鬼滅短編
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どうしよう、今さら童貞だなんて言えやしない。言える状況じゃないし、言ったらここまで持ち込んだ俺の努力がぶち壊しじゃん?
俺の眼下、俺のベッドを背景に横たわるのは俺の幼馴染。いつも笑ったり怒ったりとくるくる変わる忙しい表情は、真っ赤に染まった恥じらいの顔をしている。目を逸らして胸の辺りの服をぎゅっと握って、それでも大人しく俺の下に収まってる。
なんだこれ、見たことない。幼馴染が初めて見せるその表情と反応に、頭ん中がぐるぐると混乱してる。なんで、なんでこうなったんだっけ……?
『ねー善逸見て、真夏の初体験特集だって』
『お前はなんちゅーもんを読んでんの?』
『ふつーにみんな読んでる雑誌だけど。ほら、結構私たちくらいの歳でする人多いみたいだよ』
『……ふーん』
ああそうだ。夏の暑さに負けたこいつが、クーラーを効かせてた俺の部屋に転がり込んできて。そんで持ち込んで読んでた雑誌の特集記事が、所謂男女の行為の初体験談をまとめたやつで。別に見るつもりは無かったのに、ほら!と差し出されたその雑誌は確かに女の子がよく読んでるファッション雑誌みたいだ。ちらりと見えたなかなか刺激的なその内容に、心の中ではどきどきしながらも軽くあしらう。けれど、俺の良すぎる耳が拾ってしまった小さな小さな呟き。
『……どんな感じなのかな』
そんな、ことを言われたら。
『……じゃあ、俺が教えてやるよ』
そう言って、逸る気持ちを悟られないようにゆっくりとナオに覆いかぶさった。都合のいいことに俺のベッドに寝そべっていた彼女は、声を上げる間もなく俺の下。両手をついて作った檻の中に捕らえられ、驚いた顔をしたものの逃げないし抵抗もしない。俺の手で脇に避けられた雑誌がくしゃりと音を立てて、派手に印字された『初体験』の文字を歪めた。
「ね、私、ほんと初めてだから……」
「っ、うん」
この状況に至った経緯を思い返していたら、下から声がかけられてハッとする。ナオはいつの間にか逸らしていた視線を俺に向けていて、少し潤んだその瞳は、なんというか、破壊力がすごい。
「やさしく、してね?」
そのセリフは、うん。やばい。ああダメだ、刺激が強すぎてなんて言っていいのかわからない。俺は元々こいつが可愛いと思ってたんだ、こんな反応されて、正気でいられるわけねぇだろ。
「……善逸?」
何も言わない俺を不審に思ったのか、不安に思ったのか。少し震えたナオの声が鼓膜を揺らした。安心させたくて反射的に頬へと触れた手が、嘘みたいに震えてて……かっこ悪い。
「初めてなら……好きなやつとした方が、いいんじゃねえの?」
心配しているような口ぶりで、そんな心にもないことを言った。もう限界ギリギリ、止めるなら今が最後のチャンスだ。俺はこんな状況でも、この子の望まないことはしたくない。それなのに。
「……“好きなやつ”なら、いいんでしょ?」
ナオの頬を包む俺の手に、震える柔らかな手が重なった。緊張しているからか、その指先は俺より体温が低い。とくとくと速い心音に合わせて、不安と、微かに期待の音が聞こえた。この状況であのセリフとこんな音を聞かされて、もう、我慢なんて出来ないでしょ。
けど教えてやるよなんて言ったものの俺にも経験なんてないわけで、頼れるのは脳内に残る、今までに見た本や動画しかない。思い出せ、頑張れ俺、ここまできて引けるかよ。
「俺だって、好きな子と……ナオとしたい。だから」
揺れる瞳を覗き込んで、俺の気持ちがほんの欠片でも伝わるように、ありったけの熱を込めて見つめる。絡む視線が引き合うように顔を近づけると、ゆっくりと瞼が下ろされて、長いまつ毛が扇形の影を落とした。無言の受容に歓喜が湧き上がり全身を満たす。もう、止まってやれない。絶対、今ここでお前を。
「……抱く」
低く吐息混じりに宣言をして、小さく息を飲んだ唇を塞いだ。
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