白月の君といつまでも1

-- Spring, about 17 years old
115:レックスの打ち上げ①


(ごめんね、快斗。……メッセージ、あとで送るね……)


 青子と口喧嘩する快斗を遠目に、花梨は心の中で詫びる。
 蘭はともかく、コナンもいると言っていたから、快斗は鉢合わせない方がいいだろう。

 快斗にはあとでメッセージを送ることにして、楽しそうに鼻歌を歌う園子に目を細める。
 保育園時代の園子はこんなにグイグイくることはなかったのに、同性だとわかった途端この扱い。

 ……それがなんだか嬉しく思えた花梨だった。


「ねー花梨? いつかあんたも芸能デビューするんだから、レックスと知り合っておくといいわよ♡」

「も~、デビューしないってば」

「えー、もったいなーい! イケメンアイドルを紹介してもらうっていう私の夢が~!」

「ふふっ、まだ諦めてなかったの?」

「当たり前でしょ!」


 園子に腕を引かれて花梨は蘭とコナンの待つ場所へ。
 そこはゲームセンターとカラオケ店の中間地点にある街路樹の前。
 ……蘭とコナンが立っていた。


「蘭! お待たせ! レックスの方たち来た?」

「あっ、園子! ううん、まだ……って、え?」

「花梨……!?」


 やって来た園子に、その後方を見た蘭の目が丸くなる。
 コナンまでもが驚き、蘭と同じ顔をした。


「花梨ちゃんっ♡ わっ、それ江古田の制服? かわい~♡」

「蘭ちゃん♡ 昨日ぶりだね! 私も一緒に参加させてもらうことになったんだけど……いいかな?」


 顔を合わせるなり蘭が手を挙げるので、花梨も手を挙げハイタッチしようとしたが、ハイタッチではなくぎゅっと手を握られてしまう。


「えっ、えっ? ちょっと園子。ひょっとして花梨ちゃんも誘ったの!?」

「そうよ! 花梨ね、ゲームセンターで寄り道してて、帰るとこだっていうから連れて来ちゃったー♪」


 花梨と手を繋いだまま蘭が尋ねれば、園子はウキウキした様子でピースした。


「ナイス園子♡ 行こ行こ! 花梨ちゃんなに歌う~?」

「えと、私、カラオケに行ったことなくって……、みんなの歌を聴いてようと思ってるの」

「そうなの? 花梨ちゃんの声優しいから、なに歌っても素敵に聞こえると思うよ?」

「ありがとう蘭ちゃん♡」

「ふふっ♡ 昨日会ったばかりで、しばらく会えないと思ってたから会えて嬉しいな♡」

「私も……♡」


 喜んでいるらしい蘭は、嬉しそうに満面の笑みで花梨の手をにぎにぎ。
 昨日別れる時淋しそうだったから、花梨は彼女の笑顔にほっとした。


「あらなに? イチャイチャしちゃって妬けるわねー。私もいるんだけどー?」

「えへへ♡ 同性だもん、これくらい普通でしょ♡ ねー♡ 花梨ちゃん?」

「ふふっ♡」


 園子にジト目をされたが、蘭が花梨の手を放す様子はない。
 蘭は昔“あおい”の前だと照れてもじもじしていたのに、同性だと分かった今、それがなくかなり積極的。

 ……昔も、本当はこうして女の子として手を繋いだり、話をしたりしたかった。
 思い出した花梨は、さっきの園子とのやり取りもそうだったなと、改めて胸が温かくなった。


「わーい! 花梨姉ちゃん! こんばんは!」

「わっ!? ふふ。コナンくん、こんばんは♡」


 ……蘭に花梨を取られたくないのだろうか。

 自分の正体を知り、この孤独な境遇に寄り添ってくれる唯一の理解者。その温もりを誰にも渡したくないと言わんばかりに、コナンが割り込んで花梨に抱きついてくる。


(これ、もしかして嫉妬してるの~? 新ちゃんは、本当に蘭ちゃんに甘えたい盛りなんだね……よし、代わりと言っちゃなんだけど、可愛いからぎゅーしてあげる! さあ、いらっしゃい!)


 コナンの甘えてくる様子が可愛くて、皮肉にも180度違う解釈をして花梨は、蘭の手を放して彼を受け止めた。


「ンンッ……! もう暗いけど帰り大丈夫?」

「う、んー……帰りはタクシーで帰るから心配しないで?」

「それなら安心だね!(警護の人は……、あ、いるいる)」


 ほんのり赤い顔のコナンが咳払いしつつ問うと、花梨はしゃがんで告げる。
 蘭たちの手前、下手なことは言えないが「心配無用だよ」くらいは言ってもいいだろう。
 花梨の一言にコナンは辺りを見回し、権堂の姿を見つけて大きく頷いた。


「コナン君は花梨ちゃん好きよねー」

「……うん! ボク、花梨姉ちゃんだーい好きー♡」


 花梨とコナンの話し込む様子に蘭がくすくすと笑う。
 コナンはといえば、開き直ったかのように蘭を見上げて笑顔で言い切った。


「ぷっ、なんかもうやけくそって感じだね?」


 話を終えて立ち上がった花梨は、もう否定するのも面倒なのかな、と、コナンが無理しているように思えて噴き出してしまう。


「ハッ……。なんも知らねーくせによく言うぜ……」

「ん……? 今、なんか言った?」

「べっつに~?」


 コナンの身長では、ぼそっと呟いても花梨には届かない。
 チラッとだけ花梨を見上げたコナンは鼻で嗤った。


「お? 超絶美少女がいるな。うちのブスとはえれーちげーだ」

「……へ?」


 しばし蘭たちと話をしていると、前方から金の髪を重力に逆らって立ち上がらせたヘアスタイルの男性と、ふんわりパーマの掛かった茶色いボブカットの美人女性。頭にバンダナを巻き、サングラスをした大柄な男性とショートヘアの女性がやって来る。


「あっ! 達也! レックスのみなさん!!」


 園子が一歩前に出て、金髪男性に「今日はお邪魔します」と挨拶をした。
 どうやら金髪の彼が木村達也らしい。


「明るい茶色の髪にカチューシャ……あなたが鈴木園子さん?」


 金髪男性の後ろからボブカットの女性が手帳を手に、園子を見ながら告げる。
 事前に園子の情報を聞いていたのだろう、特徴と照らし合わせて尋ねたようだ。


「あっ、はい。ライブお疲れ様でした! 本日は打ち上げに混ぜて頂きありがとうございます!」

「いえ。じゃあ人目もありますから、中に入りましょうか」


 道行く人々の中にはチラチラとレックスを見てくる人たちがいる。
 さすがは売り出し中のバンド。このままここに居たらファンたちに囲まれて、身動きが取れなくなりそうだ。
 園子のお礼の言葉にボブカットの女性は微笑み、一行はカラオケ店へと入ることにした。

 店に入り、ボブカットの女性がカラオケの受付をしながら、ざっと自己紹介をする。
 金髪の男性がやはりボーカルの【木村達也】で、大柄な男はドラムの【山田克己】、ショートヘアの彼女はギターの【芝崎美江子】。
 受付中の女性がマネージャーの【寺原麻里】という。

 ……花梨たちもそれぞれ名乗った。


「……嬢ちゃんは芸能人なのか? いや、そもそも外国の人?」

「へ? 私ですか? 私は純日本人ですけど……」


 カラオケで受付を済ませ個室に向かう間、達也が花梨に話し掛けてくる。
 急に話しかけられた花梨は目を瞬かせた。


「へえ、ずいぶん日本人離れしてるな。それカラコン?」

「いえ、生まれつきで……」

「珍しい色だな。じゃあ整形ってわけでもねーんだ?」

「はい、整形はしてないですね……」


 ただの雑談だとは思うが、どうしてこんなことを訊いてくるのだろう……。
 見た目に関して何か言われるのは慣れているが、達也の視線や声音には少しの熱も混じっていない。大して興味なさそうに、事務的に問われたのは初めてだ。


「つまり天然美人ってわけか! すげーな! やっぱ天然が一番だよな! 気に入った! 嬢ちゃん、オレの隣に座りな」

「え……? あっ!」


 不意に達也に手を取られ、花梨は個室へと連れて行かれる。


「やろうっ……!(花梨に気安く触んじゃねー!)」


 ……達也と花梨のやり取りをじっと見ていたコナンが慌てて追いかけていった。


「花梨ちゃん、もしかして達也のお気に入りになっちゃった……?」

「やーっぱ、花梨は芸能デビューすべきよね……! そして私にイケメンアイドルを紹介するべき……!」


 蘭と園子が話す中、残った寺原とサングラスの山田、ショートヘアの芝崎が花梨を連れて行く達也を見つめる。
 その三人の内一人が、達也に鋭い視線を送っていたことに、誰も気付くことはなかった。



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