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ルームメイト氏の髪は短い。伸びるままに伸ばしている自分の髪とは違い、襟足なんて一ミリないんじゃない?たまに洗面所でバリカンで刈り上げてるのを見るくらいだし。いつも超短い。あらわになっている首、というかうなじは、ひょろりとした体格の通りに華奢だ。
(まーほっそい首ですこと。色も白いし……)
今の季節は夏。空調設備の整った寮内とはいえ、首周りのすっきりした涼しげな姿は少し羨ましい。それに、ルームメイト氏のうなじ見てると、ちょっと、なんか。
(……齧りたい)
浮かんだ自分の考えにぞっとして頭をぶんぶん振った。動きに合わせて無駄に長い髪がばさばさと音を立てる。同時に変な汗も吹き出したらしくて頬を叩いた髪が張り付いた。
ルームメイト氏は、いくら細くて中性的でも野郎、おなごじゃないんだぞ……いやいやそもそも女の子でも!僕がそんな、うなじを、かっかか齧りたいとか!ないない!そんなのおかしい!絶対にない!当社比だいぶ仲良くなったとはいえルームメイトを、か……齧りたい、だなんて。気持ち悪過ぎでしょ。
「どしたイデア」
「ひっ……!」
気づけばパソコンに向いていたはずのルームメイト氏がこっちを見てる。そりゃそうか、そんなに広くない部屋の中で奇行してたら嫌でも気になりますわ。誰だって気になる。拙者だって気になる。
ルームメイト氏がくるりとこちらを向いたおかげでうなじは見えなくなったけれど、変なことを考えていた自覚があるから目を合わせられない。そもそも拙者ひとと目を合わせるの苦手ですし?陰キャの引きこもりオタクを舐めないでいただきたい、同じ部屋で生活してたって目を見るのはハードルが高いんだからねっ。
じいっとこっちを見るルームメイト氏に、何も言えずあーとかうーとかか細い呻き声を上げる。なにか上手く言い訳をすればいいのにとは思うけど、視線を感じて混乱する頭は何も考えてくれない。
「イデア」
「ひっ、ごごごごめん!」
「っはは、なにがごめんなの」
反射的に謝ったら笑われた。笑い飛ばされたことでなんとなく気持ちが軽くなる。うちの寮にしては珍しく、このひとの笑い方は明るくて優しい。
キュルキュルとキャスターの音が鳴って、ルームメイト氏が座っていたチェアごと僕の方に移動してきた。
「髪くっついてる。暑いなら結んだろか?」
そう言って、返事も待たずに手を伸ばしてきた。結んでくれる気なんだろう。べつに暑いとかじゃないんですけど。情緒がアレで変な汗かいただけなんですけど。でも張り付いた髪をすくって頬に触れた指先がひんやりと気持ちよかったから、やっぱり暑いのかもしれない。
髪をまとめるために、耳や首筋を指先が撫でていく。その度に気持ちが少しずつ落ち着いていく。他人と接するのが苦手なはずなのに、いつの間にか触れられることにも慣れてしまった。それもこれも、世話上手なルームメイト氏が悪い。そう、ナオ氏が悪いんだ。
「……きみのさぁ、髪って短いじゃん」
「ん?そだね」
そんな短い髪してるから、無防備にうなじを晒すから。
「うなじがよく見えるから」
「だろうね」
「なんか齧りたくなって」
「ほう」
「……拙者いまとんでもないこと言ってる?」
「べつに普通じゃん?イデアだし」
責任転嫁して暴露したけど、ルームメイト氏はなんてことないように笑って普通だと言う。それで、なんか許されたような気になって、急に口が回りだした。
「はあ?ルームメイト氏の中の拙者の印象ってどうなってるわけ?普通ひとのうなじ齧りたいとか思わないでしょうよ」
「そう?」
「大体獣人でもあるまいし、なに?齧りたいって。それともオメガバでござるか〜?いつから二次創作の世界にトリップしちゃったの我々」
「突然の異世界転生うける。あと獣人に対する熱い風評被害」
「イメージの問題だよ」
「サバナ生にチクったろ」
「ヤメテ」
そんな会話をしている間に僕の髪を結い終えたらしく、ルームメイト氏の手が離れていった。重心的にどうやら高い位置で結ばれているみたいだ。鏡がないから知らんけど。首周りがすっきり涼しい。
「……でもまあ、ちょっとわかる」
「なにが?」
ルームメイト氏がぽつりと零した言葉に聞き返すと、返答より先に、さっき離れた手が戻ってきて僕のうなじを撫でた。なんなの?嫌がらせ?と思いながら振り返ると、ルームメイト氏はいたって真面目な顔してる。
「齧りたくなる、ってやつ」
そう言って、またキュルキュルとキャスターを鳴らしてルームメイト氏は自分のパソコンへと戻って行った。
「…………ふえぇ」
僕はポニーテールに結い上げられた髪の、それでも長い尻尾を掴んで守るように首に巻き付けた。