白月の君といつまでも

-- Spring, about 17 years old
128:オレ、格好いいんだな







「っ、黒羽……オメー……」


 突然現れた“花梨の彼氏”に、コナンは一瞬、目を見開いた。
 だが、次の瞬間には眉を寄せる。


 ――今は関係者以外、入れねーはずだろ?


 ロビーのガラス越しに見える外には、まだ警官が立っている。
 捜査が終わるまでは、店内は立ち入り禁止のはずだ。
 園子の迎えが来たときも、彼女が外に出ていっただけで、迎えは一歩も中に入ってこなかった。

 ……じゃあ、黒羽はどうやって?

 コナンが怪訝な顔をしていると、その間に花梨はあっという間に彼の腕に抱きかかえられ、連れ去られてしまった。


「あ……」


 横抱きにされた花梨が、去り際に申し訳なさそうな顔でこちらを見てきた。
 その視線を受けて、コナンは思わず苦笑し、軽く手を振って見送った。


(あいつ、やっぱ独占欲すごくね……?)


 自分のものだと言わんばかりの手際の良さ。
 花梨に対する異様な距離感の近さに、少しだけ背筋がひやりとする。

 ……厄介な相手に惚れられたもんだな。

 コナンは花梨を少しばかり不憫に思った。


「花梨ちゃ~ん、コナン君、お待たせ! お父さん、今着いて、外で待ってるって。出よっか」

「あ、うん」

「あれ? 花梨ちゃんは?」


 ふと、蘭が周囲を見渡す。
 花梨の姿がないことに気づき、きょろきょろとロビーを見回した。
 椅子には誰も座っておらず、静まり返った空間に、かすかな違和感が残る。


「花梨姉ちゃんなら、ついさっき、彼氏が迎えに来て帰ったよ」

「えっ!? 花梨ちゃんの彼氏!? え~~!? 会いたかったな~! イケメンだった?」

「……別に、……普通だと思う」


 “イケメンだった?”

 蘭に問われたコナンは、花梨の彼氏の顔を思い出しながら、無意識に頬を膨らませた。

 ……まあ、世間一般で見れば、確かに“イケメン”に分類される顔かもしれない。
 だが、花梨の彼氏となると話は別だ。褒めてやる義理なんて、どこにもない。

 それに――元の姿に戻れば、自分の方が絶対イケてるはずだし。


「え~、そうなんだ~。花梨ちゃんほどの美少女の彼氏でしょ? きっと格好いいんだと思ったんだけどな~」


 蘭は無邪気に笑いながら、まるで芸能人の噂でもしているかのように軽やかな声で言った。
 そんな蘭を見て、コナンはわずかに眉をひそめる。


「蘭姉ちゃん、夢見すぎ」


 呆れたように言いつつも、コナンの胸の内には小さなモヤモヤが渦を巻いていた。


「だって、新一がそばにいて惚れなかった花梨ちゃんだよ? 彼氏さん、どんなタイプなんだろ……」


 蘭は無意識のまま続ける。
 その言葉が、コナン――いや、“新一”としての自分の胸に、ちくりと刺さった。

 が――。


「ら、蘭姉ちゃん、それどういう意味?」


 コナンは思わず問い返す。
 しかし蘭は悪びれる様子もなく、ケロリとした顔で答えた。


「ん? 新一って格好いいじゃない! イケメンだよね!」


 その言葉に、コナンの心臓が一瞬だけ跳ね上がる。


「へっ? ……そ、そうかなあ?」


 とぼけるように返しながらも、コナンは頬が熱くなるのを感じた。
 耳のあたりまでじんわりと赤くなっているのが、自分でもわかる。


「あっ、新一には内緒よ~? アイツ、ちょっと褒めるとす~ぐ調子乗るんだから」


 蘭はいたずらっぽく笑い、唇に指を当ててウインクする。
 コナンは咄嗟に頷くが、胸の奥がくすぐったくて、どこか落ち着かない。


「う、うん、わかった……」


 声がほんの少しだけ裏返ってしまったのを、蘭は見逃さなかった。


「なんでコナン君が赤くなってるのよっ」


 ツッコミ混じりにのぞきこまれ、コナンは慌てて視線をそらす。


「べ、別に……」


 小さくむくれたように口をとがらせるが、顔の火照りは隠せない。
 蘭の何気ない言葉が、こんなにも胸を熱くさせるなんて、自分でも思っていなかった。


 ――オレ、格好いいんだな……。


 思わずこぼれた心の声。
 誰にも聞こえないように、コナンは照れくさそうに頬を掻いた。
 それでも口元には、どうしても隠しきれない小さな笑みが浮かんでいた。



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