鬼滅短編
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眠気がどんどんと増していく午後の授業。原因は腹を積載量いっぱいに満たしてしまったことと、面白みのない先生の呪文。いや実際呪文を唱えてるわけじゃねえんだろうけど。あんまり抑揚なく張りもなくつらつらと紡がれる言葉は、俺の興味を引くこともなく眠気を増幅させる要素でしかない。
耳を澄ますと、あちらこちらからゆったりほやんとした眠い音。クラスメイトの半数くらいは俺と同じように夢の扉を叩いてる。ああでも、真面目に起きてるやつも半数はいるんだな。みんな寝てるかと思ってた。
彼女も、起きてる。俺が陰ながら好意の矢印を向けるクラスメイトのひとりで、席替えで俺が運良く隣の席をゲット出来た女の子。ナオちゃん。ちらりと視線を向けると、背筋を伸ばしてしゃんと座り、その顔は黒板と手元を往復してノートをとっているようだ。偉い。偉すぎる。
「……えー、ここは次のテストの範囲になるので覚えておくように」
ここってどこだよ、聞いてなかったからわかんなかった。テストという言葉に反応した数人が少し音をざわつかせたけれど、誰も声を出すことなく授業は続く。
ナオちゃんの音に集中して耳を澄ます。他のクラスメイトと違ってざわついた様子もなく、落ち着いた柔らかくて綺麗な音が俺の耳に届いた。
(この音、好きだなぁ……)
好きな子だから音も好きなのか、音が好きだからナオちゃんのことも好きになったのか、どちらが先かはもうわからないけれど、俺は彼女の音が大好きだった。耳触りが良くて心に残る、まるで歌を聴いているかのような音。
そう、歌だ。他の人たちのただ鳴る音と違って、ナオちゃんから聞こえる音は歌みたいで、時折感情のアレンジや転調が入るその曲を聴くのが俺は大好きだ。どんな名曲よりも大流行のポップスよりもずっと聴いていたいくらいで、めちゃめちゃ気持ちよくて、先生の呪文とは別の理由で眠くなる。
(今日はテンポゆっくりめ……授業中だからかな?)
眠い頭で考えながら、ノートの隅、罫線を五線譜に見立てておたまじゃくしを泳がせていく。彼女から聞こえる音を聞こえるままに。耳に届く音はやっぱり気持ちよくて、もう瞼を持ち上げてらんない。やばい眠気がピークだ。どんなヒーリングミュージックだよありがとうおやすみなさい。手に持ったシャーペンはそのままに、頬杖をついた俺は極上の癒し効果に陥落して夢の国へと旅立ったのだった。
◆◇
「……我妻くん、授業終わったよ?」
浅い眠りの中にいると隣から声がして、その声が大好きな声だったもんだから意識が一気に浮上した。まだ寝たいと駄々をこねる瞼を無理やり持ち上げると、俺を覗き込む隣の席の女の子。やばい涎垂れてないよな?頬杖をついていた手で口元を覆ってあくびをひとつ、ついでに口周りを撫でる。よし、大丈夫。
「あー……寝てた」
「ふふ、知ってる」
いつの間にか先生のいなくなった教室は、何人かが机に突っ伏したり俺と同じように頬杖ついたりして夢の中にいる。まだ休み時間になったばかりのようだ。
「先生、テスト範囲とか言ってたよ。聞いてた?」
「えっ聞いてない」
授業中寝る前だって先生の話なんか聞いちゃいなかった。今話しかけてくれてるナオちゃんの音しか記憶にない。くすくす笑いながら俺の開きっぱなしの教科書に手を伸ばしてページを捲り、「この単元からこのページまでだって」と教えてくれる。その指先の細さと切り揃えられた爪の艶で全然頭に入ってこないから、とりあえずペンケースから付箋を出して貼っといた。
「あんがと、助かったわ」
「いーえーどういたしまして。……ねえ我妻くん」
「なぁに?」
ナオちゃんは変わらず心地よいその音を、少しリズムを早めて俺の手元を覗き込む。どきっと心臓が跳ねたのは不可抗力だ。手元、なんだろうと思って視線を移すと彼女の綺麗な指先がついと指したのはノートの隅。
「曲作ったりするの?」
好奇心の滲む弾んだ音、でもそれを聞くまでもなく、キラキラとした目で俺を見てる。
うわ、恥ずかしい。良かった画才も文才も無くて。どっちかあったならノートの隅にかかれていたのは彼女の顔や彼女を想ったポエムだったかもしれない。そんなん見られたら恥ずかしさで爆発四散してしまう。書いていたのが俺にしか聴こえてないだろう彼女の音だから、まだ救いがある。
そんな俺の羞恥を知ってか知らずか、ナオちゃんはにこにこと続ける。
「楽器とかできるの?」
「あ、うん。ピアノとか、ギターとか、色々」
「えーすごい!これはどんな曲なの?」
ワクワクとした気持ちまで音に乗せてくるから、たまんない、可愛い。
「……聴いてみる?」
きみから溢れる、俺にしか聴こえてないその歌を。ちょっと、いやかなり恥ずかしい、でもこれが今より仲良くなるきっかけになるなら。曲を作ったわけじゃないけれど、きみから聞こえる音に合わせて演奏するくらいならできるから。
「いいの?聴きたい!」
「いいよ。音楽室のピアノ借りれるかなぁ」
「放課後空いてるかな、今日行ってみる?」
「そうしよっか」
俺が書いた五線譜に乗る音をそのままに、けれど授業中よりだいぶ弾ませて「楽しみ」と笑いかける。その音がいつか、俺だけに向く恋の音になる日が来るだろうか。遠くない未来に、そうなったらいい、なんて。
耳を澄ますと、あちらこちらからゆったりほやんとした眠い音。クラスメイトの半数くらいは俺と同じように夢の扉を叩いてる。ああでも、真面目に起きてるやつも半数はいるんだな。みんな寝てるかと思ってた。
彼女も、起きてる。俺が陰ながら好意の矢印を向けるクラスメイトのひとりで、席替えで俺が運良く隣の席をゲット出来た女の子。ナオちゃん。ちらりと視線を向けると、背筋を伸ばしてしゃんと座り、その顔は黒板と手元を往復してノートをとっているようだ。偉い。偉すぎる。
「……えー、ここは次のテストの範囲になるので覚えておくように」
ここってどこだよ、聞いてなかったからわかんなかった。テストという言葉に反応した数人が少し音をざわつかせたけれど、誰も声を出すことなく授業は続く。
ナオちゃんの音に集中して耳を澄ます。他のクラスメイトと違ってざわついた様子もなく、落ち着いた柔らかくて綺麗な音が俺の耳に届いた。
(この音、好きだなぁ……)
好きな子だから音も好きなのか、音が好きだからナオちゃんのことも好きになったのか、どちらが先かはもうわからないけれど、俺は彼女の音が大好きだった。耳触りが良くて心に残る、まるで歌を聴いているかのような音。
そう、歌だ。他の人たちのただ鳴る音と違って、ナオちゃんから聞こえる音は歌みたいで、時折感情のアレンジや転調が入るその曲を聴くのが俺は大好きだ。どんな名曲よりも大流行のポップスよりもずっと聴いていたいくらいで、めちゃめちゃ気持ちよくて、先生の呪文とは別の理由で眠くなる。
(今日はテンポゆっくりめ……授業中だからかな?)
眠い頭で考えながら、ノートの隅、罫線を五線譜に見立てておたまじゃくしを泳がせていく。彼女から聞こえる音を聞こえるままに。耳に届く音はやっぱり気持ちよくて、もう瞼を持ち上げてらんない。やばい眠気がピークだ。どんなヒーリングミュージックだよありがとうおやすみなさい。手に持ったシャーペンはそのままに、頬杖をついた俺は極上の癒し効果に陥落して夢の国へと旅立ったのだった。
◆◇
「……我妻くん、授業終わったよ?」
浅い眠りの中にいると隣から声がして、その声が大好きな声だったもんだから意識が一気に浮上した。まだ寝たいと駄々をこねる瞼を無理やり持ち上げると、俺を覗き込む隣の席の女の子。やばい涎垂れてないよな?頬杖をついていた手で口元を覆ってあくびをひとつ、ついでに口周りを撫でる。よし、大丈夫。
「あー……寝てた」
「ふふ、知ってる」
いつの間にか先生のいなくなった教室は、何人かが机に突っ伏したり俺と同じように頬杖ついたりして夢の中にいる。まだ休み時間になったばかりのようだ。
「先生、テスト範囲とか言ってたよ。聞いてた?」
「えっ聞いてない」
授業中寝る前だって先生の話なんか聞いちゃいなかった。今話しかけてくれてるナオちゃんの音しか記憶にない。くすくす笑いながら俺の開きっぱなしの教科書に手を伸ばしてページを捲り、「この単元からこのページまでだって」と教えてくれる。その指先の細さと切り揃えられた爪の艶で全然頭に入ってこないから、とりあえずペンケースから付箋を出して貼っといた。
「あんがと、助かったわ」
「いーえーどういたしまして。……ねえ我妻くん」
「なぁに?」
ナオちゃんは変わらず心地よいその音を、少しリズムを早めて俺の手元を覗き込む。どきっと心臓が跳ねたのは不可抗力だ。手元、なんだろうと思って視線を移すと彼女の綺麗な指先がついと指したのはノートの隅。
「曲作ったりするの?」
好奇心の滲む弾んだ音、でもそれを聞くまでもなく、キラキラとした目で俺を見てる。
うわ、恥ずかしい。良かった画才も文才も無くて。どっちかあったならノートの隅にかかれていたのは彼女の顔や彼女を想ったポエムだったかもしれない。そんなん見られたら恥ずかしさで爆発四散してしまう。書いていたのが俺にしか聴こえてないだろう彼女の音だから、まだ救いがある。
そんな俺の羞恥を知ってか知らずか、ナオちゃんはにこにこと続ける。
「楽器とかできるの?」
「あ、うん。ピアノとか、ギターとか、色々」
「えーすごい!これはどんな曲なの?」
ワクワクとした気持ちまで音に乗せてくるから、たまんない、可愛い。
「……聴いてみる?」
きみから溢れる、俺にしか聴こえてないその歌を。ちょっと、いやかなり恥ずかしい、でもこれが今より仲良くなるきっかけになるなら。曲を作ったわけじゃないけれど、きみから聞こえる音に合わせて演奏するくらいならできるから。
「いいの?聴きたい!」
「いいよ。音楽室のピアノ借りれるかなぁ」
「放課後空いてるかな、今日行ってみる?」
「そうしよっか」
俺が書いた五線譜に乗る音をそのままに、けれど授業中よりだいぶ弾ませて「楽しみ」と笑いかける。その音がいつか、俺だけに向く恋の音になる日が来るだろうか。遠くない未来に、そうなったらいい、なんて。
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