タナトス


しょうは大手企業の跡取り息子として生まれ、何不自由なく育てられた。
有名大学卒業後は鳴り物入りで関連企業に入社し、教育係的な部下も付けられた。そしてゆくゆくは父の会社に戻り、次期社長として更に会社を発展させていく予定だった。
まさか、信頼していたその教育係に足元を掬われるなんて思ってもみなかった。


事の発端は得意先との初接待に臨んだ時だった。大口の取引先なので決して失礼のないようにと言われるままセッティングし、当日を迎えた。
1次会の高級料亭は先方に非常に喜ばれ、しょうは安堵した。2次会は場所と雰囲気を変えようと高級ホテルのパンケットルームを貸し切り、先方が顧客の高級クラブのホステスを呼んで華やかな席にする…はずだった。
しかし案内された先は高級ホテル最上階のロイヤルスイートで、待っていたのは先方の男性社長1人だけ。


「え?」
「やぁ、待っていたよ」
「も、申し訳ありません。場所を間違えて……」
「いや、合ってるよ」


にこりと微笑まれたはずなのに、背筋に悪寒が走った。訳が分からず瞬きを繰り返す彼に男は1歩近づき、


「君の部下は実に優秀だね。私がほんの少し呟いただけで全てをキャンセルしてこの部屋を取ってくれた。実に優秀だ。うちに欲しいぐらいだよ」
「……仰っている、意味が……」
「君ほどの美貌の持ち主がご謙遜を。まぁいい。先にシャワーをどうぞ。私はもう少し飲ませてもらおう」
「シャワー?」
「おや。そういう趣向で行くのかな。別に私はそれでも構わないが。逆にそそられるね」


そういうが早いか、男は距離を一気に詰めてきた。本能で逃げようとしたが男の方が早く、手首を乱暴に掴まれ、ベッドまで引きずって行かれる。


「やめっ」
「美しくて頭のいいお坊ちゃん。ここで君が拒むとどうなるかはもちろんお分かりだろう」
「なっ、やめてください。他に何か」
「結構」
「誰、誰かっ」
「抵抗されるのも非常に燃えるね」


しょうの父親ぐらいの年だと聞いているのに、力の強さに圧倒される。慣れた手つきがシャツのボタンを外し、素肌を熱い掌が這うのに鳥肌が立った。
首筋に濡れた感覚があり、嫌悪感で吐きそうになる。押し付けられる相手の体の熱さに、一刻も早く逃げ出そうともがき続けるが、全く歯が立たない。
なので、彼はついに最終手段に出た。


「ぐっ」
「すっ、すみません。すみません。失礼しますっ」


同じ男として痛みは文字通り痛いほど分かる。しかし、だからこそこの手を使わざるを得なかった。股間を抑えてベッドから崩れ落ちる男の隙を突き、しょうは乱された衣類をかき集め、必死で部屋から出た。後の事など考えられる状態ではなかった。
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