彼の魔法


初めて会った彼は自分とは正反対で、だからこそ妙に惹かれたのかもしれない。


「リーダー、ごめーん。チロちゃん探してる途中でこの人にコーヒーかけちゃってー」
「意味不明ですよ、それじゃ」


2人に連れられるまま公園を抜けた先、雑居ビルが現れた。1階部分の喫茶店のドアには『なんでもやさん ドリームアライブ』の文字がある。
スウェット男に招かれるまま入った先、そこはやはり喫茶店ではなく、所謂居抜き物件の事務所のようだった。
内装は完璧に喫茶店だが、内容が伴っていない。棚にはファイルが詰め込まれ、奥には業務用のコピー機が腰を据えている。カウンターの端にはサイフォンの代わりによく分からない機械が積まれており、その向こうで男が何やら作業をしていた。
ドアベルの音に反応した彼が顔を上げ、賑やかに帰ってきた2人としょうを緩い笑顔で出迎える。


「いらっしゃいませ」
「客じゃないですって」
「あぁそうか。何、コーヒー?」
「チロちゃんが逃げた先にこの人がいたの。で、チロちゃんを捕まえてくれたんだけど、その時にコーヒーがかかって……」
「この方の持っていたコーヒー缶が倒れてかかってしまったんです。確かしみ抜きできましたよね」
「できるよ。えーっとでも着替えだよね。先に」
「俺の貸してあげる!待ってて!」


ペットケージを大事そうに下した男が手を挙げ、脱兎のごとく事務所から出て行った。スウェット男がその後姿を見送ってため息をつき、


「すみません。いつもあんな感じで」
「あ、いえ」
「よかったらその辺りに座ってください」
「はい」


言われたものの落ち着かなくて、遠慮がちにドア付近に立ってしまう。しかしそれ以上、何を言われることもなく、2人はしょうを好きにさせてくれた。


「ごめん!お待たせ!」
「もっとマシな柄持ってないんですか」
「かずに言われたくないよ。いっつもグレーばっかなのに」
「黒も持ってますよ」
「はいどうぞ。あっちにトイレあるから」
「ありがとうございます」


言い合いを始めた2人をよそに、男が服を渡してまた緩く笑う。すらりとした指と形のいい掌。綺麗な手の持ち主だと思った。
乾いた風貌と俗っぽくない雰囲気。歳は同じくらいなのか、それとも上なのか下なのか、全く見当もつかない。
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