呪術短編
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「影の中ってどんな感じなんだろうね」
幾度かしたことのある問いに、恵くんは呆れるでもうざったがるでもなく、いつも通りに「知らないですね」と答えた。影から式神を呼び出したり、物を出し入れしたり。便利に使われるその影は、恵くんの術式。元を正せば恵くんそのものとも言える。だから、影の中がどんな感じなのか、気になる。
目の前には、つんと澄ましたわんこ。アニマルセラピーがしたい、そう恵くんにお願いして出してもらった玉犬だ。普通の犬とは違うその毛並みは、触れた瞬間はすこしひんやりしているのに、しっとりと吸い付くように手に馴染んで温かい。わしわし、大人しく撫でられている玉犬は、術式の残滓か光の加減か。毛並みも瞳もどこか煌めいて見えた。遠くて優しい星空のようだった。
「ねぇ、どんな感じ?」
「式神相手に何聞いてんすか」
とうとう玉犬に聞き始めた私に、恵くんはため息をひとつ。呆れられただろうか。そう思って顔を上げると、大きな手が私の頭を両側から掴む、かき混ぜる。うわっと可愛くない声を出した。これは、あれだ。私が玉犬を撫でたのと、同じ撫で方。
「知らなくていいんですよ影の中なんて」
さっきより小さく早口で紡がれた言葉。両の手で挟まれたままの頭は、耳を塞がれたようになって聞こえづらい。それでも、今の言葉も、続いた言葉も、聞こえた。
「入れたら、もう出せねえと思うんで」
出さない、じゃなくて出せないと言ったところに恵くんの本心を感じる。本人もわかってて言ったのだろう、耳が赤く色づいていた。
「いいけどね。出れなくたって」
私も本心で返す。恵くんの術式で、恵くんの影の中。十分にハッピーエンドだ。にんまり笑う私に、恵くんは眉間に皺を寄せ、少し難しい顔で。
「…………いっ、だだだだだ!!」
私の頭を捉えたままの手に、ギリギリと力を込めてきたのだった。