鬼滅短編
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俺は早熟というか、ませてるガキだったと思う。
幼い頃から喋るのも一緒に遊ぶのも女の子が良かった。保育園でのお昼寝の時間なんて絶対女の子の隣を陣取って、あわよくば手を繋いだりなんかしてた。幸せだった。けれどだんだん女の子は女の子同士で遊ぶようになるし、女の子にばっかり構いたがる俺のことを周りの子達は「変なの」「えっちだ」とかなんとか。子供って容赦ねえよな、遠慮がないというか忖度がないというか。子供ながらに傷ついた俺は大好きな母親に泣きついた。文字通り涙やら鼻水やら、顔から出るもの全部垂らしながら駆け寄る俺を、母さんは笑いながら抱き上げてくれた。俺の母親ながらまじで優しすぎない?それに美人。俺母さんの息子で良かった。で、抱き上げてもらいながら辛い胸の内を打ち明けた我が子に、母さんなんて言ったと思う?
「うーん、それは我妻家の遺伝みたいなものだから。諦めなさい」
だと。その時隣で聞いていたばあちゃんまで「そうねえ」なんてにこにこ言うもんだから、俺は突き放されたような気がしてわんわん泣いた。ちょっとはフォローしてくれても良くない?可愛い息子に可愛い孫だぜ?悩んでたら優しく慰めて励ましてくれるのが家族ってもんじゃない?俺は悲しい。
「でもね善照、お父さんもおじいちゃんも、母さんやおばあちゃんと会うまでは女の子が大好きな人だったのよ?」
「そうねえ。お父さん……善照のひいおじいちゃんも、そうだったみたいよ」
「ええ……なにそれひく……」
母さんとばあちゃんから明らかにされた我妻家の野郎どもの過去は、二人ともにこにこと語っているけれど結構クズなのではと幼心に思った。父親や自分の結婚した相手に対して「女好きだった」なんて、にこやかに語る話でもないでしょ。年端もいかない幼気な俺に何を聞かせてくれてんの。けれど、二人とも笑顔のまま、幸せそうに言うのだ。
「善照のひいおじいちゃんはね、ひいおばあちゃんに会ってからはもう一筋だったのよ」
「おじいちゃんだっておばあちゃんのことが大好きなの、見てればわかるでしょ?」
それは、確かに。じいちゃんとばあちゃんは、暇さえあれば一緒に出かけてたけどその時は手を繋いでたり腕を組んでたり、仲良さそうだった。父さんと母さんだって、俺や姉ちゃんが居ようとお構い無しにちゅーしたり抱き合ったりしてた。子供から見ても恥ずかしいくらいのラブラブ夫婦だ。
「善照にも、いつかそんな子が見つかるわよ」
「……ほんと?」
「そうよ。その子に会うために、見つけるために、色んな女の子を見ているのよ。だから仕方ないの」
ばあちゃんみたいに優しくて、母さんみたいに綺麗で、話に聞くひいおばあちゃんみたいにしっかりしてる、俺だけの女の子。その子を見つけるために色んな女の子が気になってるのなら、うん。仕方ないよな。我妻の遺伝だし。
「そっかぁ……はやく会いたいな」
鼻をすすりながら呟いた俺を、母さんとばあちゃんが両側から撫でてくれた。家族だからってのもあるかもしれないけど、俺は二人とも大好きだ。こんな素敵な人と会えた父さんもじいちゃんも羨ましいと思った。
◆◇
「っていうことが昔ありましてね、俺はあなたが俺の運命の人だと思うわけですよ!」
「はぁ……」
かれこれ小一時間。私の目の前で熱弁をふるう少年は、全くもって知らない子、のはず。彼が纏う制服は、この近くの高校のものだったろうか。けれどその高校に行ったこともなければ高校生の知り合いも親戚もいない、うん。やっぱり知らない子だ。
ショッピングモールのフードコートで時間を潰していた私のテーブルに勝手に相席してきたと思ったら、いきなり「俺と付き合ってください!」ときたもんだ。それから前述の、えーと女好き遺伝?とやらについて語り始めた。なんなんだこの子は。
「えーと、我妻くんだっけ?」
「我妻善照!十七歳!高二です!」
「はいお静かに。君は私のどこが気に入って告白なんてしてきたの?」
ほんともう、純粋に疑問である。私は目を引く美人な訳でもないし、特に今日は服も髪も適当だしメイクもしてない。なんならマスクもしてる。恋に落ちるどころか、気になることも無いであろうモブ中のモブだと思うのに。不思議に思う感情のままに首を傾げて我妻くんを見ると、お互い座っているのに視線を合わせるには少し上を見なければならないことに気がつく。この子結構背が高いのかな。
「え、あ、あの……」
さっきまでの熱弁はどこへやら、急に顔を真っ赤にしてもじもじし始めた。その反応は告白する前にするべきだよ少年。
「遠くから見えた時から、なんとなく、気になったといいますか……」
「……へー?」
遠くから見て気になるってなんだ。そんなことあるんだろうか。後付けの言い訳にも聞こえる。けど。
「近くに来たら、なんかもうドキドキするし」
「……そう」
そう言う我妻くんの顔は、やっぱり真っ赤で。だからこそ今の発言に信憑性がある。この子は嘘を言ってない、そう思えるほどに。
「声をかけて、目が合ったら、周りの色が消えたみたいに、ナオさんだけしか見えなくて」
「う、うん」
あ、なんかだめだ。釣られてドキドキしてきた。しっかりしなさい私、こんないくつも年下の男の子にドキドキさせられるなんて。
「気づいたら、告白してました。……これ、運命ですよね?少なくとも俺はそう信じてますけど!」
「なるほど……?」
「というわけで!運命なんで付き合ってください!」
最初は目をつぶってぶつけてきた告白を、今度は目を合わせて逸らさないまま、またしても強くぶつけられる。その勢いは、ドキドキしている心臓をときめきと認識させるには充分で。
「えーと、我妻くん」
「善照です!!」
「……善照くん」
「はい!!」
うーん、元気がよろしい。若い。眩しい。悔しい。おとされてしまった。
「とりあえず、連絡先交換でも、する?」
「……!!ぜひ!!お願いしますぅ!!」
「はいお静かに。……よろしくね」
フードコートのテーブルの上、お互いのスマホにお互いの名前が表示されるのを見て、目を合わせて笑った。
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