鬼滅短編
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「俺は次の任務から帰ったらきみに結婚を申し込もうと思う!待っていてくれるか?」
明るい色の瞳が爛々と輝いて、強く燃える炎のようだった。その炎に焼かれたように顔が熱くなって、胸が高鳴ったのを覚えている。
それは、それはもう申し込んでいるのと同じではないですか煉獄さん。その言葉に私がどんなに喜んでいたか、気づいてましたか煉獄さん。そんなことを言われて、任務に行く貴方を見送った私の気持ちがわかりますか煉獄さん。柱として赴く任務が危険なのを知っている私が、どんな思いで待っていたのか知っていますか煉獄さん。
貴方の訃報を聞いた私の心が、どうなるのか考えた事はありますか。
「煉獄さん……」
食事もろくに摂ることが出来ず、眠れば悪夢で目覚め、変わらない現実に涙する。彼の、煉獄杏寿郎の死から私は体調崩していた。
こんな状態の私を煉獄さんが見たら怒るだろうか、心配するだろうか。きっと、あの強く明るい太陽のような人は、こんな状況は望まないだろう。前を向かなきゃ、自分の人生を歩まなければ。けれど、どうしても駄目だった。
「……私が、死んだら。貴方に会えますか」
ああ、煉獄さんに怒られそうだなぁ。でも体を壊し精神的にも病んでしまった私は、きっともう先は長くない。もし生まれ変わったら来世では強く生きるから、だからどうか、神様。あの人にもう一度会わせてください。
そんな不毛な祈りを胸に、私はゆるゆると死の坂を降りていった。
◆◇
今日は私の通う高校の卒業式で、高校最後の日だ。中高一貫で六年通った校舎とも今日でお別れかと思うと感慨深い。今は式も終わり、最後のホームルームをする為に教室にいる。クラスメイトもみんな、卒業したというそわそわした気持ちと進路が別れる寂しさでザワついている。
寂しいといえば寂しいけれど、私の感情は高校生活でも校舎でもクラスメイトでもなく、もっと別の方を向いていた。
「みんな、卒業おめでとう!」
ざわざわしていた生徒達の声をかき消すような、明るい声が響いた。開け放たれたままだったドアから入ってきたのは、このクラスの担任。そのまま大股で進んで教壇に立つ。受け持つクラスの生徒はもちろん、全校生徒からの人気も高い、煉獄先生。
「君たちが俺の生徒で無くなるのは寂しい、だが!成長した証だと思えば嬉しいな!」
見開いているかのような大きな目をきゅうと細めて笑うのは、前世で私が想いを寄せた彼そのものだ。
私は前世の記憶を持って産まれてしまった。死ぬ間際まで悲しみに暮れていたけれど、来世では強く生きると誓ったから、まあまあ普通の女の子らしく生活を送っている。そんな様子を神様が見ていたのかどうかは知らないけれど、私は煉獄さんにもう一度会うことができた。まさか、こんなに年の差がある状態で会うことになるとは思わなかったけど。
会えたことに喜んで、年の差とお互いの立場に絶望した。教師と生徒、なんてそんな。犯罪になってしまう。そう考えたけれど、煉獄さんは私のことを見てもなんの反応も示さない。記憶が無いのなら、私も諦めよう。また会えて、彼が生きていて。元気な姿を見れただけで十分だ。
「煉獄先生も見納めかぁー」
「まあ卒業しても遊びにくるけど」
「それな!」
近くの席の友達と笑い合う。そうだ、別に二度と会えない訳じゃないんだから。あの時とは違う。そう思いながら壇上を見ると、炎のような瞳が真っ直ぐにこちらを見ていた。
どくんと胸が鳴って目が逸らせない。あれは、あの時と同じ目だ。強い視線に焼かれる。間違いなく私を見ている。
「さて、ナオ。俺は生徒ではなくなるきみに告白をしようと思う!ホームルームの後教室に残ってくれるか?」
強くはっきりと告げられた言葉に、教室中が爆発したような大騒ぎになった。煉獄先生は変わらずに私を見つめ続けている。
「これでホームルームは終わりとする!みんな、改めて卒業おめでとう!」
煉獄先生は私から目を逸らさないままそう締めくくるけれど、誰一人として教室から出ていかないし、友達は私を揺さぶりながらきゃあきゃあ騒いでいる。どうするの、この状況。教師と生徒……ではなくなったけれど、学校の中でこの騒ぎ。廊下にはクラスメイトの保護者もいる。いろいろな事が不安になって動けない私の方へ、机の合間を縫って煉獄先生が歩いてきた。
私の席の前まで来た煉獄先生に釣られて立ち上がる。騒いでいた周りも、波が引くように静かになった。
「……今度は、ちゃんと伝えられるな」
目を細めて、煉獄先生はほんの少しだけ切なそうに言った。
今度、ということは。前世の記憶が無いと思っていた煉獄先生も、本当は覚えていたのだろうか。
「きみにまた会えてどれほど喜んだことか。死ぬ間際に祈ってみるものだな」
「煉獄、せんせ」
「俺はもうきみの先生ではない」
先生と呼びかけた私の言葉を、きっぱりと遮った。
「さすがに生徒に手を出す訳にはいかんからな!」
そう言ってわははと大きな声で笑う。いや、そうだけど、そうなんだけど。
「……だからって、今この卒業の瞬間でですか……!」
「もう待ちきれなかった!」
私がやっと絞り出した声にも間髪入れずに返事をくれる。ああ、そうだった。この人は前世からそういう人だった。
「ナオ、俺はきみが好きだ。いずれ結婚を申し込むが、一先ず付き合ってもらえないだろうか」
至極真面目に告げられた告白は、ほぼプロポーズをしているようなもので、やっぱり煉獄さんだなぁと笑ってしまった。私の返事は、決まりきっている。
「……いいに決まってるじゃないですか!」
「……っそうか!!」
叩きつけるように叫ぶと、その倍くらいの声量が返ってきた。とたん周りにいたクラスメイト達がわあっと盛り上がり、口々におめでとうやらお幸せにやら、お祝いの言葉を降らせてくる。廊下の方から拍手も聞こえるから、クラスメイトの保護者たちにも知れ渡ってしまった。……まあいいや。
私はこの平和な時代の今度こそ、煉獄さんと共に過ごすことが出来る。あの時流した辛くて苦しいものとは違う、幸せすぎて溢れた涙が頬を滑り落ちていった。
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