白月の君といつまでも

-- Spring, about 17 years old
113:楽しい寄り道







「ロイヤル・エクスプレス?」


 甘いひと時を過ごした花梨は、ベッドに寝転んだまま、隣で同じく仰向けで寝転ぶ快斗が広げた列車のパンフレットを見上げる。
 そこには『豪華列車、ロイヤル・エクスプレスの旅』と銘打った旅行プランが記されていた。
 行き先はプランによって異なるようで、北海道だったり、伊豆だったりと様々。臨時の観光列車で人気らしい。

 日付が一番近いのは……。


「ああ、大阪行きの豪華列車なんだけど、花梨も一緒に乗らないか?」

「んと……いつ……?」


 花梨がパンフレットの日程表に指を添わせると、快斗がすぐに目的の日付を見つけて口を開く。


「えーっと、来週金曜の夜、出発だな。切符を取らなきゃなんで、伝手がある青子に頼もうと思ってんだけどさ」

「来週かぁ……、五月最後の金曜日だね」


 ちらっと卓上カレンダーに目配せをして、花梨はその日は五月最後の金曜だと告げる。


「ん? そうだな」

「そっか……、ん、考えとくね」


 ――私、行けるのかな……。


 五月中なら大丈夫かな? ……と、花梨は先のことが読めず、すぐに返答できない。
 できない約束はしたくなかった。


「えー、考えとくなんて言わないで行こうよ。大阪でたこ焼き食べて帰ろうぜ? まあ青子もいるし、帰りは新幹線になっちまうけどさ」

「ふふっ、そうだねえ……。わかった、行けたら行くよ」

「それ絶対行かないヤツだろっ。こらっ、オレにその手は通じねえからな!? 言質取るまで放さねえぞ!」


 曖昧に返事をする花梨に、快斗がパンフレットを放り投げ抱きついてくる。

 花梨からしたら行けるかどうかわからないから、口を濁しているだけだというのに、快斗は「行きたくないから」とでも思っているのだろう。
 事情を言えないというのはなんてもどかしい。

 ……そのうち快斗が腹をくすぐり始めた。
 触れ方が絶妙で、手の位置が脇腹から次第に下腹部へと移り、触れられた部分に熱が宿って……このままだとまた行為になだれ込まれそうだ。

 それだと困る。


「ぁっ、あはは……わかったっ、いく、行くよぉっ……!」


 行けるかわからないが、行きたい気持ちはあるからここは頷いておこう。
 花梨はムズムズし始めた身体の感覚に、気付かない振りをしてそう答えた。


「へへっ♡ よっし約束! 初めての旅行だなっ! 今から楽しみだぜ♡」


 満足できる答えを聞いた快斗は、上体を起こして再び花梨に覆い被さる。
 顔を近づけ耳朶みみたぶを食み、れろっと舌を耳穴に差し入れた。


「んンッ♡ 今、約束したよね……?」

「うん……♡ それはそれ、これはこれ♡ まだゴムあるし?」


 快斗がヘッドボードに置いたゴムの箱をフリフリ。カラカラと小さい音が鳴る。
 ……まだ残っているらしい。
 箱を開けて中身を取り出す快斗は「あ、最後の一個か……」なんて言って一瞬しょんぼりしたが、すぐニッと不敵に笑ってソレを見せつけた。


「まだあるしって……、明日学校だし、なにも全部使い切らなくてもいいんだよ?」

「オレ、ずっとお預け食らってたじゃん?」

「でも、ふ、二日だけですよね?」

「二日っ!! 健康な男子高校生は、毎日やってもし足りないんですよ、花梨嬢!」


 ですます調で尋ねれば、キッド口調で返ってくる。
 確かに快斗は行為が好きみたいだけれど、二日だけ・・を、二日……と言ってしまうほど好きだとは……。

 花梨も嫌いではないが、快斗には敵わない。


「……、はあ……、泊まってくの?」


 目を爛々と光らせ、今にも襲い掛かって来そうな狼を前になすすべはなく……花梨は困ったように首をかしげる。


「へへっ♡ なんとオレ! 実は制服持ってきたんだー♡ 偉いっしょ?」

「……ふぅ……。優しくしてね?」


 ……すでに押し倒されている状態から覆すのは難しい。
 屈託ない笑顔で、明日はここから学校に行くと言う快斗に花梨は脱力した。


「もっちろん♡ 優しく愛しますとも♡」


 快斗の顔が下りてきて唇が重なる。

 回数を経る毎に快斗は上達して、どこをどう触れば花梨が声を上げるかわかるらしい。
 今日はもう数回戦目。
 だからか、余裕のある快斗は少々ねちっこい。

 ……花梨の艶声は朝方まで続いた。









 次の日――。
 花梨と快斗は青子と約束した通り、花梨、快斗、青子、恵子、白馬の五人で寄り道をして帰ることに。


「ふわぁああ……」


 人生初のゲームセンターにやって来たわけだが、睡眠不足の花梨はクレーンゲームに興じる快斗たちの後ろで大きな欠伸をした。

 ……快斗の両脇では青子と恵子がエールを送っている。
 というのも、花梨の手にはもう、快斗から貰った大きなクマのぬいぐるみが抱えられていた。
 手先が器用な彼はクレーンゲームも得意らしい。二人にぬいぐるみを強請ねだられ、応えるべく奮闘中というわけだ。


「フフ、眠くなってしまいましたか、花梨さん。見ているだけじゃつまらないですよね」

「そんなことはないんだけどね」


 ――昨日寝不足だっただけで、つまらないわけじゃないの。


 隣に立つ白馬がにこにこと声を掛けてくるため、花梨は首を横に振って笑顔を見せる。

 先日、白馬が探偵だと知ってから、以前ほど彼を怖いとは思わなくなった花梨。
 話してみると彼の言葉遣いは丁寧で紳士的、そして少々細かいが、とても親切だ。

 先ほど花梨もクレーンゲームをやってみたが、上手く取れず……次から次へとコインを注ぎ込んでいたら、それを見て呆れたのか白馬がやってきて、「この台はアームが緩いので少しずつずらして取るんですよ」と目の前でやってみせてくれた。

 「あと三回で取れますから」などと言う白馬のアーム捌きをじっと見ていると、その言葉通り三回で景品が見事にプライズ落とし口へと吸い込まれる。

 落ちた景品を「どうぞ、花梨さん♡」と笑顔で渡そうとしてくれたのだが、ちょうど青子の欲しいものだったようで、「白馬君ありがとう! 青子これずっと欲しかったやつなんだ!」と掻っ攫っていった。
 元々もし取れたら青子にあげたいと思っていた花梨は、「青子ちゃん、よかったね♡」と喜ぶ。

 白馬はあっという間に奪われた景品に、手を宙に浮かせたまま固まっていたが、しばらくして「はは、いいんですよ……花梨さん、すみません……」なんて遠い目をしていた。

 こういうゲームは男性の方が上手なのだろうか……。他の台に貼り付いてプレイする青子も恵子も苦戦している様子。

 ……快斗はといえば、「この店で一番大きいというクマのぬいぐるみを取る!」と宣言。一人で“挑戦者求む!”と貼られた難易度高めの台に行ってしまった。

 五分もしないうちに、クマのぬいぐるみを抱えて戻って来た快斗だったが、花梨と白馬が楽しげに話しているのを目の当たりにして激昂。
 割って入ろうとしたところへ、青子と恵子がさらに割って入り、快斗はそのまま二人に連れて行かれた。

 クレーンゲームは向いていないのかなと悟った花梨は、それ以上プレイすることはなく、快斗たちの後ろで見守ることに。

 ……それからの欠伸であった。


「では、ボクも何かお取りしましょうか?」

「ううん、私はこのクマちゃんだけで充分だよ♪ 可愛いっ♡」

「クマちゃん……、っ、コホンッ(可愛いと言う貴女の方が可愛いですよ……♡)」

「気持ちだけもらっとくね。ありがと、白馬くん」

「いえっ♡」


 クマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、笑顔を見せる花梨。その破壊的な可愛さに、白馬は呆然と立ち尽くし、頬をかすかに染めてうっとりと見惚れてしまっている。


「……ふあ……(クソッ、聞こえてんぞ。白馬のヤロー……オレの花梨とイチャつきやがって……!)」


 青子と恵子にさっさと景品を取ってやり、花梨にレクチャーしてやりたい快斗は欠伸を噛み殺しながらアームを操作していった。


「……」

「あっ! 快斗君そう、それ! すっごーい! 快斗君やるぅっ!!」


 快斗のアーム捌きを見学する青子と恵子だったが、青子はつまらなそうな快斗の様子を黙って見守り、恵子は自身の頼んだ景品がプライズ落とし口に落ちたことに大興奮している。


「ほらよ、恵子。次は青子のなー」

「快斗君、ありがと~! あと二つお願いね!」

「マジか」


 恵子に景品を渡すとあと二つ要求され、快斗は苦笑。
 とりあえず青子のも先に取ってやるかと隣の台へとコインを投入した。


「「ふわあああ……」」


 ふと、距離が離れているというのに、花梨と快斗の欠伸が重なる。


「プッ。二人ともあくびのタイミングが一緒って、夜遅くまで電話でもしてたのー?」

「「…………!」」


 何の気なしに恵子から出た言葉だったが、花梨も快斗も一時停止してから互いに目を合わせると顔を真っ赤に染めた。


「ん? どうかした?」

「……、そ、そーだぜ。遅くまで電話しててさ。なっ、花梨?」

「う、うん……」


 快斗が昨日、花梨の家に泊まっていることなど、互い以外は知らない。

 何も知らない恵子の視線が痛い。
 青子も目をぱちぱち瞬かせて何のこっちゃという顔で。

 ……白馬だけは何かピンときたのか、快斗を睨んでいた。

 その後、青子と恵子の望んだ景品をしこたま手に入れて解放された快斗は、ようやく花梨にクレーンゲームをレクチャーできるようになった――。


「ここで……こう」

「……っ、耳に息吹きかけないでよ~……」

「へへっ♡ 手取り足取りってな♡」


 快斗のレクチャーは距離が近かった。

 白馬のようにやってみせるのではなく、背後から花梨の手の上に快斗、自らの手を添え一緒にやってみる……というもの。
 あまりに距離が近いため、青子たちは顔を真っ赤にして「お邪魔虫は向こうに行くね!」と、この場に残りたそうな白馬を連れ離れて行った。



115/116ページ
スキ