白月の君といつまでも

-- Spring, about 17 years old
114:カラオケへの誘い


「も~……、青子ちゃんたち向こうに行っちゃったよー?」

「いーじゃん、二人っきり。ほら、集中集中」

「……、ふう……。快斗、お腹撫でないで。ここ公共の場だよ?」

「ちぇっ……はーい!」


 恋人とはいえ、嫌がられたらセクハラだ。
 花梨は自身の腹に回された快斗の手をぺちぺち叩く。
 仕方なく快斗は返事して、花梨が自身で景品を取れるようにアームを導いてやった。

 ガコン、と景品がプライズ落とし口に落下。
 初めての景品ゲットに花梨は喜びのあまり振り返り、快斗に抱きつく。


「取れた~! やったぁっ♡ 快斗ありがとうっ!!」

「わっ♡ おめっとさん!」


 ――ああ~役得役得♡ オレの彼女、めっちゃ可愛い♡


 花梨から抱きついてきたから合法合法。
 彼女からの抱擁はいつでもウエルカム。快斗はここぞとばかりに花梨をぎゅっと強く抱きしめた。


「っ、苦しっ……!」

「あ、わり……」


 苦しそうな花梨の声で、抱擁は僅かな時間で終わる。
 腕の力を弱めた快斗から逃れた花梨は、取り出し口から落ちた景品を手にして見せつけるように左右にフリフリ。


「ふふふっ♡ キーホルダーゲット~♡」

「よかったな」

「うんっ♡ 快斗のおかげだよっ♡」

「へへっ♡ 花梨が上手だっただけだって♡」


 花梨がゲットしたのは白猫のキーホルダー。
 戦利品を嬉しそうに手にする花梨に、快斗の顔がこれ以上ないほどに緩む。


「快斗君て、花梨ちゃんのこと溺愛してるよね」

「ね~……。あれ花梨ちゃんしか見えてないよ」


 格闘ゲームコーナーから、遠巻きで二人の様子を見ていた恵子と青子が呆れたように微苦笑した。


「……あの二人、いつもああなんですか?」

「「ああなんです」」

「そ、そうですか……」


 白馬が尋ねると青子と恵子の声がハモる。
 即答された白馬も微苦笑。格闘ゲームでもしますかと二人を誘い、遊び始めた。
 そのうち花梨と快斗もやってきて、対戦が始まる。

 ……楽しい時間はそうして過ぎて行った。


「私、今のうちにお手洗いに行ってくるね」


 花梨は最後のゲーム対戦中の四人に、化粧室へ行くと断りを入れる。
 当初はゲームが飽きたら近くのカラオケに寄って帰ろう――という話だったが、思いの外ゲームにどっぷり嵌り遅くなってしまった。
 この後、青子が用事があるというのでそろそろ解散という運びに……。


「んじゃオレも!」


 花梨が行くところにはオレもついて行かないとな――な、快斗は対戦中にもかかわらず名乗りをあげる。


「ちょっと快斗! 次あんたの番でしょ!」

「なんだよ、いーじゃねーかよ。オレもトイレ行きたい」

「だーめよ! 恵子と白馬くんチームに負けるわけにはいかないんだから! ほら、黒羽少尉持ち場に戻れ。大尉命令だ!」


 入れ替わり方式で進めるゾンビ退治の対戦ゲームはチーム戦である。
 快斗青子チームと白馬恵子チームで、交互にプレイしているわけだが、現在は接戦。
 軍人たちがゾンビと戦うというゲームだからか、青子は上官という設定らしい。
 先ほどのプレイでは青子が見学していたので、今回花梨は見学で。


「青子、なんでオメーが大尉でオレが少尉なんだよ……って……あれっ? 花梨!?」

「花梨ちゃんならもう行っちゃったよ~。すぐ戻るって」


 快斗が青子に言い返している間に、花梨は一人で化粧室に行ってしまったらしい。
 恵子がゲームの銃型コントローラーを画面に構えながら教えてくれた。


「……一人で大丈夫なんかよ……って……あ」


 ――そっか、権堂さんがいるから大丈夫なのか……。


 化粧室のある方向へと目を向けると、権堂が花梨について行く様子が見える。
 昨日も花梨は出掛けたと言っていたし、今のところ諸伏の言う通り、平日に暗殺の心配はなさそうで、快斗は一息ついた。









 ザーッ……と水が勢いよく流れる洗面台で手を洗い、花梨は目の前の鏡で少し崩れた髪を整える。
 先ほどの対戦では、かなりはっちゃけて少々汗ばんでしまった。


「ふう……、楽しかったな~」


 遊びとはいえ、銃を持つのは慣れている。
 花梨はゾンビを多く仕留め、快斗から「花梨すごい!」と褒められ嬉しかった。
 的当ての類は昔から得意で、実は本物の銃も触ったことがあったりするのだ。


「……あ、やっぱりそうだ、花~梨っ!」

「へ? あっ、園子ちゃん! 奇遇だね!」


 突然横から知った声が聞こえ、そちらに振り返る。
 すると、そこにはトイレの個室から出てきた園子が片手を振り振り、笑顔で近づいて来た。


「昨日はごめんね~! こんなところで会うなんて……一人?」

「ううん、友達と来てて。でもそろそろ帰ろうかなって」


 園子もゲームセンターに来ていたのかと思い、そういえばここは米花町だったと思い出す。
 私はちょっとここにトイレ借りに来ただけ……と手を洗う園子に、花梨はもうすぐ解散予定だよと伝えた。


「そうなんだ? ねえ花梨。友達と解散したらカラオケに来ない?」

「え、カラオケ?」


 ゲームセンターの近くにカラオケ店があるのは知っているが、突然のお誘いに花梨は目を瞬かせる。


「私、これからカラオケボックスに行くんだけど、なんとそれ! 人気ロックバンド“レックス”の打ち上げなのよ! ナマ木村達也が見れるわよ! 昨日の埋め合わせするからおいでよ!」

「レックス……?」


 園子の話によると、人気バンドの打ち上げを近くのカラオケ店でやるらしい。コネで参加させてもらうことになったから、花梨も来ないかと誘ったわけだが、花梨の首はこてんと横に倒れただけ。
 ……バンドどころか芸能人にも疎い花梨の肩を、園子は憐憫の目でポンポンと叩いた。


「あー……花梨はそういうの疎い系なのね……勿体ない。いいわ! それなら余計打ち上げに来なさい。後悔はさせないから! 蘭も来てるのよ♪」

「えっ、蘭ちゃん!? 蘭ちゃんもいるの!?」


 蘭がいると聞いたら、嬉しくなってしまう花梨はパッと明るい笑顔を見せる。


「あらっ、蘭がいたら来るの~? 妬けちゃうわね」

「そっ、そういうわけじゃないけど……」

「今、外で蘭とガキンチョ、レックスのメンバーたちが来るのを待ってるの。花梨も友達と解散していらっしゃいな」

「えー……んと……、どうしようかな……」

「レックスよ!? ナマ木村達也よ!? 来ないなんて選択あり得ないでしょ!」

「えぇー……?」


 そう言われても友達が待ってるし……と、迷っている花梨に“いざ行かん!”。園子に腕をがっつり掴まれ断れない雰囲気だ。

 ……そのとき、化粧室のドアが静かに開いた。


「花梨ちゃーん……?」


 開いたドアの隙間からひょっこり、青子が中の様子をうかがうように顔を出す。
 花梨がいることがわかった青子は、ホッとしたような顔で化粧室に入って来た。


「あ、青子ちゃん! ごめんね、みんなを待たせちゃってる?」

「ううん。恵子が負けを認めなくて、なんかもう一戦やるってんで、帰る前に青子もトイレに来たの。それが終わったら帰ろうって」

「そっか、うんわかった」


 じゃあ青子ちゃんが終わったら一緒に戻ろうかな……なんて、花梨が考えている横で園子が腕を組み口を開いた。


「ん……? 同じ制服……ってことはあなたが花梨の友達ね?」

「へ? あ、はい。花梨ちゃん、この人は?」


 園子に尋ねられた青子は頷き、そっと花梨に近づいて空いている片手を握る。


「あ、彼女は幼なじみなの。鈴木園子ちゃん。園子ちゃん、彼女は同じクラスの中森青子ちゃん」


 二人に片腕と片手をそれぞれ取られ、両手が塞がってしまっているため、花梨は園子、青子と順に視線を投げながら互いを紹介していく。


「どうも~♡ 鈴木園子でーす。いつもうちの花梨がお世話になってまーす」


 花梨を真ん中に挟み、園子は身を乗り出し青子に笑顔を送った。


(うちの……?)


 ……話を聞く花梨の目がぱちぱちと瞬く。
 いつの間に「園子の花梨」となったのかは知らないが、掴まれた腕に力がこもった気がした。


「いえいえっ! こちらこそ。花梨ちゃんにはいっつも萌えキュンさせてもらってて!」


 園子の話に青子も応え、にこにこ。手をぎゅっと強く握られた。


(「萌えキュン」……?)


 はて萌えキュン……。
 コナンに対する萌えと同じようなものなのだろうか。
 いや、確かにコナンは萌えるけれど、自分に萌えるポイントなどなかったような……。

 わからない花梨はやっぱり目をぱちくり。


「あの~、今花梨からそろそろ解散だって聞いたんですけどー、その後私が引き取って構いません?」


 ふと園子が花梨の予定を勝手に決め、腕を引っ張ってくる。
 花梨の身体が腕を引かれた拍子に園子側へと傾いたが、すぐにぐっと青子に手を引かれて元の位置へと戻った。


「えっ!? 嫌ですけど?」

「えっ!? 嫌なの!? でも、花梨もカラオケ行きたいって言ってて」


 二人は笑顔を崩さないまま見合っている……。


(言ってないけど……)


 カラオケに興味はあるものの、「行きたい」とまでは言っていない。
 花梨は洗面台の鏡に映る、女の子二人を侍らせる自分の姿に保育園時代の蘭と園子を思い出し苦笑した。


「っ、そうなの!? 花梨ちゃん、カラオケ行ったことないから行きたいって言ってたもんね! わかった! 青子みんなに言っておくから楽しんできて! ぬいぐるみは快斗に預けとくから!」


 園子の話に青子がぱっと手を放す。
 本当ならカラオケに行く予定だったが、時間がなく次回に断念したのだ。

 それでも花梨が行きたいと言うなら行って来て欲しい。

 花梨の気持ち最優先の青子は「快斗には上手く説得しとくから!」と駆け出し、あっという間に化粧室から出て行った(快斗から貰ったぬいぐるみは、店の人に袋に入れてもらいゲーム機の側に置いてある)。


「よっし! 許可は取ったわ。行くわよ花梨!」

「……え? あっ、ええっ!?」


 がっちり腕を掴まれたままの花梨は、快斗たちにお別れも言わないまま連行されてゆく……。
 ゲームセンターを出る際、チラッとだけいつものように口喧嘩する青子と快斗の姿が見えた。










▽オマケ(快斗視点)

 花梨が園子に連れられて行ったその時、オレは……。


「はあ? 青子今なんっつった? 花梨が友達に連れてかれた?」

「幼なじみの女の子に誘われて、これからカラオケに行くって言ってたよ」

「なんでだよ……、オレ、今日花梨ん家にとま……っと」


 ――約束はしてねーけど……。


 青子から花梨の話を聞いて、「泊まろうと思ってたのに」と言いかけてオレは口を噤んだ。


「とまと?」

「と、トマト缶が家にいっぱいあるから分けてやろうと思っててさ! ほら、今母さんイタリアにいて……」


 青子が目をぱちぱちと瞬かせる。
 ちょっと苦しい言い訳になってしまったかなと思う。

 ……オレの額に汗が浮かんだ。


「えっ、本当!? トマト缶なら青子も欲しい!」

「だ、ダメだ! あのトマト缶は花梨にあげるってもう言ってあるんだから! 今夜届けに行く!」


 嘘はつくもんじゃねえ……。
 青子はオレの嘘にあっさりと騙され、トマト缶を寄越せとねだってくる。

 さっき景品をいっぱい取ってやったじゃねえか、まだ欲しいのかよ……。
 ていうか、トマト缶なんて送られてねえっつーの!(そもそも最近、母さんから連絡もねえ! 今どこにいるんだ?)

 ……けど、豪華列車の切符のためもあるしな~……買ってっかあ?

 青子の機嫌を損ね、「切符なんて手配しない」と言われたら困るのはオレ。一度は断ったが、切符の手配を盾に取られたらトマト缶を買いに走ろうと決めた。


「なによ、一缶くらい譲ってくれてもいいじゃない。ケチー! そんな意地悪するならもうご飯作ってあげないわよ!」

「別に作ってもらわなくて結構! 花梨が作ってくれるからなー! 花梨の料理めちゃくちゃうめーんだぞ! 今日の夕飯は花梨の作り置きを食うんだからなっ!」

「えーっ! なにそれ、花梨ちゃんの手料理!? ずるい快斗! 青子も食べたい~!! 遊びに行くー!」

「来るな」

「なによー! バ快斗のケチンぼ!」


 青子がいい奴でよかった。ケチ呼ばわりされただけで済んだ。

 夜に青子を家に上げるわけにはいかない。
 いくら幼なじみとはいえ、青子は女だから、可愛い彼女が焼きもちを焼いてしまう。


「(妬いてくれる……よな?)」


 なぜかオレはちょっと不安になる。
 ……トロピカルランドの時も嫉妬してくれたから、きっと今回も妬いてくれるはず。
 けど、花梨にそんな想いさせたくないから、ここは断っておくのが正解だな。


「……快斗?」


 ふと黙り込んだ込んだオレを青子が覗き込んでくる。


「あ……、なに?」

「花梨ちゃん、カラオケ初めてだって言ってたじゃない?」

「あ、ああ……」

「楽しんできて欲しいな~って思って、行っておいでよって、青子言ったんだ」

「なっ、そういうこと言うなよ~!」

「え? なんで?」

「なんでもだよ!」


 ――花梨の初めてはオレが全部与えてやりたいのに!


 好きな女に初めてを与えたい男の気持ちなぞ、目を丸くする青子にわかるわけない。


「えー……。でも、花梨ちゃんも、たまには快斗から離れたいんじゃないかなって思うんだよね」

「は?」

「だって快斗、花梨ちゃんにべったりじゃん。学校でも授業中は花梨ちゃん見てるし、休憩時間はずっと花梨ちゃんにくっついてるでしょ?」

「なんっ……彼氏なんだからいいだろ?」


 ――オレがそばにいないと余計な虫が寄ってくるじゃねえか。


 今日だって緑田ろくたの奴、「葵さん、昨日はありがとう! これお礼」とかなんとか言って、女子が好みそうな可愛い菓子を渡しやがって。

 ……花梨も花梨だ。「別にいいのに、でもありがとう」って、嬉しそうに笑顔なんて見せちゃってさ。
 その笑顔を見た男子たちの目がハートになってたっつーの。
 普段塩対応の癖に、気まぐれに微笑むからギャップ萌えするっての。

 オレが常に花梨のそばにいるのはそうだが、花梨がオレから離れたいと思っているという話には、ちょっと同意できない。
 ……なぜなら、花梨から一度も煙たがられたことはないから。

 校内ではオレが花梨のボディーガードみたいなもんだ。
 キッドの時はそばにいられないのだから、学校にいる時くらいはな?

 ……外野がどう言おうと関係ねえの。


「花梨ちゃんが嫌がってても?」

「花梨は嫌がってねーよ」

「花梨ちゃんだって、たまには快斗抜きで友達と遊びたいんじゃないかなーって思ってさ」

「なんだよそれ……」


 青子は「快斗はもうちょっと花梨ちゃんをよく見た方がいいよ」と続けた。
 ……けど青子のその言葉は、花梨を第一に考えて行動しているオレにはよくわからなかった。

 その後トイレに行っていた恵子と白馬が戻って来て、四人で帰ることになり、花梨のカラオケが終わったら迎えに行くというオレに、青子は「あはは、だめだこりゃ」……だとさ。



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