鬼滅短編
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「おれとけっこんして!」
「いいよー!」
「ほんとに?やくそくだよ!」
「うん、ぜんくんのおよめさんになるね!」
それは、小さな頃に幼馴染としたあどけない約束だった。そんなこともあったね、と笑えるような可愛い思い出なら良かったんだけれど。残念ながらこの記憶は思い出になることはなく、日々最新情報に更新されながら私の日常になっている。
「おはよ!」
「おはよう、善逸」
「あー早くナオと結婚したい……そしたら迎えにくる手間が省ける」
「たしかに一緒に住めたら楽でいいよね」
毎朝家までどころか部屋まで迎えに来てくれるこの幼馴染は、幼い頃の約束以来ほぼ毎日、こうして結婚と言っている。昔は嬉しかったし私も結婚する!なんて返していたけど、今となってはもうよく分からなくなってきた。結婚結婚と言うけれど、善逸は一度も私に好きだとか、そういうことを言ったことがないから。もはや家族みたいな関係の善逸が言う結婚は、きっと身内で言い合う冗談みたいなものなのだろう。
「ほら行くぞ、遅刻する」
「はーい」
そう言って差し出された手だって、きっと私の足が遅いからとか、前に並んで歩いてた時に転んだからとか、そういう類のもので、ひとつ年下の私を妹のように思ってのものだろう。甘さなんて砂糖の一粒ほどもないものなんだ。だって私と善逸は、付き合ってない。
部屋から出てお母さんの作ったお弁当を受け取り、家を出る。近所の人に、今日も仲良しねえと言われながら学校へ向かった。
◆◇
放課後になり帰り支度をしていると、友達が声をかけてきた。なんでも別の学校の友達とカラオケに行くから一緒に行かないか、と。
「んー、そろそろ善逸が迎えに来るから」
「あんた前に言ってたけど、あの幼馴染の先輩と付き合ってないんでしょ?なら毎日一緒に帰らなくても良くない?」
「それもそうかぁ」
友達の言うことは一理ある。私はスマホを取り出して善逸にメッセージを送る。それをそのままカバンに放り込むと、友達と連れ立って教室を出た。幼馴染というだけで善逸の時間を私に使わせるのは悪いし、このままじゃどちらも恋人を作ることなんでできない。そろそろお互いに離れるべきなのかもなぁなんて思いながら。
カラオケに着いてみれば、別の学校のも友達というのは男の子たちで、私は人数合わせのために呼ばれたらしい。久しぶりに善逸のいないカラオケは、聞き惚れるほど上手い人がいるわけでもなく、私の好きな歌を歌ってくれる人がいるわけでもない。でもまあ、友達と遊ぶのは楽しい。
「ねえ君、歌上手いね!プロ目指せるんじゃない?」
「えー?私より断然上手い人がいるからなぁ」
これは謙遜じゃなく本当のことで、私なんかより善逸の方がかなり歌が上手い。 昔から彼に教えられてて私も随分上手くなったけれど。
時間になり部屋を出て、連絡先の交換しようよと言われてカバンからスマホを取り出す。画面をつけると、善逸からの通知が来ている。ほぼ反射的にメッセージを開くと、私が送った「友達とカラオケに行くね」という文字の後に数件メッセージが来ていた。
『誰と?』
『どこのカラオケ?』
『迎えに行く』
『外にいる』
「え、すごいね。彼氏?」
連絡先を聞いてきた男子が私のスマホを覗き込む。それがなんだか不快で、ちょっと身体を引いて画面を隠した。善逸だってよく覗き込んでくるけど、それは嫌だと思ったことは無いのに。
その男子からちょっと離れて店の出入口の方を見ると、ガラスの自動ドアの向こうに見慣れた金髪が見えた。向こうも私に気づいていたようでこちらを見ている。手を振ったらなんだか微妙な顔をしながら店内に入ってきた。ここには他校の男子も居るから紹介した方がいいんだろうか。
「えっと、彼氏じゃないんだけど……」
「どーも、妻がお世話になったようで!」
すぐに私の隣に来ると、ぐいっと肩を抱かれてぴたりと密着する。妻って、そんな身内ネタの結婚設定を今出してこなくてもいいのに。
「結婚してないけど」
「でも結婚するでしょ!?じゃあもう俺の奥さんじゃん!」
呆気にとられていると男子と、私の友人たち。それをまるっと全部無視をして、善逸は私の肩を抱いたまま店の出口へ向かう。私は慌てて友人に挨拶を投げた。ごめんね、バイバイ、また明日。
「善逸まって、歩くの早い」
「……ナオは昔から歩幅が狭いもんねぇ」
ようやく私に合わせて速度を落とした善逸は、それでも肩を抱いたまま歩く。
「どうしてカラオケの場所わかったの?」
「お前の歌なら店の外からでも聞き分けられるよ」
俺は耳がいいから、と続けられるけれど、そんなに耳が良かったんだ。すごくない?
それにしても子供じゃないんだから、友達と遊びに行ったのを迎えにこなくてもいいのに。ああでも友達の彼氏は独占欲が強くてよく迎えに来るって言ってたっけ。まあさっきの男子に連絡先を教えたくなかったから、迎えに来てくれたのは助かったかも。
「いつも迎えに来てくれてありがと、彼氏でもないのにごめんね」
そう言うと、隣を歩いていた善逸がぴたりと止まる。肩を抱かれていたから私も止まった。
「……お前さ、俺の事なんだと思ってるわけ?さっきの奴にも彼氏じゃないとか言ってたけど」
「え?……幼馴染?」
私の答えに善逸は深いため息をついて、抱いていた肩を解放したかと思えば今度は両肩を掴まれて向き合わされる。いつの間にかだいぶ身長差がついてしまった善逸が、私を見下ろしている。
「俺は、お前のこと、結婚する相手だって思ってるよ」
「…………へ?冗談じゃ、なくて?」
「まって冗談だと思ってたのぉ!?」
確かに善逸はずっと結婚したいとは言ってたけど、幼い頃から日常的に言われすぎてて本気だと思っていなかった。冗談じゃないとすれば、それは。
「……私の事、好きなの?」
「今更そこから!?幼稚園の頃から今までずっと好きですけど!!」
幼稚園の頃から、それは初めて結婚の約束をしたあの頃だ。じゃあ善逸は、最初から私のことが好きでプロポーズしてたってこと?
今更と善逸が言ったけれど、本当に今更恥ずかしくなってきて顔に熱が集まる。目を合わせている善逸も顔が赤くて、なんだか告白をされた気分だ。
「もう一度言うけど、ナオが好きだよ。俺と結婚して?」
告白、というかプロポーズに、悩むまでもなく口から出たのは昔と同じ言葉だった。
「……いいよ」
「今度こそ、約束だからな?」
「ふふ……善逸のお嫁さんになるね」
了承してからの念押しまで、いつかの光景を再現したみたいで笑ってしまった。善逸と結婚する、身内ネタでもなんでもなく、多分そう遠くはない未来に。でもその前にとりあえず。
「結婚を前提にお付き合い、しない?」
「いいよ。そしたら今度は彼氏って言ってくれるんでしょ?」
それはもう、明日早速友達に彼氏が出来たって言うんだ。この人が私の彼氏ですって、いっぱい言おう。だってすぐに旦那さんって紹介することになりそうだから。
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