鬼滅短編
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「は〜我妻今日もやばい可愛くない……?」
「毎度の事ながらナオのそれだけは一生同意しかねるわ」
「趣味悪いを通り越して目見えてないんじゃない?」
友人たちからの全否定をサラウンドで聞きながら、私は屋上から中庭を見下ろしていた。なぜならそこに我妻がいるからだ。
今は昼休み、私が友人たちを誘って屋上でお弁当を食べるのは、だいたい中庭をでお昼を食べている我妻のせいである。仲がいいらしい後輩とぎゃーぎゃー騒ぎながらご飯を食べる我妻は今日も可愛い。
私の我妻に対する「可愛い」はもう口癖のようなもので、うちで飼ってる猫に言うのと同じくらい言ってると思う。可愛い。
「いやほら、パンを横取りされて泣いてるとかほんともう赤ちゃんじゃない……?可愛すぎ……」
「ごめんほんとわからん」
「はぁ……可愛い……抱きしめて撫で回したい……」
後輩に泣きついている姿はもう母親に甘える子供みたいだ。かわいい。
もちろん男子を抱きしめたり撫で回したりなんて、付き合ってもいないただのクラスメイトにできるわけが無い。特に仲がいい訳じゃなく、席だって離れているし普段挨拶くらいしか会話もない。絶望的すぎる。いいんだ、私は妄想の中で撫で回してるから。
自分の妄想に自分で虚しくなりながら、スマホの時計を確認する。うん、そろそろ行かなきゃ。
「次の授業、なんか教材取りに来いって言われてたから先に行くねー」
「あんた日直だったもんね」
「行ってらー」
中庭を見下ろすフェンスから離れ、お弁当を片付けて校内に戻る。今日も我妻が可愛かった。午後の授業も頑張れそう。
一度教室に寄ってお弁当を置いてから、先生に支持されていた教材を取りに準備室へと向かう。教室の中に我妻はいなかったから、まだ後輩たちと中庭なのかもしれない。
「失礼しまーす、って誰もいない……」
準備室には先生の姿はなくて、代わりに台の上に積まれたプリントの束が見える。多分これが教材だろうと思って見ると、先生の文字で運んでおくようにと書かれたメモがあった。
試しによいしょと持ち上げるとさすがは紙の束、かなりの重量がある。先生今日の日直が女子って忘れてない?けれど分けて運んでまた取りに来るのも面倒くさい。そのまま腕と腹筋背筋あとなんかの筋肉に気合いを入れて全部持って準備室を出た。
「くっ……だんだん腕がきつくなってきた……!」
おんぶすると重たくなる妖怪ってなんだっけ?意識を遠くに飛ばしながら、なるべく早く教室に行こうと足を動かす。いつもはすぐに着く距離なのに、腕にかかる重さのせいで遠く感じる。
「うわ、ナオちゃんなにしてんの!?」
「んぇ?」
急にかけられた声に、振り返るとバランスを崩しそうなので視線だけ向けると、私が可愛い可愛いと言ってやまない我妻がいた。パタパタと走ってくる。可愛い。
「どしたの我妻」
「どーしたじゃないでしょ!俺が持つからかして!」
私の傍まで来ると、指先しか見えてなかった萌え袖が可愛いセーターをシャツごとまくって、私の腕から重たい紙の束をひょいと取り上げた。あんなに重かったのに、それはもう軽々と。
「え、いいよ日直は私だし」
「これ結構重いじゃん!女の子にこんなの持たせらんないでしょ」
遠慮はしてみたものの、やっぱり重かったのは事実で我妻の親切に甘えることにする。
それにしても、こんなに可愛くてもやっぱり男の子なんだなぁ。私があんなに重たいと思った教材を軽々と持ってくれちゃってるし、普段長すぎる袖に隠れている手は骨張っていて大きくて、意外に男らしい。重いものを持っているからだろうか、袖をまくられた腕は筋肉がしっかりと見える。身長も私より高いから話す時は少し見上げる。こちらを見る我妻はにこりと笑って、その笑顔がかっこいい。
「…………ん?」
「なに?どしたの?」
かっこいい……?首を傾げてこちらを見る我妻はやっぱりいつもと同じ可愛い我妻、なんだけれど。さらりと流れた金色の髪が綺麗で、私にかけられる声が柔らかくて、女子だと気遣ってくれるところが優しくて。……かっこいい。
「……なんでもない」
「そう?」
やばい、自覚してしまった。今まで散々可愛い可愛いと言ってきたけど、飼い猫と同じ感覚で言っていたけど。私、我妻のこと好きなんじゃない?本人に直接言ってなかったことは救いか。
思わず頭を抱えそうになったけれど隣に我妻がいるから耐えた。
「けど先生も酷いなぁ日直とはいえ女の子に一人でこんなの運ばせるなんて」
「そう、だね……ごめんちょっと忘れ物した、先に行っててくれる?」
「いいよー俺が運んでおくから」
「ありがと」
私はとりあえずその場から離れたくて、適当な嘘をついて駆け出した。廊下を抜けて屋上へと向かう階段を登ると、ちょうどドアが開いて友人たちが校内に戻るところだ。
「あれ?あんた日直の仕事は?」
友達が驚いた顔で聞いてくるけど、説明なんてしてられない。私が今吐き出したいのは、ひとつだ。
「どうしよう……私我妻の事好きだ……!」
言葉にすると妙に現実味を帯びて、心臓がどくどくと速い鼓動を刻む。顔が熱い。赤くなってるのかもしれない。
私の爆弾発言を聞いた友人たちは呆気にとられたような顔をして、一拍置いてから声を揃えた。
「「知ってる」」
「嘘でしょう!?」
「えっ逆に今まで自分で気づいてなかったの?」
「あんなに見てたのに?」
見てたのは、うちの猫と同じで可愛くて目が離せなくて……いや、そこがもう好きって事だったのかな。それじゃ相当前から好きなんじゃん私。
「も、もうどんな顔して教室に戻ればいいの……」
「予鈴鳴ったから行くよー」
「まって置いていかないで……」
友人たちと連れ立って教室に入るとちょうど本鈴が鳴り、先生が教室に入ってくるところだった。教材は教卓の上にちゃんと積まれている。ちらっと我妻の方を見ると目が合う。私を見ていたのだろうか。いやそうだよねせっかく手伝ってくれたのに放置していなくなったんだから。後でちゃんとお礼を言わないと。
とりあえず肩より低い位置で控えめに手を振ると、我妻も小さく振り返してくれた。とたん、心臓をぎゅん、と鷲掴みにされたような衝撃が襲う。慌てて目を逸らして自分の席に向かう。好きだって認識したら急にこれ、今後どうなるの?死ぬの?
懲りない私はまた我妻の方を見てしまって、彼がまた萌え袖に戻っていること、その手で口を覆うように押さえていること、そしてその顔が赤く染っていることを確認してしまう。なんで、そんな反応。可愛い。けれどその手で今度は髪をかき上げる。かっこいい。見なきゃいいのにどうしても視線を送ってしまい、その度に鼓動が跳ねるし顔が熱い。
自覚した恋はもう止まらなくて、胸がドキドキうるさくて。午後の授業はちっとも集中できなかった。
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