白月の君といつまでも
-- Autumn, about 15 years old
011:新ちゃんだいすき
「……辛かったな……」
「うん……、でももう引っ越したから大丈夫だと思う……」
「おう、そーだそーだ。オメーを虐めるヤツはオレが黙っちゃいねえ! なんかあったら言うんだぞ!」
「ありがとう、新ちゃん……だいすき……」
慰めるために新一が花梨の頭をわしゃわしゃ撫でると、上目遣いにまたも愛の告白……。
宝石みたいな色素の薄い瞳があまりに魅力的で、新一の喉はごくりと音を立てた。
「っ、だっ、だからオメーはそういうこと簡単に言うなっつーのっ!(勘違いすんだろ……!)」
――オレはっ、ら――……オレはっ……!
花梨に好きだと言われる度に気持ちが揺らいで、新一の心中はざわついてしまう。
花梨は妹。
花梨は妹。
どうせ恋愛的な意味じゃない。
新一は目を閉じ、眉間に皺を寄せ精神統一を図る。
「え? あはは……でも、本当に好きなんだけどな……」
「え? ……本当か?」
花梨の言葉に新一の目蓋がぱっと開いた。
その目には、はっきりと期待の色が浮かんでいる。
「……うん。ほら、昔から私って好きだなーって思うと、すぐ言っちゃうじゃない? 昔から新ちゃんは頼もしいお兄ちゃんみたいな存在で、あ、同い年だけど。頼りになるお兄ちゃん、素敵だと思う。そりゃ好きになるに決まってるよ~。私、優作おじさまも大好きだもん! 有希子さんも!」
「……。……だ、だよな……うん。オメー、五歳の時と変わってねえわ……」
――紛らわしいんだっつーの!
やはり勘違い……か。
キラキラした瞳で楽しげに言われた新一は失笑した。
「ムッ。成長してないっていうの? 私、手足はガリガリかもだけど、胸は結構あるんだよ!? ほらっ!」
花梨は腰に手を当て身を捩り、胸を強調する。
目の前で揺れる柔らかそうな膨らみに、新一の頬はみるみるうち赤く染まっていった。
「っ!? 強調すんなっ! オレは男なんだぞ!?」
「だから何? 私は女だよ!?」
「ああもう……そうじゃねえよ、バカやろ……」
――くそ……人の気も知らないで、好い匂いさせやがって……。
ふんす、と顎先を斜め上に向け張り合おうとする花梨の仕草は、距離が近く、新一の鼻腔に女の香りをふわりと漂わせる。
同じシャンプーを使っているくせに、いつもより好い匂いに戸惑った。
新一は耳まで真っ赤に染め、たじたじだ。
頭を抱えて俯く。
現状を打破するにはどうすればいいのだろう。
花梨が無邪気過ぎて辛い……。
これまで虐げられ続けた花梨は、頭がおかしくなっているのではなかろうか。
彼女の距離感はバグっているように思える。
幼なじみだから気にしていないのはわかるが、十年も会ってなかった男だと思っていた友達が実は女で、しかも超可愛い子であった場合、意識しないでいられるだろうか。
(無理に決まってんだろ……! オレは男だぞ……!?)
彼女のことは妹だと思っているが、まったく意識しないというのは無理だったらしい。
花梨の“好き”には男を勘違いさせる魔法が込められている。
「新ちゃん……?」
「帰る」
「え?」
「今日はもう帰る。なんかあったら呼べよ。買い物とか何でも付き合ってやっから」
……このまま花梨といると、変な気分になりそうだ。
新一はすくっと立ち上がり、花梨に背を向け歩き出す。
振り返らないまま、してやりたい事だけ伝えておいた。
「あ、ありがとう……。またねー……」
「おー、またな」
リビングの向こうから花梨の返事が聞こえる。新一は頭の横で軽く手を振り、その日はそのまま別れた。