白月の君といつまでも

-- Spring, about 17 years old
134:蘭、部屋の隅々まで拝見!







 一方で部屋の中を確認する蘭たちは――。


「見ていただいても構いませんが、わ、私以外、誰もいませんよ?」


 おどおどした様子で、雅美は蘭たちを部屋の奥へと案内する。


「そうみたいですね~。わ~、いい眺め~! このお部屋、周りを一望できるって評判の絶景ルームですよねっ!」


 蘭は窓から見える景色に瞳を輝かせた。

 ……部屋は10階のツインルーム。
 12階のスイートルーム階の二つ下だが、手頃な料金で絶景が楽しめると評判で、カップルに人気なのだと、先日テレビの特集で取り上げられている。

 “ちょっと興味あったんだよね……”と、目の前の眺めに蘭はしばし見惚れた。


「蘭姉ちゃん!」

「あ、えへへ。そうだったね」


 怒ったようなコナンの声。
 ベッドの下を覗いて、誰かがいないか確認していたコナンが蘭を呼び戻す。
 注意された蘭も目的を思い出し、部屋の確認を再開した。


「誰もいませんね……」

「だ、だからいないって……言いました……」

「ふむ……、ちょっと失礼しますね」

「あっ、そっちは……!」


 今日の蘭は、まるで探偵気取りだ。
 そんな彼女は部屋を一通り見終えて、“失礼しますね”と言いながら、バスルームへと入って行く。


「あら」


 ガチャッとバスルームのドアを開けると、よくある三点式ユニットバス。
 ただし中は使用直後なのか、鏡は曇り、空気も湿っている。
 シャワーカーテンが広げられていて、浴槽内が見えなかった。


「すみません……。さっきまでシャワーを浴びていたので……」

「そ、そうだったんですか。すみません、プライベートを覗き見しちゃって」

「いえ……」


 そういえば、雅美からシャンプーの香りがしていたな……と、コナンはそのときになってようやく気づき、蘭が頭を下げる横で一人、赤面した。


「でも一応」

「あっ」


 花梨の心配しかしてないのだろう、今日の蘭はいつもよりも強引だ。
 シャッ! とシャワーカーテンを勢いよく開いて中もしっかり確認。
 ……やはり誰もいなかった。


「よかった~」

「……」


 雅美は恥ずかしいのか顔を手で覆ってしまう。
 「誰もいないって言ったのに……」とぽつり。小さな呟きが聞こえた。


「部屋の中を見せてくださって、ありがとうございました」

「いえ……」


 部屋の確認が済み、蘭は深々と頭を下げる。


「そういえば、あの後、お父さんとはどうでしたか?」


 頭を上げた蘭が、昨日の雅美の父親について尋ねた。

 小五郎が依頼を受けて捜索した、雅美の父・【広田健三】。
 余程気になるのか、雅美はその後も何度も探偵事務所に電話をかけ、進捗を確認していた。
 小五郎はあちこちで聞き込みを行ったが、なかなか彼の行方は掴めなかった。

 ところが昨日、事態は一変する。


『広田さんは、競馬好きだったのよ!! だから、自分の猫に馬の名前をつけたのよ!!』


 探偵事務所で、テレビの競馬中継を目にした蘭が言った。

 ……健三は猫好きで、飼っている四匹の猫の名前は【カイ】【テイ】【ゴウ】【オウ】。
 彼は猫と暮らしていたらしい。

 コナンがノートに猫の名前を書き出し、並び替えると、競走馬【ゴウカイテイオウ】の名前が現れたのだ。
 「まさかな……」とコナンは思ったわけだが、それを見た蘭のひらめきにより競馬場へ捜しに行ったところ、彼を発見。

 尾行して住所を突き止め、すぐさま雅美を呼び出し、父娘の再会を叶えた。


「あっ、はい。部屋がちょっと汚かったので、片付けてお茶をしました」

「ふふっ、せっかく会えたのに、親子水入らずの時間が短くてよかったんですか?」


 ――雅美さんのお父さんも、私のお父さんみたく、だらしないのかしら?


 積もる話がたくさんあるはずなのに、父親と再会したわずか二時間後に、また探偵事務所を訪れた雅美を思い出し――蘭は首をかしげた。


「はい、花梨さんとお会いしたくて……」

「……わかります。その気持ち……花梨ちゃんと会うと気分が良くなりますよね」


 頬をぽっと染める雅美に、蘭も胸に手を当て、口角をそっと上げて目を閉じる。










 昨日――。
 探偵事務所を訪れた雅美は、必死な様子だった。


「どうか! どうか、あの時のお嬢さんに会わせて下さい!! お願いします!!」


 小五郎が留守のため蘭が対応したわけだが、ドアを開けた瞬間、雅美は膝を床につけて土下座をした。


「え……あ、あの時のってもしかして、花梨ちゃんのこと……? 髪が白くて瞳が綺麗な……? あっ、立って下さい。どうして土下座なんか……」


 雅美のあまりの様子に、蘭はやや引き気味になりながらも、彼女の土下座を慌てて止める。


「花梨さんて仰るんですね! はい! 彼女です! 明日、二人きりで会わせて頂けませんか!?」

「えっ、明日って、急過ぎません……?」


 花梨の名前が出ると、蘭に支えられ立ち上がった雅美の瞳が、光を宿すように輝いた。

 だが、いくらなんでも“明日会いたい”は急すぎる。
 花梨にも都合があるはずだ。


 ――私だって会いたいけど、木曜にも会ったばっかで、頻繁過ぎて引かれないかな……。


 本当は、毎日でも会えたら嬉しい。

 学校が同じだったら。クラスが同じだったら。
 毎日でも会えるのに――。

 けれど、蘭は帝丹高校。
 花梨は江古田高校。

 今では住む場所も違い、距離もある。
 だからこそ、誘うタイミングを見計らっているわけで……しつこいと思われたくない。
 花梨に嫌われたくない――それが蘭の本音だった。

 そんな蘭の躊躇いをよそに、雅美は深く頭を下げる。


「お願いします!」

「っ、困ったな……。じゃ、じゃあ連絡取るだけ取ってみますね。花梨ちゃんの都合が合わなかったら、諦めて下さいね?」

「……はいっ! どうしてもお会いしたいので、なにとぞよろしくお願いします!」

「えぇ……? でも、花梨ちゃんの都合が……」


 “無理だったら諦めて”と念を押したというのに、雅美は蘭の手を振り解き、またしても土下座。
 事務所では、ソファに座っていたコナンが、何事かと目を丸くして二人を見つめていた。

 ……そうして蘭は花梨にメッセージを送り、花梨が了承。


(やった~♡ 明日も花梨ちゃんに会える~~♡♡)


 連絡には“雅美”を強調しておいたから、きっと引かれることはない。
 毎日でも会いたい彼女に、すぐまた会えるなんて――夢みたい!


「明日、なに着て行こう……♡ 花梨ちゃんと写真撮らなきゃ♡」










 ……と、そんなことがあり、今日の再会の運びとなったわけで。
 内心ウキウキだった蘭の今日の服装は、実はかなり気合が入っていたりする。


(うわぁ~~……♡ 花梨ちゃん、今日もめちゃくちゃカワイイ~~♡♡)


 花梨がロビーに現れた時、蘭はすぐに気がついた。
 確かに彼女は、見た目が一般人とは少し異なる。けれど、人混みの中でもすぐに見つけられる――蘭には、そんな自信があった。


『花梨ちゃん! ここ、ここ!』

『蘭ちゃん!』


 蘭が手を振ると、気づいた花梨が弾けるような笑みを向けてくれて――。


『に、日曜なのに呼び出しちゃって……ごめんね~! 雅美さん、花梨ちゃんにどうしても会いたいって言ってて~……』


 その時、声が多少上擦ったのは花梨に見惚れていたからだ。
 ……その瞬間を思い出した蘭の頬が、雅美と同じようにぽっと赤く染まった。


「蘭姉ちゃん。……なんか浸ってるところ悪いけど、花梨姉ちゃんずっと待たせてるけど、いいの?」


 ジトーッと、コナンの視線が下から突き刺さる。
 その痛さに蘭はハッと目を開けた。


「ハッ!? そうだった! 雅美さん! 確認が終わりましたので、花梨ちゃんを呼んできますね!」

「はい! お願いします!」


 雅美も、ぼんやりと立ち尽くす蘭の姿に戸惑っていたようだが、“花梨”の名が出た瞬間、ぱっと目を輝かせた。



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