取引
ふとあの時のことを思い出す。あの時も大きな仕事を終えた帰り道だった。普段なら寝てしまうのに、眠くなくて窓の外を眺めていた。
まさか国道の端に人間がいるなんて思わないだろう。車に無視され続ける、飛ばされてしまいそうな細い体と無意識に繋がれた手。思わず車を止めて近寄った自分へ向けられる、タイプの違う視線。
片方はこちらへ興味を向け、そして片方はこちらから相手を守ろうと敵意を向けていた。
「チェイサーはどうされますか?」
「ちぇ……?」
見かねたマスターが近寄って話しかけるもやはり疎いようで、彼はきょとんとした顔を見せた。急に幼くなる表情を魅力的に感じながら、興味に突き動かされるまま席を立つ。
「来てたんだ。言ってよー」
突然現れた知らない男に彼がどういう反応をするのか、そしてこの後自分達はどうなるのか。彼がなぜこの店に来たのか。
全ては自分の取引次第。そう思うと何だか楽しくて、自然と笑みが零れた。
【END】