白月の君といつまでも

-- Spring, about 17 years old
131:蘭からのメッセージ







 “ピコン!”


 ……土曜の夜、風呂から上がった花梨のスマホに、メッセージアプリの通知が届いた。
 相手は蘭――。

 どうしたのだろうと思いながら、メッセージを開く。すると……。


「え……、あ、私に、会いたい……?」


 花梨はぱちぱちと瞬きをした。
 蘭からのメッセージには、こうあった。


 “水曜に会った広田雅美さんって覚えてる? 彼女が花梨ちゃんに会いたいって言ってるんだけど、明日うちに来れないかな? どうしても会いたいんだって”


 “広田雅美”――。
 たまたまぶつかった拍子に、彼女が近い未来で遭遇する“死”が視えてしまった。

 花梨には、それを彼女に伝えることも、未来を変えてあげることも――何もできない。
 その人の未来は、その人のもの。
 その人自身が気づき、どうにかするしかない。

 だからせめてもの思いで、花梨は雅美に、祖母から教わった“幸運のおまじない”をかけてあげた。

 ……祖母は花梨に精神修行と称して、四時間の正座をさせたあと、こう言った。


『いいかい、花梨。よくお聞き。お前は気に入った相手に、それだけやってやりゃいいんだ。あとは相手が勝手にどうにかするもんだ』


 花梨は足が痛いわ、言っていることはよく分からないわで、祖母の言葉は半分しか頭に入ってこず……。

 けれど、正座させられたのは花梨だけではなく、親戚の“彼女”もだった。
 “彼女”は「お前のお役目をしっかり果たしなさい」と言われ、嬉しそうにしていたが、やはり足の痛みに悶絶していた。


(お婆さまって、みんなに平等に厳しい人だったなあ……)


 ……誰に対しても厳格な祖母を思い出し、花梨は微苦笑する。


「明日かあ……。会うのは構わないけど……快斗、米花町に行くの怒るんだよな~」


 最近、毎週日曜になると米花町に行っている気がする……。
 花梨は、風呂掃除を買って出てくれた快斗がバスルームから出てくるのを待って、相談することにした。


「は? ダメに決まってんだろ? また命狙われるだろ?」


 下着姿でバスルームから出てきた快斗が、頭をタオルでガシガシ拭きながら眉をひそめる。

 ……土日のどちらかは、“彼女”から送り込まれた刺客しかくに命を狙われる――。
 米花町は犯罪率が高いのだから、他の事件に巻き込まれる可能性も大。

 快斗の答えが“ノー”なのは当然だった。


「う、んー……。でも、どうしても会いたいって言ってるらしくって」

「は? なんでだよ。花梨は探偵でもなんでもねーだろ?」


 花梨の話を聞きながら、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した快斗は、それを一口飲んで、濡れた口元をぬぐう。


「そうなんだけど、彼女ね……」


 ……どう言えば快斗は納得してくれるのだろうか。

 “彼女、もう少ししたら死んじゃうから、会ってあげたくて”――なんて、本当のことはとても言えない。
 なにか、うまい言い訳はないだろうか――。

 花梨は、体裁のいい理由を探した。


「彼女がなに? それ、花梨の命とどっちが大事?」

「っ」

「オレは、花梨一択。とにかく米花町はやばい。花梨の脅威がなくなるまでは、近づかない方がいい」

「でも……」


 快斗はペットボトルをキッチンカウンターに置くと、花梨に近づき、ぎゅっと抱きしめてきた。
 心配してくれているのは痛いほどわかっているけれど――。

 花梨はちらっと上目遣いで、快斗を見上げた。


「……うっ。そういう可愛い顔してもダメなもんはダメっ!」

「ダメ……なの?」


 目が合った瞬間、快斗の頬がわずかに赤く染まる。
 花梨は今度、快斗の腕にそっと触れ、じっと彼を見つめた。

 ……快斗の顔がみるみる真っ赤になっていく。


「……っあ、もー!! 花梨ちゃんはあざといなぁ~っ! ダメったらだぁめっ! めっ!」


 真っ赤な顔のまま、快斗は花梨の鼻先を人差し指でツンと突いた。


「ン。ホントにダメ? 米花町じゃなかったらどうかな~? 大丈夫そうじゃない?」

「う……、っ、だからだめだって……」

「ね、快斗くん? 本当にダメなの?」


 じぃ~~っと、花梨に見つめられている快斗から“はあー……”と諦めのため息が漏れ聞こえた。


 ――よし、もうちょっとかな……?


 花梨は、快斗が自分に甘いことを知っている。
 だから、あとひと押しすれば――。


「っ、……さ、さっき泊まりはダメだって言ってたけど……オレ、今日泊まってもいい? そしたら明日付き合ってやるよ」


 ついに快斗が折れ、花梨を胸の中へと抱きしめる。
 頭上から聞こえたその返事は、交換条件を満たせばOKということ――。

 ……花梨の勝利だ。


「快斗っ♡ うんうん! 蘭ちゃんに、会う場所は米花町じゃないところにしてもらうねっ♡ ありがとう、快斗! だいすきっ♡」


 “チュッ!”

 快斗の腕を引き、花梨は背伸びして頬にキスをした。


「くっ! ……くっそかわええ……♡ なんだよそのおねだり! ああ、も~、なんでも言うこと聞いちゃる!! ほら今すぐベッド行こ、ベッド!!」


 ――オレって、花梨に甘いよなぁ……。


 可愛い笑顔を浮かべる花梨の背中に腕を回し、快斗はそのまま彼女をひょいっと抱き上げる。
 「わっ!?」と、毎度のことながら驚く花梨の声に目を細めつつ、快斗は足を寝室へと向けた。


「ちょ、ちょっと待って! 先に、蘭ちゃんにメッセージだけ送らせて?」

「わかったっ♡ 待ってる♡」


 ベッドにたどり着いた快斗は、さっそく花梨に覆いかぶさろうとしたが、あえなく制止される。

 ……まあ、報酬はあとでもらえる。ここは大人しく待つか。

 快斗は、犬のように尻尾を振る気持ちで、蘭にメッセージを送る花梨を待った。
 メッセージの送信が終わると、犬だった快斗は、狼へと変貌――。

 二人は甘く、幸せな時を過ごしたのだった。



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