歌仙兼定
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雪の重みで折れたらしい枝が、痛々しく垂れ下がっていた。けれどその枝先には、春を待つ濃い赤色の蕾がいくつも見えていた。木の健康のためには枝を切り取らなければならないけれど、そうしてしまうにはこの静かな命が可哀想だった。
「このままじゃだめだけど……そうだ」
独り言を呟き、まずは問題の枝を切り取る。脇芽の出るところまで切り戻し、桑名が門外だと文句を言いながらも用意してくれた樹木用の薬液を塗った。
私の手元に残ったのは、折れてなお蕾を育む桜の枝。
「待っててね、引越しをしよう」
枝にこの声を聞く魂は宿っていないかもしれないけれど、つい声をかけてしまうのは職業病か。
執務室に近い渡り廊下の、南に向いた縁側に通路を塞ぐような大きな水盤を引っ張り出してきた。中央に剣山を置き池の水を流し入れ、持った桜の枝をざっくりと生ける。
「なにをしているんだい」
「おや歌仙」
背後から声がかかり、振り返ると見慣れた近侍がいる。生け花と呼ぶのも烏滸がましい行為を見られてしまった。自他ともに認める風流を愛する雅なこの男は、私の初期刀だ。
「春に焦がれる小さなフレンズを、本丸一の早春ちほーにご招待していた」
ほら、と暖かな陽射しを浴びる桜の枝を指す。
ぬくぬくと生けられている桜は、きっと花を咲かせることはできるだろう。
「言葉選びは最低最悪だが、きみはたまに、本当にごくたまに雅なことをするね……」
「お褒めいただき恐悦至極」
歌仙は私を抱き込むように後ろから両手を伸ばし、私が生けた枝の角度を少し直した。ほんの少しの差なのに、私が生けた時よりも随分よく見えるから不思議だ。この少しの差が雅さの違いなのだろうか。
「美人にしてもらったね」
「おや、わかるのかい?」
僕の手にかかればこんなものだよ、とわかりやすく得意げになるところは、長くある刀ではあっても人の身としては幼いからなのか、とても可愛い。言うと怒るから言わないけれど。
背中に感じる温もりに身を預けると、目の前の桜よりも強く春のような花の香りがした。
「この子が咲いたら二人でお花見しようよ、庭の桜よりきっと早いよ」
「いいねぇ、では僕は花見弁当でも作ろうか」
「やった!お酒注文しとくね!」
「飲むつもりかい」
「うん、精一杯楽しんでこの子を愛でてあげよう」
はぁ、と呆れたようなため息が頭上から降る。けれど私の両脇にいた腕がするりと巻きついてくるから、きっとこれは肯定だ。
「早く咲くといいねぇ」
「きっとすぐだ、本丸一の早春の場所なのだろう?」
「うん、早春ちほー」
くすくす笑う私にまたわざとらしくため息をつくけれど、抱きしめてくれる腕は柔らかく優しくて、幸せだなぁと思う。
早く、桜が咲きますように。