨が不思議そうに覗き込んでくるのに、慌てて視線を戻す。

 ……いけない、今はカフェタイムだ。
 そう自分に言い聞かせて、コナンは空いていた椅子にちょこんと腰を下ろした。
 だけど、頭の片隅では、すでに“仮説”が立ち始めていた。


(変装か……? まさかな。でも、あの仕草……何かが引っかかる……)


 探偵の勘が、何かに触れ始めている――そんな予感だけを残して。
 そのとき、不意に――


「はい、あーん♡」

「あ、あーん……、……っ!?」


 ――甘いっ……! ってそうじゃねえぇぇっ、また反射的に!!


 スプーンにのせられたチョコアイスが花梨の手によって、コナンの口元へ……。
 反射的にコナンは口を開け、美味しくいただいてしまった。


「ふふっ♡ コナン君てば、花梨ちゃんだとすぐ口開けちゃうんだから♡」

「ふふ、雛鳥みたいで可愛い~♡」


 くすくすと蘭と花梨が嬉しそうに笑っている。


「か、花梨姉ちゃんっ!!」


 ――オレは雛じゃねえっ……!!


 今まで花梨に餌づけされ続けたコナンに、彼女からの不意打ち“あーん”を避けることは無理らしい。
 ぽっと頬が赤くなるが、花梨がそのスプーンでまたチョコアイスを食べ始めると――。


(スプーン……花梨がさっきまで使ってたやつじゃねーか……。これじゃ、実質、か、間接……キ、キス……!?)


 “ボフッ!!”


 脳内の温度が一気に沸点を超え、コナンは音を立てて知恵熱が出そうなほど赤くなった。

 花梨の口が開いて、スプーンが運ばれていく。
 チョコアイスが溶けて少し唇の端に垂れ、彼女はぺろっとそれを舐め取る。

 「おいしい♡」――うっとり上機嫌で可愛く言うその姿。
 それが艶っぽく見えて、コナンはごくりと息を呑んだ。


「あら、やだコナン君ってばどうしたの? 顔真っ赤。熱でもあるの?」

「な、なんでもない……」


 ――し、刺激が……強過ぎる……。


 蘭がコナンの額に手を当てるが、コナンは恥ずかしくなって顔を俯けてしまった。










 ……その光景を、ドリンクカウンターの陰で、指が白くなるほどトレイを強く握りしめて見つめていた快斗。


「子どもだからって、あーんは駄目だぞ、花梨……」


 ボソッと、誰にも聞こえない声で恨みがましく呟く。
 花梨を喜ばせようと用意した渾身のアイスが、まさか目の前で他の男(※見た目は小学生・中身は高校生)の口に運ばれるなんて――。

 快斗は、幸せそうに爆発しているコナンをジト目で見据え、内心で「あとで覚えとけよ、くそボウズ……」と、八つ当たりに近い宣戦布告を送り続けていた。



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