鬼滅短編
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今までだって大好きだったし、これからだって大好きだと思うけど、今までとは変わってしまった。全然、まったく、決定的に。前から何度も予兆はあった。撃ち抜かれたように胸が跳ねて、どきどきして、好きだなぁって思った。でもそんなもんじゃない。これはとどめの一撃だ。これからのきみに対する俺の感情はこの衝撃は心臓を鷲掴みにする暴力的なまでの「これ」は、本当にほんとうの「恋」だ。
自覚しちゃったらもう心臓はバクバク忙しくて血が全身を駆け巡って顔は熱いし頭は爆発しそうだし、なのにきみから目が離せなくてその頬にかかる髪は触れたら柔らかいのかなどんなにおいがするんだろうとか少し伏せられたまつげがつくる影が綺麗だとかすうっと伸びる鼻先に触れてみたい、あわよくばその下にある唇、改めて見るとゆるうりと弧を描いて柔らかそうで触れて確かめたいなとか、ドカドカ鳴り響く俺の心臓の音がやっちまえと急かしているのに手はぶるぶる震えて指先1本分すら伸ばすことができないし、そんな挙動不審な俺を見て瞬いた瞼の軽やかなぱちりという音、きゅうと口角を上げて笑う彼女の、動いたことできりきりと絞られる筋肉や僅かに軋む関節の音とか口から零れた吐息が空気を震わす音とか肌をかすかに滑ったであろう衣擦れの音とか何もかも全て、彼女を構成する全てが俺の五感、特に馬鹿みたいに良すぎる耳を犯してくる。なんだ、なんだこれ。こんなに聞こえることなんて無かっただろなんでこんなに聞こえんの。って、ああいつも聞こえてる音が無いじゃん俺の呼吸音が。何無意識に息止めてんの俺死んじゃうでしょ死にたくないだろしっかりしろ俺。でも呼吸ってどうしてたっけ?吸って吐くだけなのに今まで毎日生まれた時からずっと続けてきたはずなのに修行でもさんざやってきたはずなのに呼吸の仕方がわかんねえ。意識して集中してやっとのことで吸い込んだ息はひゅうと乾いた喉を鳴らして吐き出す息は喉に引っかかりげほげほ噎せた。うるせえ俺。「大丈夫?」と耳から脳まで溶かすような彼女の声に、伸ばされた手に思わず飛び跳ねる勢いで仰け反った。驚いた顔。かわいい。じゃねえ驚かせちまったじゃんか馬鹿。でも今は彼女に触れられて正気でいられる自信が無い全く無い今まで肩を叩かれたり手を握ったりしたことあるけど当時の自分がどんな精神状態でどんな顔してどんな強さで触れてたのかもわからん。相変わらず煩い俺の心臓と今までよりもっと聞こえるようになった彼女の音、さっきからずっとまともに息はできねえし血が巡りすぎて爆発しそうだし、でも俺を見ている彼女の顔から目をそらすこともできない、というか呼吸の仕方だけじゃなく瞬きの仕方も忘れてんじゃん俺今まで昨日までついさっきまでどうやって瞬きしてた?見ているだけで胸が苦しくて痛くて死にそうなのに彼女から目が離せない。死ぬ。死んでしまう。そう思った瞬間俺の中で1番優秀な足が逃亡を選んだ。目を丸くする彼女があっという間にちいさくなり見えなくなり、そうしたら呼吸も瞬きも普通にできた。死なずにすんだ。走って走って彼女の音も聞こえないような所まで来てようやく止まってへたりこんで、呼吸を整えてから大きく息を吐いた。去り際の驚いた顔とか俺に笑いかけた顔とか、思い出すとまた胸が痛い。締め付けられる。死にそう。死んだらもう彼女に会えないけど彼女に会ったら死んでしまうかもしれない。なんだよそれ。でも実際そうなんだよ。
「……こんなの、やばすぎじゃん」
恋をして死にそうだなんて、そんなことあるかよ。
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