鬼滅短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
とん、たん。俺の耳が、微かな軽い足音がゆっくりと近づいてくるのを捉えた。この音が聞こえると、あのにがーいまずーい薬を飲まなくちゃいけないんだなっていう憂鬱感と、あの子に会えるなっていう期待感が全身をじわじわ満たして擽ったいような心地がする。
最初はあの薬が嫌だった。蜘蛛の毒で小さくなった手足を治すため必要なのはわかってるけれど、この世のものとは思えないくらいくそ不味い。でも今は、ちょっと薬の時間が楽しみになってきてる。いや薬を飲むのは今でも好きじゃない、けど。
「我妻さん、お薬の時間ですよ」
「ぅええ!?もうそんな時間なの!?」
一声かけてから病室に入ってくる女の子に、わざとらしく「今気づきました」みたいな態度をとる。そんな俺を見ると、彼女は口元を隠して小さく笑う。かわいい。俺が薬を飲んだか飲んでないか分からなくなって騒いでたら、薬の時間にはナオちゃんが確認してくれるようになった。この子が来てくれるから、俺は薬の時間が嫌いじゃあ無くなった。
お薬ですよと渡された湯呑みには、相変わらずちょっと形容しがたい色の液体が入っている。においを嗅いでしまうと怖気付いてしまいそうなので、息を止めて一気に飲む。不味い。
「ぅ、うえぇええ……」
「やっぱり美味しくありませんよねぇ」
お口直しにどうぞと差し出された小さな菓子を、食わせてくれとばかりにかぱっと口を開けると、苦笑しながらもその細い指でころりと放り込んでくれた。甘い。かなり甘い。薬のえぐみを塗り替えるような強烈な甘さが、今は有難い。
ナオちゃんは、優しい。くそ不味い薬を飲む俺に、毎回こうして口直しと称した甘いものをくれる。優しさに甘えて食べさせて貰おうとしたら、ほんとに食べさせてくれた。は?優しすぎる。こんなに俺に優しいなんて、もう俺の事好きなんじゃない?
「我妻さん、手を出してください」
「はぁい!」
いそいそとだぶついた袖を捲って短い腕を出すと、これまた縮んでる俺の手にナオちゃんの柔い手のひらが重なる。ぴたりと重ねたのは大きさを確認するためだ。小柄な女の子だけど、縮んだ俺の手より彼女の手の方が大きい。白くて細い指が俺の指先からしっかりと見えた。
今まで俺の方から女の子の手を握った事は何度もあるけれど、女の子の方から触れられることなんてあったっけ。無かったかも。いや自分で思い出しても虚しいな……ともかく、この子は自ら俺の手に触れてくれるのだ。これはもう、確定だろう。この子は俺の事が好きに違いない。
「少し手が大きくなった気がしますねぇ」
「そう?あんま変わった気がしないんですけど」
「ちゃんと変わってますよ、お薬の効果が出ている証拠ですね!」
そう言って離れていく手を握りたい、握りたいけれど今の俺の手は小さい。今まで幾度となく女の子の手を握って勢いのままに求婚してきたけれど、いくらなんでも今は格好つかな過ぎる。
「ではそろそろ失礼します。ゆっくり休んでくださいね」
「ええーもう行っちゃうの?もう少しお話したいなあ」
「ふふ、またお薬の時間に来ますよ」
口元に手を添えて笑う彼女から聞こえる音は、弾むような明るい音。悪い感情の音じゃない。こんな音をさせて俺に接してくれる女の子なんて、今まで居なかった。初めてだ。
部屋から出ていく彼女を見送り、ぼすんと寝台に寝転んだ。袖から出したままの手を天井に翳して小さな手を見る。不格好に短い指。毒でどす黒く色が変わっていた所は、少し薄れた気がする。彼女の言う通り、あの薬が効いているんだろう。なら、このまま薬を飲み続けて元に戻ったら。あの子はもう俺のところに来なくなるのか。
「……それなら、捕まえなきゃいけないじゃん」
元に戻った足で立って、腕を伸ばして、手を握って。これからの人生でも一緒に居てくれるように、捕まえなきゃ。
「まずは薬を飲まねえとなぁ……」
不味いまずーい薬だけど、俄然飲む気が出てきた。飲んで、治して、絶対にあの子と結婚するんだ。
気合いを入れてぐっと握った拳は、少しだけ、さっきより大きくなったような気がした。
最初はあの薬が嫌だった。蜘蛛の毒で小さくなった手足を治すため必要なのはわかってるけれど、この世のものとは思えないくらいくそ不味い。でも今は、ちょっと薬の時間が楽しみになってきてる。いや薬を飲むのは今でも好きじゃない、けど。
「我妻さん、お薬の時間ですよ」
「ぅええ!?もうそんな時間なの!?」
一声かけてから病室に入ってくる女の子に、わざとらしく「今気づきました」みたいな態度をとる。そんな俺を見ると、彼女は口元を隠して小さく笑う。かわいい。俺が薬を飲んだか飲んでないか分からなくなって騒いでたら、薬の時間にはナオちゃんが確認してくれるようになった。この子が来てくれるから、俺は薬の時間が嫌いじゃあ無くなった。
お薬ですよと渡された湯呑みには、相変わらずちょっと形容しがたい色の液体が入っている。においを嗅いでしまうと怖気付いてしまいそうなので、息を止めて一気に飲む。不味い。
「ぅ、うえぇええ……」
「やっぱり美味しくありませんよねぇ」
お口直しにどうぞと差し出された小さな菓子を、食わせてくれとばかりにかぱっと口を開けると、苦笑しながらもその細い指でころりと放り込んでくれた。甘い。かなり甘い。薬のえぐみを塗り替えるような強烈な甘さが、今は有難い。
ナオちゃんは、優しい。くそ不味い薬を飲む俺に、毎回こうして口直しと称した甘いものをくれる。優しさに甘えて食べさせて貰おうとしたら、ほんとに食べさせてくれた。は?優しすぎる。こんなに俺に優しいなんて、もう俺の事好きなんじゃない?
「我妻さん、手を出してください」
「はぁい!」
いそいそとだぶついた袖を捲って短い腕を出すと、これまた縮んでる俺の手にナオちゃんの柔い手のひらが重なる。ぴたりと重ねたのは大きさを確認するためだ。小柄な女の子だけど、縮んだ俺の手より彼女の手の方が大きい。白くて細い指が俺の指先からしっかりと見えた。
今まで俺の方から女の子の手を握った事は何度もあるけれど、女の子の方から触れられることなんてあったっけ。無かったかも。いや自分で思い出しても虚しいな……ともかく、この子は自ら俺の手に触れてくれるのだ。これはもう、確定だろう。この子は俺の事が好きに違いない。
「少し手が大きくなった気がしますねぇ」
「そう?あんま変わった気がしないんですけど」
「ちゃんと変わってますよ、お薬の効果が出ている証拠ですね!」
そう言って離れていく手を握りたい、握りたいけれど今の俺の手は小さい。今まで幾度となく女の子の手を握って勢いのままに求婚してきたけれど、いくらなんでも今は格好つかな過ぎる。
「ではそろそろ失礼します。ゆっくり休んでくださいね」
「ええーもう行っちゃうの?もう少しお話したいなあ」
「ふふ、またお薬の時間に来ますよ」
口元に手を添えて笑う彼女から聞こえる音は、弾むような明るい音。悪い感情の音じゃない。こんな音をさせて俺に接してくれる女の子なんて、今まで居なかった。初めてだ。
部屋から出ていく彼女を見送り、ぼすんと寝台に寝転んだ。袖から出したままの手を天井に翳して小さな手を見る。不格好に短い指。毒でどす黒く色が変わっていた所は、少し薄れた気がする。彼女の言う通り、あの薬が効いているんだろう。なら、このまま薬を飲み続けて元に戻ったら。あの子はもう俺のところに来なくなるのか。
「……それなら、捕まえなきゃいけないじゃん」
元に戻った足で立って、腕を伸ばして、手を握って。これからの人生でも一緒に居てくれるように、捕まえなきゃ。
「まずは薬を飲まねえとなぁ……」
不味いまずーい薬だけど、俄然飲む気が出てきた。飲んで、治して、絶対にあの子と結婚するんだ。
気合いを入れてぐっと握った拳は、少しだけ、さっきより大きくなったような気がした。
15/36ページ