呪術短編
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俺はナオが好きだ。
いつから好きだったのかよくわからないけれど、気づいた時には好きだった。同級生であり同僚とも呼べる彼女は、呪術師の家に産まれて呪術師として育ってより強い呪術師となる為にこの学校にいる。たぶん。たぶんって言うのは、俺はあのこじゃないから本当のことはわからないし聞いたことがある訳でもないからだ。でも、呪術を磨くこと以外なんにも興味ありませーん!みたいにド真面目クソ真面目に授業や実習をこなすナオとその出身の中流術師の家系を思えばきっと間違ってないと思う。
真面目なのは悪いことじゃないって俺だって思う。けど、俺たちはまだ学生だし。友達とバカ騒ぎしたりとか、青春したいじゃん。だから俺は、クラスの真面目ちゃんにちょっかい出した。この時は別に、好きとかそういうんじゃなかった。はず。
「すじこ。ツナツナツナマヨー!」
呪術師の仕事が来て少し離れていた学校に、戻ってきて一番最初に会ったのが彼女だった。ちょうど学校から寮に帰ろうとしていたのか、移動しているところだったナオは俺の声に反応して振り返る。長く伸ばした髪がその動きに合わせてふわりと揺れるのが、短い俺の髪と違って、なんかいいなと思った。
「狗巻くん。仕事終わったの?お疲れ様」
「おーかーかー」
ナオは同級生で唯一苗字で呼ぶ。俺はそれがなんとなく気に食わなくて抗議の声を上げた。いや別に、苗字だって名前だって構わないはずなんだけど、思えばこの時からもう彼女の事が気になってたのかもしれない。とにかく名前で呼んで欲しいと思ってた。
「今日は授業終わったよ。私は寮に戻るところ」
「……しゃけ、たらこ」
俺の抗議の声は届かず。語彙を縛っているからまあ仕方ないんだけど、それでも付き合いが長くなってきたパンダや真希、あと先生達は俺の言葉で言いたいことを分かってくれるから、ナオがあまり分かってくれないのが面白くない。彼女にも俺の言いたいことを分かってほしい。
「狗巻くんは寮に戻るの?それとも一度学校に行くの?」
「しゃけ。すじこいくら」
「んん?どっちだろう……?」
俺も寮に戻る、一緒に行こう。そう伝えたいのに伝わらない。もどかしい。でも彼女も分からないなりに理解しようと、こてんと首を傾げつつ寮と学校を交互に指さして俺に確認してくる。その傾いた頭からさらりと流れた髪が綺麗で、触りたいなと思った。無意識のうちに手が伸びかけたけれど、はっとしてその手を止める。いやいやいや!急に女の子の髪の毛触るとか許されないだろ!あぶな、止まって良かった。
伸ばしかけて宙に浮いた手を、ナオは不思議そうに見てから俺の目を見る。ああ髪の毛の色は黒いけど瞳は結構明るい茶色なんだなとか、考えてる場合じゃない。ほんとそんな場合じゃないぞ俺。宙に浮いた不審な手をどうしようか考えあぐねて、結局そのまま彼女に伸ばして。髪の毛じゃなく袖の端っこを掴んで、寮の方へくいくいと引っ張った。
「あ、寮に戻るんだね。じゃあ一緒に行こっか」
「しゃけ!」
俺の言わんとする事が通じたのが嬉しくて、掴んだ袖をそのまま引っ張って歩き出した。他の誰かに言ってることが通じてもこんなに嬉しいと思ったことなんてない。他の誰でもなくこの子に通じたことが嬉しかったんだと、後になってから気がついた。ああやっぱり、俺はこの時にはもう彼女が好きだった。
◆◇
「…………しゃけ、ツナマヨぉ」
っていうことがあったんだよ、とボソボソ呟いて、立てた襟に元から埋まってた顔を更に引っ込める。もう目元しか見えてないだろうけど、その目元だって隠してしまいたいくらいだ。顔が熱い。恥ずかしい。仲の良い同級生とはいえ、いや、だからこそ恋愛の話なんて恥ずかしすぎる。
「はぁーん、なるほどな」
「棘がアイツをねぇ」
放課後の教室、珍しく暇を持て余した俺たちは特に目的もなく駄弁っていたんだけれど、話はいつの間にか同級生のあの子の話、引いては俺の気持ちの話になってしまった。パンダも真希もちょっと口元が笑ったりしてはいるけれど、からかってきたりはしなかったからまぁ良かった。もしからかわれたりしたら呪言使ってたかもしれない。吹っ飛べ。
「しっかしなぁ、なんでアイツは棘の事は名前で呼ばねーんだ?」
「逆に真希はなんで名前で呼ばれてるんだ?俺はパンダでしかないからパンダだけどよ」
そう、パンダはまだいい。真希の事は名前で呼んでるんだから俺の事も名前で呼んでくれればいいのに。あれか?女の子同士だからとか?めちゃくちゃ失礼だけど女の子同士って言葉びっくりするほど似合わないな。言ったら殺されるから言わないけど。真希もパンダもおにぎりの具で喋っても完全に理解するからなぁ。
「私は苗字で呼ばれる度に釘刺しといただけだ」
「真希は苗字で呼ばれるの嫌いだもんなー」
「こんぶ」
真希の事だから脅したんだろ。じとりと見ると向こうもなんだよと睨み返してくる。睨み合い。なんだこれ。不毛だから辞めよう。
「棘も真希みたいに名前で呼んでもらえるまで文句言ってみたらどうだ?」
「おかか」
「それか駄々こねてみろよ。意外といけるんじゃねーか?」
「おかか!高菜!たらこ明太子!」
だから、好きな子の前でそんなみっともないこと出来るわけねーだろ!と勢いよく大声を出したところでパンダと真希がニヤニヤしてることに気がついた。なんだよ、今更からかってるのか?ちょっとむっとしたところで自分たち三人以外の気配に気がつく。教室の入口に、誰かいる。
「……だってよー!聞いたか?」
「っ!?!?」
二人がくるりと振り返った先、俺も釣られて視線を移すとそこには思った通りの人物。たった今話題にのぼっていたナオがいた。
「みんなまだ居たんだね。何の話?」
ああ、ナオが俺の言葉を分からなくて良かった、ような。ちょっと残念なような。疑問形に上がった語尾と一緒に傾いた頭が、耳にかけていたらしい髪を滑らせてさらりと揺れる。相変わらず綺麗で動きを目で追ってしまった。やっぱりかなり好きじゃん俺。
「棘がお前に名前で呼ばれたいんだってよ」
「えっ」
「減るもんじゃないし呼んでやれよ」
「うん、いいけど」
「しゃけ!?」
あっさりと頷かれたことにびっくりして大声を出したら、彼女は俺の声にびっくりしたみたいで目を丸くする。けれど次の瞬間には口を開けて笑って……え?なにその顔??初めて見たんだけどめっちゃ可愛いんだけどまじか。
「えーと……棘、くん……?」
ぐ、と喉の奥になにかがつかえたように、声も空気も一時渋滞、出てこない。ぶわっと暑くなって耳が熱い。嬉しい。
「くんなんて付けなくていいだろ。呼び捨ての方が喜ぶんじゃねぇか?」
「俺たちも棘を呼び捨てだしそうしてやれよ」
何も言えない俺の代わりになのか、ただ面白がっているのか。わからないけど真希とパンダが次々に声をかけて、ナオも戸惑いながら口を開いた。
「じゃあ、棘……慣れるまでちょっと恥ずかしいね」
「しゃけしゃけ!」
慣れてくれ。是非とも。初めて彼女の声で呼ばれた名前は予想をはるかに超えて嬉しくて、嬉しすぎて思わず好きだと零しそうになる。あぶない。俺の口から出たとしてそれはきっとおにぎりの具になるのだろうけれど、言ったところでナオには意味がわからないのかもしれないけれど。
今はまだ、好きを乗せた言葉を伝えるには早いと思う。それにどうせ伝えるなら、おにぎりの具じゃなくて、呪力をきちんとコントロールして抑えた自分の言葉で伝えたいから。いつかきちんと伝えるその日まで、俺はこの言葉を口にしない。
いつから好きだったのかよくわからないけれど、気づいた時には好きだった。同級生であり同僚とも呼べる彼女は、呪術師の家に産まれて呪術師として育ってより強い呪術師となる為にこの学校にいる。たぶん。たぶんって言うのは、俺はあのこじゃないから本当のことはわからないし聞いたことがある訳でもないからだ。でも、呪術を磨くこと以外なんにも興味ありませーん!みたいにド真面目クソ真面目に授業や実習をこなすナオとその出身の中流術師の家系を思えばきっと間違ってないと思う。
真面目なのは悪いことじゃないって俺だって思う。けど、俺たちはまだ学生だし。友達とバカ騒ぎしたりとか、青春したいじゃん。だから俺は、クラスの真面目ちゃんにちょっかい出した。この時は別に、好きとかそういうんじゃなかった。はず。
「すじこ。ツナツナツナマヨー!」
呪術師の仕事が来て少し離れていた学校に、戻ってきて一番最初に会ったのが彼女だった。ちょうど学校から寮に帰ろうとしていたのか、移動しているところだったナオは俺の声に反応して振り返る。長く伸ばした髪がその動きに合わせてふわりと揺れるのが、短い俺の髪と違って、なんかいいなと思った。
「狗巻くん。仕事終わったの?お疲れ様」
「おーかーかー」
ナオは同級生で唯一苗字で呼ぶ。俺はそれがなんとなく気に食わなくて抗議の声を上げた。いや別に、苗字だって名前だって構わないはずなんだけど、思えばこの時からもう彼女の事が気になってたのかもしれない。とにかく名前で呼んで欲しいと思ってた。
「今日は授業終わったよ。私は寮に戻るところ」
「……しゃけ、たらこ」
俺の抗議の声は届かず。語彙を縛っているからまあ仕方ないんだけど、それでも付き合いが長くなってきたパンダや真希、あと先生達は俺の言葉で言いたいことを分かってくれるから、ナオがあまり分かってくれないのが面白くない。彼女にも俺の言いたいことを分かってほしい。
「狗巻くんは寮に戻るの?それとも一度学校に行くの?」
「しゃけ。すじこいくら」
「んん?どっちだろう……?」
俺も寮に戻る、一緒に行こう。そう伝えたいのに伝わらない。もどかしい。でも彼女も分からないなりに理解しようと、こてんと首を傾げつつ寮と学校を交互に指さして俺に確認してくる。その傾いた頭からさらりと流れた髪が綺麗で、触りたいなと思った。無意識のうちに手が伸びかけたけれど、はっとしてその手を止める。いやいやいや!急に女の子の髪の毛触るとか許されないだろ!あぶな、止まって良かった。
伸ばしかけて宙に浮いた手を、ナオは不思議そうに見てから俺の目を見る。ああ髪の毛の色は黒いけど瞳は結構明るい茶色なんだなとか、考えてる場合じゃない。ほんとそんな場合じゃないぞ俺。宙に浮いた不審な手をどうしようか考えあぐねて、結局そのまま彼女に伸ばして。髪の毛じゃなく袖の端っこを掴んで、寮の方へくいくいと引っ張った。
「あ、寮に戻るんだね。じゃあ一緒に行こっか」
「しゃけ!」
俺の言わんとする事が通じたのが嬉しくて、掴んだ袖をそのまま引っ張って歩き出した。他の誰かに言ってることが通じてもこんなに嬉しいと思ったことなんてない。他の誰でもなくこの子に通じたことが嬉しかったんだと、後になってから気がついた。ああやっぱり、俺はこの時にはもう彼女が好きだった。
◆◇
「…………しゃけ、ツナマヨぉ」
っていうことがあったんだよ、とボソボソ呟いて、立てた襟に元から埋まってた顔を更に引っ込める。もう目元しか見えてないだろうけど、その目元だって隠してしまいたいくらいだ。顔が熱い。恥ずかしい。仲の良い同級生とはいえ、いや、だからこそ恋愛の話なんて恥ずかしすぎる。
「はぁーん、なるほどな」
「棘がアイツをねぇ」
放課後の教室、珍しく暇を持て余した俺たちは特に目的もなく駄弁っていたんだけれど、話はいつの間にか同級生のあの子の話、引いては俺の気持ちの話になってしまった。パンダも真希もちょっと口元が笑ったりしてはいるけれど、からかってきたりはしなかったからまぁ良かった。もしからかわれたりしたら呪言使ってたかもしれない。吹っ飛べ。
「しっかしなぁ、なんでアイツは棘の事は名前で呼ばねーんだ?」
「逆に真希はなんで名前で呼ばれてるんだ?俺はパンダでしかないからパンダだけどよ」
そう、パンダはまだいい。真希の事は名前で呼んでるんだから俺の事も名前で呼んでくれればいいのに。あれか?女の子同士だからとか?めちゃくちゃ失礼だけど女の子同士って言葉びっくりするほど似合わないな。言ったら殺されるから言わないけど。真希もパンダもおにぎりの具で喋っても完全に理解するからなぁ。
「私は苗字で呼ばれる度に釘刺しといただけだ」
「真希は苗字で呼ばれるの嫌いだもんなー」
「こんぶ」
真希の事だから脅したんだろ。じとりと見ると向こうもなんだよと睨み返してくる。睨み合い。なんだこれ。不毛だから辞めよう。
「棘も真希みたいに名前で呼んでもらえるまで文句言ってみたらどうだ?」
「おかか」
「それか駄々こねてみろよ。意外といけるんじゃねーか?」
「おかか!高菜!たらこ明太子!」
だから、好きな子の前でそんなみっともないこと出来るわけねーだろ!と勢いよく大声を出したところでパンダと真希がニヤニヤしてることに気がついた。なんだよ、今更からかってるのか?ちょっとむっとしたところで自分たち三人以外の気配に気がつく。教室の入口に、誰かいる。
「……だってよー!聞いたか?」
「っ!?!?」
二人がくるりと振り返った先、俺も釣られて視線を移すとそこには思った通りの人物。たった今話題にのぼっていたナオがいた。
「みんなまだ居たんだね。何の話?」
ああ、ナオが俺の言葉を分からなくて良かった、ような。ちょっと残念なような。疑問形に上がった語尾と一緒に傾いた頭が、耳にかけていたらしい髪を滑らせてさらりと揺れる。相変わらず綺麗で動きを目で追ってしまった。やっぱりかなり好きじゃん俺。
「棘がお前に名前で呼ばれたいんだってよ」
「えっ」
「減るもんじゃないし呼んでやれよ」
「うん、いいけど」
「しゃけ!?」
あっさりと頷かれたことにびっくりして大声を出したら、彼女は俺の声にびっくりしたみたいで目を丸くする。けれど次の瞬間には口を開けて笑って……え?なにその顔??初めて見たんだけどめっちゃ可愛いんだけどまじか。
「えーと……棘、くん……?」
ぐ、と喉の奥になにかがつかえたように、声も空気も一時渋滞、出てこない。ぶわっと暑くなって耳が熱い。嬉しい。
「くんなんて付けなくていいだろ。呼び捨ての方が喜ぶんじゃねぇか?」
「俺たちも棘を呼び捨てだしそうしてやれよ」
何も言えない俺の代わりになのか、ただ面白がっているのか。わからないけど真希とパンダが次々に声をかけて、ナオも戸惑いながら口を開いた。
「じゃあ、棘……慣れるまでちょっと恥ずかしいね」
「しゃけしゃけ!」
慣れてくれ。是非とも。初めて彼女の声で呼ばれた名前は予想をはるかに超えて嬉しくて、嬉しすぎて思わず好きだと零しそうになる。あぶない。俺の口から出たとしてそれはきっとおにぎりの具になるのだろうけれど、言ったところでナオには意味がわからないのかもしれないけれど。
今はまだ、好きを乗せた言葉を伝えるには早いと思う。それにどうせ伝えるなら、おにぎりの具じゃなくて、呪力をきちんとコントロールして抑えた自分の言葉で伝えたいから。いつかきちんと伝えるその日まで、俺はこの言葉を口にしない。