鬼滅短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
前世の記憶なんてものは、厄介以外の何物でもないなと思う。そんなものがなければわたしは。
「君が好きです!!俺と付き合ってください!!」
わたしの目の前でたんぽぽのような頭を勢いよく下げる彼の告白を、喜んで受け入れることができたのに。
こっそりと胸の内だけでため息をついて、断りの言葉を告げる。
「ごめん、好きな人がいるから」
「うそぉ!?だって君の音……いや、好きな人って誰!?」
かばっと上げた顔は、驚きかショックか。見開かれた目に涙の膜が張り、頬を青ざめさせて大きく声を上げた。
やっぱり耳がいいんだなぁ、わたしの感情なんて筒抜けなんだろうなぁ。わたしは彼が好きだけれど、でも違うのだ。わたしが好きなのは、彼であって彼でない。
「我妻くんの、知らない人だよ」
そう、彼は知らない。
わたしが好きだった頃の我妻善逸を。
前世でわたしに好きだ結婚してくれと泣きついて、弱い守ってと影に隠れ、それでもいざと言う時には煌めく一閃でわたしを守ってくれた彼を。お前が好きだよと泣きながら笑った彼を。
前世の記憶がない彼は、わたしが愛した彼とは違うのだ。もしわたしにも前世の記憶がなかったなら、きっとこの告白を受け入れて、彼の隣で幸せに笑えたのだろう。けれど。
「ごめんね」
重ねて告げて、傷ついた顔を見るのが辛くて踵を返す。
ああ、善逸に、会いたい。
◆◇
俺は初めて見た時から心臓を鷲掴みにされたように、彼女の、ナオちゃんの虜だった。なんでかはわからない。けれど、それまでにちょっといいなと思った女の子なんて目じゃないくらい、ひと目で恋に落ちてしまった。
なんとか接点を作って話しかけたりしたけれど、なかなか上手くいかなくて、それでも焦がれる気持ちを止められずに告白をした。なにも勝算がなかったわけじゃない。ナオちゃんからは、押さえつけたような恋の音がしていたから。
「君が好きです!!俺と付き合ってください!!」
「ごめん、好きな人いるから」
精一杯の告白をした俺に、直ぐに聞こえたのは断る声。それに、やっぱり押さえつけたような、苦しそうな恋の音だった。
きっとナオちゃんは俺のことが好きなんだと思う。自惚れじゃなく、何度も何度も耳をすませて彼女の音を聞いて確かめたのだから。けれど好きな人は誰かと問えば、俺の知らない人だという。なんだそれは。俺がもうひとりいるとでも言うのか。目に涙が浮かんでくるのがわかるけど、そんなことはお構い無しに彼女を見つめた。
「ごめんね」
そう言ってくるりと背を向ける瞬間のナオちゃんは、俺の心と同じくらい辛そうな顔をしていた。
◆◇
俺の告白は砕け散った訳だけれど、後日ナオちゃんが言った『俺の知らない好きな人』の正体を知ることになった。
今年は早く咲いた桜が既に散り、まばらな花を残す木の下で今日入学したばかりの新入生が歩いている。遠目にも目立つピアスを揺らしている新一年生を、曲がりなりにも風紀委員をしている俺は見過ごすことが出来なかった。冨岡先生に見つかる前に注意しておいてやろうと近づく。
その目立つピアスが、色形まで分かるくらいに近づいた時。花びらの名残を吹き飛ばすような風が吹いて、特徴的な花札が揺れた。
「たん、じろ……?」
「善逸も生まれ変わっていたんだな!久しぶりだ!」
初めて会うその後輩を、俺は知っていた。
……知っていたもなにも、思い出した!そうだよ炭治郎だよ!思い出した!前世のこと、俺のことも……ナオちゃんのことも!
相変わらず前世と同じ太陽みたいな笑顔で駆け寄る炭治郎に、ごめんあとで、と叫んで駆け出した。今すぐ彼女に会わなければいけないんだ。
「……なん、っで!忘れてたんだ俺……!!」
そりゃ一目惚れもするはずだ、なんせ前世から世界で一番好きなんだから。
走って走って、探していた姿を見つけて大声で彼女の名前を呼んだ。驚いて振り返る彼女を見て、今世で溜め込んだ恋心に前世での愛おしさが上乗せされて、涙が溢れた。それでも、彼女を思い出せて、目が合ったことが嬉しくて笑みがこぼれる。
「……っねえ!俺は、お前が好きだよ!!ずっと前から、前世から!!」
叫んだ俺に驚いた顔を向けていたナオちゃんが、そのままの表情でぼろぼろと涙を零し、遅れて顔をくしゃりと歪めて、俺に向かって走り出した。俺も走っていって飛び込んできた彼女を受け止め、そのまま抱きしめる。
「……おそい、遅いよ善逸!」
「ごめん、ナオちゃん、ほんとごめんねぇ……」
ああやっぱり、彼女は前世の記憶があったんだ。それじゃあ彼女の好きな人っていうのは、もしかして、前世からずっと好きでいたのか。好きでいてくれたのか。
「わたしだって、ずっと。善逸が好きだよ」
苗字ではなく、前世と同じように俺を呼ぶナオちゃんが俺の疑問に答えをくれた。泣きながらも綺麗に笑う彼女からは、もう押さえられていない恋の音が聞こえた。
「君が好きです!!俺と付き合ってください!!」
わたしの目の前でたんぽぽのような頭を勢いよく下げる彼の告白を、喜んで受け入れることができたのに。
こっそりと胸の内だけでため息をついて、断りの言葉を告げる。
「ごめん、好きな人がいるから」
「うそぉ!?だって君の音……いや、好きな人って誰!?」
かばっと上げた顔は、驚きかショックか。見開かれた目に涙の膜が張り、頬を青ざめさせて大きく声を上げた。
やっぱり耳がいいんだなぁ、わたしの感情なんて筒抜けなんだろうなぁ。わたしは彼が好きだけれど、でも違うのだ。わたしが好きなのは、彼であって彼でない。
「我妻くんの、知らない人だよ」
そう、彼は知らない。
わたしが好きだった頃の我妻善逸を。
前世でわたしに好きだ結婚してくれと泣きついて、弱い守ってと影に隠れ、それでもいざと言う時には煌めく一閃でわたしを守ってくれた彼を。お前が好きだよと泣きながら笑った彼を。
前世の記憶がない彼は、わたしが愛した彼とは違うのだ。もしわたしにも前世の記憶がなかったなら、きっとこの告白を受け入れて、彼の隣で幸せに笑えたのだろう。けれど。
「ごめんね」
重ねて告げて、傷ついた顔を見るのが辛くて踵を返す。
ああ、善逸に、会いたい。
◆◇
俺は初めて見た時から心臓を鷲掴みにされたように、彼女の、ナオちゃんの虜だった。なんでかはわからない。けれど、それまでにちょっといいなと思った女の子なんて目じゃないくらい、ひと目で恋に落ちてしまった。
なんとか接点を作って話しかけたりしたけれど、なかなか上手くいかなくて、それでも焦がれる気持ちを止められずに告白をした。なにも勝算がなかったわけじゃない。ナオちゃんからは、押さえつけたような恋の音がしていたから。
「君が好きです!!俺と付き合ってください!!」
「ごめん、好きな人いるから」
精一杯の告白をした俺に、直ぐに聞こえたのは断る声。それに、やっぱり押さえつけたような、苦しそうな恋の音だった。
きっとナオちゃんは俺のことが好きなんだと思う。自惚れじゃなく、何度も何度も耳をすませて彼女の音を聞いて確かめたのだから。けれど好きな人は誰かと問えば、俺の知らない人だという。なんだそれは。俺がもうひとりいるとでも言うのか。目に涙が浮かんでくるのがわかるけど、そんなことはお構い無しに彼女を見つめた。
「ごめんね」
そう言ってくるりと背を向ける瞬間のナオちゃんは、俺の心と同じくらい辛そうな顔をしていた。
◆◇
俺の告白は砕け散った訳だけれど、後日ナオちゃんが言った『俺の知らない好きな人』の正体を知ることになった。
今年は早く咲いた桜が既に散り、まばらな花を残す木の下で今日入学したばかりの新入生が歩いている。遠目にも目立つピアスを揺らしている新一年生を、曲がりなりにも風紀委員をしている俺は見過ごすことが出来なかった。冨岡先生に見つかる前に注意しておいてやろうと近づく。
その目立つピアスが、色形まで分かるくらいに近づいた時。花びらの名残を吹き飛ばすような風が吹いて、特徴的な花札が揺れた。
「たん、じろ……?」
「善逸も生まれ変わっていたんだな!久しぶりだ!」
初めて会うその後輩を、俺は知っていた。
……知っていたもなにも、思い出した!そうだよ炭治郎だよ!思い出した!前世のこと、俺のことも……ナオちゃんのことも!
相変わらず前世と同じ太陽みたいな笑顔で駆け寄る炭治郎に、ごめんあとで、と叫んで駆け出した。今すぐ彼女に会わなければいけないんだ。
「……なん、っで!忘れてたんだ俺……!!」
そりゃ一目惚れもするはずだ、なんせ前世から世界で一番好きなんだから。
走って走って、探していた姿を見つけて大声で彼女の名前を呼んだ。驚いて振り返る彼女を見て、今世で溜め込んだ恋心に前世での愛おしさが上乗せされて、涙が溢れた。それでも、彼女を思い出せて、目が合ったことが嬉しくて笑みがこぼれる。
「……っねえ!俺は、お前が好きだよ!!ずっと前から、前世から!!」
叫んだ俺に驚いた顔を向けていたナオちゃんが、そのままの表情でぼろぼろと涙を零し、遅れて顔をくしゃりと歪めて、俺に向かって走り出した。俺も走っていって飛び込んできた彼女を受け止め、そのまま抱きしめる。
「……おそい、遅いよ善逸!」
「ごめん、ナオちゃん、ほんとごめんねぇ……」
ああやっぱり、彼女は前世の記憶があったんだ。それじゃあ彼女の好きな人っていうのは、もしかして、前世からずっと好きでいたのか。好きでいてくれたのか。
「わたしだって、ずっと。善逸が好きだよ」
苗字ではなく、前世と同じように俺を呼ぶナオちゃんが俺の疑問に答えをくれた。泣きながらも綺麗に笑う彼女からは、もう押さえられていない恋の音が聞こえた。
35/36ページ