夕陽には背を向けて
「ねぇ、かず。ここから逃げようよ」
「何言ってんの、あんた」
「だってかずはやってないんでしょ。このままじゃ盗んだことになるよ。これから何かなくなる度に、あいつなんじゃないかって言われるよ。そういう子、何人もいたでしょ。俺はそんなの許せないから、だから逃げようよ」
「逃げてどうすんの」
「分からないけど、でもきっとここよりいい所があるよ」
人がまばらになった隙をついて、まさきが寄ってきた。ひそめた声でとんでもないことを告げてくる。無気力なかずの目を黒目がちの目がじっとのぞき込む。
まるで魔法をかけるように。
(ほんとかよ)
親に捨てられた自分達がここよりいい所に行けるなんて、そんなことがあるんだろうか。
自分達はきっと、ここが身分相応の場所だから、だからここにいるんじゃないんだろうか。
「行こう」
いつまで経っても大きくならない手を、彼の手が掴む。痛いぐらいに掴んだその指が震えているように感じる。しかし、軽口を叩ける余裕はさすがになかった。
***
薄い服が冷たい風に吹かれ、肌に痛みが走る。郊外の施設を抜け出してどれだけ走り続けたのか、夕陽はとうに暮れ、あたりは真っ暗になっていた。見たこともない大きな道路のある所まで出てきて、二人とも大きく息をつく。
今頃施設は大変な騒ぎになっているだろう。逃げ出した子の末路は幾度となく見てきただけに、今更ながら後ろを振り返ってみるが、飲み込まれそうな暗闇が広がっているだけで他には何も見えなかった。
まさか子供がこんな所に立っているなんて誰も思わないのだろう。暗い道を眩しいライトが飛ぶような速さで行き交っていく。
(連れ戻されるぐらいならいっそ、飛び込む……?)
縁起でもないことをかずが頭に浮かべた時、まさきが振り返って笑った。
「だいぶ離れたんじゃない。これでこの道を歩いていけば、大きな街に出るよ」
「…街に出てどうすんの」
「分からないけど、でもきっと……」
「あの場所よりいい所があるよって?」
「そう」
「その自信、どっからくんの。ほんとに」
「だってあのままじゃかずは」
「それは分かったから」
道路の端で二人揉めていると、やたらと眩しい光がゆっくり近づいてきた。明らかに今までと違う感じに、二人して光の方を見る。