Unknown


ぐるぐるする頭を抱えたまま、商店街を歩く男の背中を追った。闇色に塗り潰されていく世界で、街灯の白さが目につく。
賑わう通りを抜けると一気に静かになったが、今度は春らしく猫の甘えた鳴き声があちこちから聞こえてくる。それを聞きながら更に歩き、そして男は足を止めた。


「ここ」


目の前には優しい灯りのともった喫茶店…のように見える店。外観は完全に喫茶店だが、ドアにかかっている看板には全く違うことが書かれている。


「なんでもやさん」
「そう。なんでもやさん」


照らされた文字を読んだじゅんに頷きかけ、男はドアを開けた。古いドア特有の悲鳴のような音にカウベルの音が混じる。


「ただいまー」
「お邪魔します……」


一歩足を踏み入れたそこは、完全に喫茶店だった。
緩やかな音楽が流れる店内に漂う、コーヒーの香り。間接照明が降り注ぐ、カウンターとボックス席が3つ。
ただ、カウンター向こうの棚にはカップではない機材が並んでいるし、見間違いでなかったら店奥に巨大なコピー機が見える。そしている人間の服装がバラバラすぎる。


「おかえりなさい」


男に挨拶を返したのは、ボックス席に座っていたスーツ姿の男だった。年齢はじゅんとそう変わらないだろう。突然入ってきたにも関わらず、じゅんに対してもにこやかな笑みを浮かべている。完全な営業スマイルだ。


「おつかれー」
「おつかれさま。飲んできたの?」
「いいなー」
「あんた今から仕事でしょ」
「あれ?後ろの人、誰?お客さん?」


それに次いでわいわいと話しかけてきたのは、カウンターを挟んで向かい合わせに座っている男2人。1人はどう贔屓目に見ても部屋着にしか見えないグレーのスウェットに、この時間なのに寝癖がついたままの髪。もう1人はスツールから伸びた長い脚を細身のデニムでつつみ、アウターを羽織っている。やはりどちらも年齢は変わらなさそう。
最後の言葉に男は頷き、じゅんを見上げた。
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